女性として生まれ、男性として生きる彼と、私が結婚した理由③
彼(田崎智咲斗)のプロポーズを承諾してから2週間ほどして、私は彼を連れて実家に行きました。彼と結婚することを決めたことを両親に伝えるためです。
両親には、「会ってほしい人がいるから連れて行く」とだけ伝えました。きっと両親は、結婚したい人を紹介するために連れてくるのだろうと予想したはずです。
私は、彼がトランスジェンダーであること、身体は女性だけれど、心は男性であること、そして数か月前に性別適合手術を受けたばかりであることは、両親には話していませんでした。
そもそも私は、彼がトランスジェンダーであることを両親に言うかどうか、彼に任せていました。彼が言いたければ言えばいいし、言いたくなければ言わなければいい。彼が結婚するのは私であり、私の両親にすべて話す必要はないと考えていたからです。
彼は、両親に会う当日まで、打ち明けるかどうか悩んでいました。でも、私は、彼は言いたいのだろうなと思っていました。
私は彼に言いました。「もしもあなたが自分の性のことを打ち明けて、そのことで私たちの結婚に反対されたら、それはそれで親の意見なので耳は傾けるけど、だからといって親の考えに従うつもりはないからね」。
ただ、私も内心、「両親は、LGBTQとか言われても何のことだかわからないだろうし、性別適合手術をしたばかりなんて聞かされたらびっくりするだろうな」とは思っていました。
私は両親ととてもよい関係でした。両親は私のことを信じてくれていました。進学や、恋愛など、人生の局面で両親、特に父に自分の選択について反対されたことは一度もありませんでした。父は、私のことをとことん信じ、でも、もしも何かあった時は、親としてできることをしてくれる人でした。
それでも、彼の性のことを知ったとき、父がどんな反応をするかは、私にもわかりませんでした。
両親に初めて会ったその日、彼はこれ以上ないくらい緊張していました。私は、彼は自分の性のことを言うことにしたのだなと思いました。
母は豪華な食事を用意して、私たちを歓迎してくれました。両親、そして私と彼の4人で、あれこれおしゃべりをし、和やかに食事を楽しみました。
食事を終えて少しして、彼は、改まった表情で両親に向き合いました。彼は、私と結婚したいと言いました。そして、続けて、自分がトランスジェンダーで、女性として生まれ育ってきたこと、しかし心は男性であること、つい数か月前に子宮や卵巣を摘出したことを話しました。
両親はじっと彼の話を聞いていました。表情が大きく変わることもありませんでしたが、それは驚きのあまり、表情が固まってしまったからなのかもしれません。
彼の話を聞き終えた父はすっと目を閉じました。その場に沈黙が訪れました。母は父のそばで、伏し目がちに、父の言葉を待っていました。
たぶん、1分か2分くらい経って、父親はふうっと息を一つ吐き出しながら目を開けました。そして、はっきりと言いました。「娘が決めたことだから、私は何も言うことはありません。田崎さん、娘をよろしくお願いします」。父は彼に向かって頭を下げました。
続いて、父のそばで父の言葉の意味をかみしめるように聞いていた母が言いました。「お父さんが決めたことだから私は何も言いません。田崎さん、娘をよろしくお願いします」。
この時、私は、「いつものお父さんとお母さんだ」と思いました。子どもを信じ、子どもの決めたことを応援し、親としての責任を果たそうとする。それが私の両親なのです。
もちろん、父も母も、すべてのことをすぐに受け容れられたわけではないでしょう。例えば母は、入籍を控えたある日、私に「田崎さんとの間には子どもはできないんだよね?」と確認するように聞きました。「私、子どもはいらないから」と私は母に答えました。母は「わかった」と言いました。
両親がLGBTQのことをどのように理解していったのか、今どれだけ理解しているのか、本当のところは子どもの私にもわかりません。ただ、結婚して7年ほどが経ちますが、両親と彼は、今とても仲良しです。
〈次回の投稿は10月26日の予定です。ここまでの妻の言葉に対して、私が感じたことを書きたいと思います(田崎)〉
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