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犬が得意でない早大生が犬好きの人に対して思うこと
犬はかわいい。
まぎれもない事実である。
しかし、どうにもわたしは犬が得意ではない。理由は体温を感じるからだ。触ったときのぬくもりから生命を感じるので、間違えて踏んづけてその命を奪ってしまわないか心配なのだ。だから、犬や猫くらいの大きさの動物は得意じゃない。そういうわけでわたしは、動物とは無縁の生活を送ってきた。
(ちなみに、羊くらい大きければ踏んづけることもないだろうし、ハムスターくらい小さければケージの中とか、人が踏んづけない場所で飼うだろうから、そのサイズの動物は大丈夫だ。一応念には念を入れて、体温を感じないクワガタしか飼ったことがない。牧場の福引きで当てたクワちゃん(享年?ヶ月)だ。体温を感じないので終始生きてるか死んでるかわからなかった。いつ死んだんだろう?)
とにかく、わたしは犬があまり得意ではないのだ。
こないだ駅前でワンちゃんのための募金活動をしている人たちを見かけた。殊勝な人たちだと思った。しかし、いまだにプレハブ住宅に住んでいる被災地の人々のためには声を上げないのに、犬のためにはあんなに大きい声を出せるのかと少し不思議に思った。別に犬を粗末に扱っていいわけはないのだが、なんかこう、わたしの価値観で測ると、犬より人の方が優先されるのだ。
この疑問を母親に話してみた。
「犬好きじゃないから私もわからないけど、犬を飼っている人は、自分の犬をまるで子供のように思っているみたいだよ。」と言われた。
「でも、自分の子供について『うちの子は頭もよくてイケメンで…』なんて言ったら敬遠されるだろうけど、自分の犬について『うちの子は賢いし、世界で一番かわいい』と言っている人は良く見かけるよ。子供自慢は許されないのに犬自慢はするの?これって犬を子供のようには思ってないってことでは?」
「…よそでは言わないようにね。」と八方美人な母にたしなめられた。
このような考え方を、犬を飼っている友人に話すと、たいてい「犬を飼うべき理由」を教えてくれる。ちなみに彼らが教えてくれるその理由は大きく分けて3つで、そのうちの2つは割と共感している。ずばり、「かわいい」「癒される」「幼いころから犬を飼っている子は優しい子になる」である。
…いや3個目どうした??
でもわかる気がする。そんなイメージある。動物に囲まれて育った心優しい子供…。確かに、飼い犬とのツーショット写真を見て、「この人冷たそう」と思うことはあまりなさそうだ。
彼らは決して、「犬を飼っている自分たちは、飼っていない君たちより優しい」と言いたいわけでも、「犬を飼ってない人は冷たい」と言いたいわけでもないだろう。
最近、Zoom中に犬が乱入してくることがある。その瞬間、議論は中断され、犬をかわいいとチヤホヤしなければならない時間が始まる。わたしは「いつ終わるかな…」とそわそわしてしまうが、それを態度に出すと、犬愛好家による「うちの犬が一番かわいい」談議に水を差してしまうので神妙にしている。しかし、そういうのはやっぱりバレる。そしてわたしは感じるのだ。「え、こんなにかわいいのに好きじゃないの?」という圧力を。
「犬を飼ってない人は冷たい」と言いたいわけではないだろうが、「犬をかわいがらない人は愛のない人だ」という風には思っていないだろうか?わたしは決して犬が好きな人を否定したいわけじゃない。素敵だと思う。しかし、「他人が好きなものを否定してはいけない」という暗黙のルールを順守する一方で、「『他人は、自分の好きなものが得意ではない』という状況を否定してはいけない」というルールに対しては緩怠ではないだろうか。別に「嫌い」だなんて言ってるわけでもないのに、「好き」を表明しなかっただけで急に居心地が悪くなる。お犬様に居場所を奪われるなんてまったく、哀れな人間である。I live in Edo.
つい先日から、スタバではプラスチックストローの代わりに紙ストローが提供されるようになった。環境保全の観点から、紙ストローを使うことは素晴らしいことで、プラスチックストローを使う人は地球のことを考えてないみたいな雰囲気を感じる。しかし、みんな「プラスチックストローの方が飲みやすかった」、「紙ストローで飲むと少しまずくなる」、「口の中で紙ストローが引っ付く」などと内心思っているはずだ。公にはプラスチックストローの方が良かったとは言えないけれど。
そんな感覚と似ている。犬を愛でるのは素晴らしいことだという雰囲気を感じ取り、それに逆らわないよう静かにしているが、静かにしていることが公に対する「好きではない」の表明と捉えられてしまって、無言の圧力をかけられる。そんな感じ。
犬が得意ではない人は、Zoomに犬が乱入して来たら、すぐにカメラをオフにしよう。
江戸時代の綱吉政権下、野良犬を過剰に愛でないと処罰されるから、人々は犬を見かけたら逃げていたらしい。
現代でも、犬を見たらとにかく逃げるしかない。Because, I live in "Edo".