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第15回「演出編④ 登場人物たち その2」~創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで


こんにちは!TARRYTOWN翻訳・訳詞・演出の中原和樹です。

今回のノートは引き続き演出編と題しまして、登場人物の分析 / 人物造形に焦点を当てていこうと思います。

今回考える基軸は「登場人物の行動の特徴」です。


前回のノートに書いた、登場人物の「事実」を台本から拾っていくというものに近く、その延長みたいなイメージです。

そのままずばり、台本に書いてある登場人物たちの行動の特徴 / 傾向のようなものを探していくという作業なのですが、ここでいう「行動」とは、一般的に言われている動き・行い・動作的な意味合いだけではなく、書かれているセリフも、行動として捉えます。

これは一つの演劇創作の考え方の流派的なものと思っていただければ良いのですが、この場合の行動とは大雑把に「誰かの何かを変える・変えようとするコト」だと定義しています。

何気ない日常の会話に見える台詞にも、限りなく小さいかもしれませんが、その人物の狙い / 意図 / 願いのようなものが内包されているという考え方です。

この解説を進めると、ディープな演技論のようなトピックになっていくので、いったんここでは改めて、

登場人物の行動の特徴を捉える・考える
=登場人物の台詞・行いの特徴を捉える・考える

ということだと認識していただければと思います。



実際に「TARRYTOWN」ではこのような感じになります。

【イカボッド】
・謝る言葉が多い
・空想の中に入り込む描写がある(空想の中に入り込んで行う行動がある)
・ミュージカル作品からイカボッドが引用する言い回しがいくつか存在する

【ブロム】
・イカボッドに対しての言葉遣いが変わっていく
(最初は失礼な言葉などが多い → 後半は砕けた言葉が多い)
・TARRYTOWNを肯定する言葉が多い
・少し回りくどいような、熟語的な言い回しが多い

【カトリーナ】
・イカボッドへの言葉とブロムへの言葉が違う
(イカボッドへは肯定的な言葉が多い 、ブロムへの言葉は否定的な言葉が多い)
・TARRYTOWNを否定する言葉が多い
・携帯電話を探す行動が多い

例として・・・

前回でも同じく、ここでも重要なことは、あくまで書いてあることをそのまま挙げていくということです。前回ノートの「事実」のピックアップと同じような作業です。機械的に挙げていくことで、台本の読み手(僕たち)が無意識のうちに読解・解釈の選択肢を狭めないようにします。

その上で、上記した特徴から自由に解釈を広げていきます。それぞれの解釈に質問を投げかけていきます。ここでの鍵は「なぜ」です。

その「なぜ」という質問に対して、色々な答えを考えてみます。

ここでのポイントは「登場人物がこういう性格だから」というような、性格 / 感情といったような漠然とした答えにしないことです。

なるべく具体的な選択肢を探していきます。

【イカボッド】
・謝る言葉が多い
→人が自分の言葉にどう思うか気になる?人付き合いが苦手?怒られることが怖い?嫌われることが怖い?謝るクセがつくような職業についていた?出会う相手(ブロムやカトリーナ)が威圧的?

・空想の中に入り込む描写がある(空想の中に入り込んで行う行動がある)
→空想によく入るクセがある?それとも回想に入るシーンがイカボッドにとって特別?回想に入ることで何かから逃げている?それとも回想に入ることで何かを得ようとしている?

・ミュージカルからの引用の言い回しがいくつか存在する
→ミュージカルが好き?ミュージカルに関係する職業についている?

【ブロム】
・イカボッドに対しての言葉遣いが変わっていく(最初は失礼な言葉などが多い → 後半は砕けた言葉が多い)
→イカボッドへの印象が変わる?イカボッドに対する意図 / 目的が変わる?

・TARRYTOWNを肯定する言葉が多い
→TARRYTOWNが好き?逆にこの町に自信が無いから?

・少し回りくどいような、熟語的な言い回しが多い
→そういう言い回しを行う職業?知性を誇示したい?

【カトリーナ】
・イカボッドへの言葉とブロムへの言葉が違う(イカボッドへは肯定的な言葉が多い 、ブロムへの言葉は否定的な言葉が多い)
→イカボッドには好意的、ブロムは嫌いなのか?イカボッドへの好意的な様子をブロムに当てつけたいのか?ブロムが行うことがカトリーナの価値観とあっていないから?ブロムを支配したい / わざと嫌な気持ちにしたい?

・TARRYTOWNを否定する言葉が多い
→TARRYTOWNが嫌い?TARRYTOWNの価値観があわない?TARRYTOWNに怨みがある?

・携帯電話を探す行動が多い
→よく物を無くす?よく物を(携帯を)どこかに置きっぱなしにする?それとも意図的?自分に注目して欲しい?


ちなみに、実は「登場人物の分析」とは別に「作者の意図」として、行動を考えることも出来ます。例えば、
携帯電話を探す行動が多い
=カトリーナが言いたいことを言えていない状況の比喩
という作者の意図かも、と考えられるということです。
ただこの場合も、カトリーナという人物がその比喩を行う意志は持っている必要がないので、カトリーナ目線での分析や解釈は必要となります。

全てに「なぜ?」という質問を投げかけて、答えを考えてみます

台本を読み進めていくと、自然と答えが絞られていくこともあります。その場合も、決めつけはせず、可能性が高い選択肢、可能性が限りなく低い選択肢、といったように分類していきます。

ほぼ不正解であるような選択肢も存在しますが、100%有りえないということにはしないようにしています。いつでも表現の幅を保ちたいというのと、アイディアがそこから湧いてくる可能性も有りうるからです。



前回と同じように今回でも重要なことは、決めつけをせずに想像力で選択肢を広げておくということでした。

より良い解釈や、ひいてはより良い表現に出会えるということを信じて、なるべくたくさんの観点・角度で台本を読み込み、選択肢を探していきたいからです。

次回はさらに別の観点として、
「楽曲を登場人物との関係で考える」
ということをしていきたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。

中原和樹


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