私が管理本部長だ! vol.3
おしゃれの境界線
「椿原くん、パンツが出ていますよ」
「ああ、これは腰パンなんで大丈夫ですよ」
ここ数年、こんな会話が増えてきている。
特に20代の従業員との会話に多いのだが、私にはその『大丈夫』の意味がよくわからない。
答えは未だに探し中なのだ。
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私は、月に一度は全店舗に顔を出すことにしている。
電話やメールだけの関係だと、知りたいことがよくわからなかったり、伝えたいことが思ったように伝わらなかったりすることがあるからだ。
だが、直接やりとりしたからこそ、余計にわからなくなることもあるのだ。
「武井さん、胸元のボタンが一つ外れていますよ」
「え?いえ、こういうものですよ」
「そうなんですか?ですが、それでは下着が少し見えてしまいます」
「ああ、大丈夫です。これ『見せブラ』ですから」
最近では『ブラジャーを見せる』というファッションがあるらしい。
*****
我が社は、一般的な企業と比べてかなり自由度が高い会社だ。
ピアスや茶髪なども、お客様や取引先に不快に思われない範疇であれば特にお咎めもない。
また、ここ数年では刺青を入れている従業員も増えてきた。
だが、それらの基準値もなかなか難しいものだ。
「巴山くん、肩や足首から刺青が見えてしまっていますよ」
「ああ、これは『タトゥー』なんで大丈夫ですよ」
「え・・・、刺青とタトゥーは同じですよね?」
「ええ~?違いますよ~!刺青は怖い人たちが入れるもので、タトゥーはおしゃれで入れるものですから」
「んー、、ですが、結局『彫り物』と言う意味では同じですし、その違いがわからずに、見て恐怖を感じる人もいるかと思いますよ」
「ははは!高良川さん!考えすぎですよ~。今はお客さんもみんな知ってますよ。この間なんて、結構年配の人と僕のタトゥーの話題で盛り上がっちゃったりしましたし」
そうなのか。。
ただ、少なくとも私にはその違いがわからない。。。
*****
一年に一度、8月から9月にかけてで、雇用契約の見直しをすることも私の仕事の一つだ。
その際には、全従業員の現状確認や今後の希望などをヒアリングするために、一人ずつ30分から1時間程度の面談を行っている。
そしてそこで得た情報は役員や営業方の上位職階者に報告をし、さらには、会社としての改善点が見つかった場合には改善依頼書を作成して個々に提出したりするのだ。
「白石さん、今日の面談の時には膝の上にハンカチか何かを置いて貰っても良いですか?」
「あ、はい!わかりました。私、今日スカート短すぎですもんね」
「そうですね。ちょっと目のやり場に困ってしまいます」
「ああ、でも大丈夫ですよ!私、このくらいのスカートはく時には『見せパン』をはいてますから。もし見えちゃったとしても気にしないでください」
女性のパンツが見えていて、それをまったく気にせずにいられる男性は果たしてどのくらいいるのだろうか。。。
*****
その日の東京は、昼過ぎにゲリラ豪雨に見舞われた。
私は、雇用契約の見直しのため15時から武井と面談だった。
「武井さん、今年一年で何か気になったこととかありますか?」
「んー、、仕事は結構充実していましたし、今のところ大きな不満は無いですね。。ただ・・・」
「・・・ただ、どうしました?」
「今日ゲリラ豪雨があったじゃないですか」
「はい」
「私、その時間はちょうど昼食で外に出ていて、店舗に帰っている途中で」
「はい」
「ゲリラに会っちゃったんです」
「あー、それは災難でしたね」
「いえ、別に濡れることはなんてことないんですけど・・」
伏し目がちにしゃべっていた武井は少し恥ずかしそうに顔を上げ、
「店舗に帰った時に男性スタッフたちが、「ちょっとブラジャー透けちゃってるよ」とか言うんです!そういうのって、セクハラだったりするんじゃないんですか!?」
と言った。
*****
私は、
「・・・そうかもしれませんね。本人たちには私からそれとなく注意しておきます。また後日、キチンと状況が変わったかどうかを聞きに行きますね」
と答えた。
私は管理本部長。
たくさんの従業員に様々な注意を促すが、正直、同情していることも多々あるのだ。
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