褒めることは自分と周りを幸せにする
人は褒められると喜びを感じるものです。
褒められたときの良い気分は、人間関係を円滑にし、少し面倒なことや嫌なことでも頑張れてしまう原動力になります。
ただし、褒め方にはちょっとしたコツがあり、むやみに褒め言葉を並べるだけでは、ポジティブな効果は期待できません。
褒めることのポジティブ効果
相手に自信とやる気を与えることができます。
人を動かすには、褒めることが大事です。
褒めることで相手に自信とやる気を与え、積極的に動いてくれるきっかけになるでしょう。
また、「人は他人に期待されると、期待されたとおりの成果を出す傾向がある」と言われます。
心理学の「ピグマリオン効果」と呼ばれるものです。
つまり、褒めるという行為は相手を動かすだけでなく、高い成果を上げるメリットが期待できるというわけです。
デール・カーネギーは名著『人を動かす』のなかで、人を動かすための三原則をまとめています。
そのひとつ「重要感を持たせる」こそがコミュニケーションのコツだとコミュニケーション総合研究所・代表理事の松橋良紀氏は述べています。
なぜならば、感謝したり、ほめたりすることで人に重要感を持たせると、
相手は「認めてくれた」と満たされモチベーションを高めるからです。
「あなたが必要ですよ」「あなたの頑張りはちゃんと見ていますよ」
という気持ちがしっかり伝わるよう相手をほめて、重要感を上げることが大切だと同氏はいいます。
齋藤孝氏の『運の教科書』に「ほめる門には福来る」という文章がありました。
大学の私のゼミにちょっと弱点のある学生がいました。
何かというとすぐ気分をくずしてしまうので、精神的にもっと安定させたほうがいいと思って、最初はいろいろ注意をしていました。
それでもあまり改善がみられなかったので、途中からほめることに方針を変えてみたのです。
するとまたたく間に明るくなって、みんなの前で積極的に発表もできるようになりました。
それをほめるとさらに自信をつけて、好循環が生まれ、バイト先でもものすごく評判がよくなったのです。
最終的には無事就職も決まって、ハッピーエンドとなりました。
私のゼミは「運」をよくするゼミではありませんが、好循環にはまっていくコツは教えることができます。
たとえば「明るさが大事だよ」とか「ジャンプして笑顔になろう」とか「相手のリクエストに応えていこう」
などと、ひとつひとつ丁寧に教えるのです。
中でも力を入れているのが「ほめること」です。
「ほめて、ほめて、ほめまくれば、ひとまず君らの人生は安泰だ」と教えています。
くだんのちょっと弱点のある学生も、私にほめられ、自分でも人をほめるようになり、「ほめ」の継承が好循環を生んで、「運」が回るようになりました。
私は「ほめる門には福来る」という標語をつくっています。
まさに「ほめは人のためならず」。 人をほめれば自分のためにもなるのだよ、という考え方に間違いはなかったと思っています。
惜しまず人をほめ、たたえる。 そうすると幸運の風が吹いてきます。
「身の回りにいる『運』がいい人を観察していると、みんな社会的ルールはわきまえている上に、機嫌がよくて愛想がいい人が多いように思います」(齋藤孝)
相手との関係が良好になる
褒めるという行為は相手を認めているという気持ちを表すので、褒められた側は自尊心を満たされ気分が良くなります。
人は自分に好意的な人には好印象を持ち、同じように好意的に接する傾向がありますし、
褒めてくれる人に対してネガティブな感情は抱きにくいものです。
自己肯定感が高まる
相手の良いところ探しが、褒める力をつけるのに必要なアクションになります。
良いところ探しの癖は自分に対しても同じなので、自己嫌悪に陥ったり、劣等感を抱くことが減り、自然と自己肯定感が高まります。
自己肯定感の向上は、前向きに人生を楽しむ原動力となるので、アップさせて損はありません。
多面的に物事を捉えられるようになる
褒めることは、自分以外の人を尊敬して、その人から何かを学ぼうとすることです。
自分とは異なる意見や価値観に遭遇して「私には思いつかなかったけど、こんな考え方もあるんだ」と受け入れることができます。
大人になると、どうしても考えが凝り固まったしまいがちですが、視野を広げたら新たな幸せが見つかるかもしれません。
自分の気持ちも前向きになる
あまり印象の良くない相手に対しても、粗探しをするのではなく、
良いところを見つけて褒めるということを意識して行うと、
自分の気持ちも自然と前向きになっていくものです。
褒めることで相手との関係が良好になり、感謝されれば、さらに気分が良くなるでしょう。
脳生理学者の有田秀穂氏は、著書『「脳の疲れ」がとれる生活術: 癒しホルモン「オキシトシン」の秘密』のなかで、
ほめるとオキシトシンが脳内に分泌されると述べています。
以前は女性だけのものと考えられていたこの脳内物質は、男性も年齢も関係なく分泌すると分かっています。
そのオキシトシンの効果はこのとおりです。
・人への親近感、信頼感が増す
・ストレスが消えて幸福感を得られる
・血圧の上昇を抑える
・心臓の機能を良くする
・長寿になる
同氏は人間の「心」が脳の前頭前野にあるといい、オキシトシンが分泌されると、その「心」を変えてくれるといいます。
つまり人をほめるだけで、その人自身の気持ちを安定させ、人に対する気持ちさえも変えてくれるということです。
褒めることは脳の栄養
人を褒めた時に、あなたはどういう気持ちになりますか。
私の場合は、相手が嬉しそうにしてくれると、自分が褒められたときと同じように嬉しく感じます。
さらに、褒められたときとは異なる、なんともいえない満足感というか充足感というようなものを感じることがあるのです。
なぜそのように感じるのでしょうか。
褒められた人は、脳内のA10神経が刺激されドーパミンが放出されることで強い幸福感に包まれるということがわかっています。
一方、褒める側の人については、意識して褒めるという行動そのものが
脳の大脳新皮質の前頭前野をフルに働かせているため脳が活性化するということがわかっています。
さらに、褒められて相手が喜んだり、やる気を出してくれている状態を見ると、
それを自分の行動の「成果」として実感するため、褒められた場合と同じように脳内にドーパミンが放出されやすくなるのです。
ドーパミンとは快感ホルモンであり、脳は強い快感を覚えます。
その快感を再び得るために頑張ろうとするので、A10神経は「やる気神経(または自己報酬神経群)」とも呼ばれています。
人を褒めることで脳が活性化して思考力が鍛えられる上に、前向きになってやる気もでるのです。
褒めることは脳に良い効果をもたらします。
褒めの報酬
誰かを褒めると、褒められた人は、あなたに好意を抱くととともに、他の人へもそのことを伝える可能性があります。
つまりあなたは「良い評判」を得ることになるのです。
もちろん、良い評判なんて必要ない、という方もいるかもしれません。
ですが良い評判がある人とそうでない人がいる場合、あなたはどちらと友人になりたいと思いますか。
おそらく、良い評判の人と友人になりたいと思うでしょう。
私たちが社会で生活をする上では、良い評判を得ることで仕事や活動がやりやすくなったり、
大きなチャンスを与えられる場合があるのです。
褒めるという行為は、一見相手のためのようですが、良い評価という形であなたへかえってきます。
そして、あなたの人生の可能性を拡げてくれるかもしれません。
専門家が伝えるほめ方テクニック
相手も自分も心地よく変化する「ほめ方」とは、どういったものでしょう。
社会心理学者の渋谷昌三氏は以下を伝えています。
・「また一緒にやりたいね」は最上級のほめ方
・「教えてください」もほめ方テクニックのひとつ
・「ほめながら聴く“聞き上手”になる」
・「みんなの前でほめる効果」
コミュニケーション総合研究所・代表理事の松橋良紀氏は、
ほめやすくなるよう以下の「ほめ言葉3S」をすすめています。
また、感謝の言葉「ありがとう」も大切だと述べています。
・「すごい」
・「すばらしい」
・「さすが」
ブルース・ドブキン教授を取材した医療ジャーナリストの市川衛氏が、
脳卒中リハビリの専門家から教えてもらった上手にほめる「3つのポイント」は以下のとおりです。
・「具体的」にほめよ
・「すかさず」ほめよ
・「目標は「低く」せよ
相手のどこを褒めるのか
努力や成果を褒める
特別なものでなく、小さなこと、日常的なことに注目して褒めましょう。
性格を褒める
内面の良さは、面と向かってわかりやすく褒められることが少ないものです。
だからこそ、その人の性格がどのように周囲を助けたり良い影響を与えたりしているかを、言葉にして褒めるようにしましょう。
行動を褒める
自ら進んで行動したことや、勇気を出して行ったことを褒めましょう。
相手のモチベーションが上がり、さらにポジティブな姿勢を導くのに役立ちます。
能力を褒める
「優れた発表をした」「資格を取得した」など。
明確な結果を出したときは絶好の褒めるタイミングです。
考え方・姿勢を褒める
考え方や目線、目のつけどころ、取り組む姿勢は、その人の個性が出るものです。新しい考え方、アイデアなどが出てきた場合は、積極的に褒めましょう。
NGな褒め方
評価する褒め方
上から目線で褒めると、相手に不快感を与えます。
以下のような褒め言葉は、上から目線と感じられる場合があります。
・「よくできたね」
・「いいと思うよ」
自分がその人について“いい”と思うことについて言及しているので、形式的には褒め言葉に当たりそうなのですが、
言い方によっては「自分が合格点をつけてあげる」「評価してあげる」というニュアンスになり、
相手に不快感を与える可能性があります。
褒める態度の基本は「尊敬・感動」です。
相手の様子や行動、存在を見て心を動かされ、「自分よりすぐれている」「見習いたい」という気持ちを伝えたい、
という動機が根底にあるかどうかが、大事なことだと思います
上から目線の褒め言葉を絶対に使わないほうがいいということはありません。
信頼する上司や尊敬する先輩から成長を褒められれば誰しもうれしいものです。
ただ、上から目線の褒め方は相手との信頼関係がないと「お前にそう言われても……」
といった感情を生み出してしまうこともあります。
上から目線の言葉を選びがちな人は、「ありがとう」「この結果はスゴイね」
といった言葉を使う習慣をつけることがおススメです。
過剰に褒める
過剰に褒める人は過剰に褒めるがゆえに「その人の価値=褒める」という印象になりやすいです。
つまり、褒めること以外の価値を獲得できなくなるために、
いざ褒めるのをやめたり、ためらうような状況になると、周囲から失望される&自身の価値喪失に焦るようになります。
その結果、人間関係でどことなく居心地の悪さというか、うまく噛み合っていないものを感じてしまい、失敗してしまうのです。
「本当はそうは思わない」のに褒める
「本当はそう思っていない」という本心が透けて見えると、相手は自分が馬鹿にされたように感じてしまうかもしれません。
褒め上手になるためには、大前提として、相手の長所を見つけるスキルを磨く必要がありそうです。
軽々しくお世辞を口にするよりも、まずは目の前の相手を「ポジティブな視点でよく観察する」ことを、習慣化しましょう。
「相手のペース」にお構いなく褒める
心理学では“ペーシング”といって、相手の声の大きさや話すスピード、
呼吸や表情などの調子を合わせることによって親和性が高まり、信頼関係を築きやすくなるといわれています。
「褒めることは、いいこと」という思い込みから、相手のペースをお構いなしに褒め続けると、
かえって相手から敬遠されてしまうおそれもあるでしょう。
何かと比較して褒める
「〇〇に引き換え、あなたはすごい!」と、何かを貶めながら持ち上げるのも、相手がリアクションに困ってしまう褒め方です。
人を褒めるために、わざわざ誰かを貶める必要はありません。
「〇〇ちゃんはすごいですね」「あなたのそういうところ私も見習いたいわ」など、
リスペクトの念をシンプルに伝えるほうが、相手は素直に喜べます。
褒める態度の基本は、「尊敬・感動」
尊敬がなければ、褒めは自分勝手なものになったり、相手を評価してしまいます。
また、感動がなければ、上辺だけの褒めになったり、見返りを求めてしまうのです。
褒めるということは、目の前の人、あるいはその周囲の人のためだけではありません。
自分にとっても良い影響を与えてくれているのです。
褒めることの効果がすぐに感じられなくても、いつか良い効果を感じられる日はきます。
褒めることは自分と周りの人に幸せをもたらしてくれます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
皆さまの幸せを祈っております。