隻脚転生〜松葉杖はチート武器だったらしい〜 第3話
第3話
「ででででは私は朝食のあっ、後片付けがありますからシンイチ様は部屋にもっ、戻ってください! 後で迎えに参りますからっ!」
いきなりまだ怯えたように落ち着きがなくなったな。と思いながらもシンディーを見つめる。
「わかったけど大丈夫か? また落ち着きがなくなってるぞ?」
「申し訳ありませんっ! じ、実は私男性に免疫がなくって2人きりになるとあがってしまうんです……」
「そうだったのか。まぁそんなに緊張することないからリラックスしてな。じゃあ俺は部屋に戻るから! じゃあな」
さっきまでは大丈夫だったのは俺以外にナタがいたからかと納得したが同時にこれから先が思いやられるな……と不安になった。
やることがないのは部屋に帰っても同じだが、これ以上ここにいてもシンディーが朝食の片付けをするのを邪魔してしまうと考えて、俺はひと足先に部屋に戻ることにした。
俺はホールへ来た道を戻り、部屋へと帰った。心なしかホールへ行った時よりも早かった気がする。松葉杖に慣れてきたということだろうか。
部屋に入ると特にやることもないのでベッドに寝転がり、天井を見上げる。するとふと元の世界の事を思い出す。今頃向こうの世界はどうなっているのだろうか。やはり正樹達に迷惑をかけてしまったのだろうか。今更になりバカなことをしなければよかったと後悔し、少しホームシックになる。
「シンイチ様、迎えに参りました」
感傷に浸っているとドアをノックする音とともにシンディーの声が聞こえたためベッドから起き上がり、部屋を出る。するとシンディーの姿があった。背中には大きな杖を背負っている。だがこの大きさと形状は杖というよりもはやショットガンだ。
「うわっ! 物騒なもの持ってるな……」
「私の射撃用の杖ですっ! 裏山で射撃練習をするとのことだったので持ってきました! 屋敷を出る時に忘れそうなので……じゅっ、準備はよろしいでしょうか?」
シンディーは危険はないと言うものの、間近で見るショットガン状の杖を嫌でも意識せざるを得ず、気になって仕方がない。
「おう! 早速行こうぜ!」
そういうと屋敷の中を周り始めた。屋敷は2階建てで2階へはホールの反対側のエントランスにある階段から上へあがることができる。また、エントランス側の廊下には中庭に出る事ができる扉もあった。1階には他にもキッチンや図書館、応接室などがある。2階へと上がると、自分がいた部屋と同じような部屋が多数あったが、その中にはナタやシンディーの寝室もあった。さらにナタとシンディー以外の部屋以外に空き部屋だけでなく他にも使用中の部屋がある。これは朝食の時に言っていた人達だろう。また、1、2階に共通してトイレが備え付けてある。
「でっ、では裏山に参りましょう! 射撃訓練は裏山で行います!」
ひと通りの屋敷の案内を終えると裏山へ向かうため、出入り口のあるエントランスへ歩き出した。屋敷の説明はシンディーが丁寧にしてくれたが、彼女は終始怯えた様子で俺との間に常に一定の間隔を保っている——時間が経てば改善されるとよいのだが。
エントランスへ着き、外へ出ると広い庭園へと出た。屋敷は生垣で囲まれている。道端の花壇には色彩豊かな花々が咲いており、そよ風がそれらの匂いを運ぶ。また、少し高い場所にあり、視界がひらけているため、麓の村はもちろん遠くの大きな町まで壮大な景色が一望できる。
庭園から出ると、すぐに狭い山道へと出た。足場が悪く、角度が急なためシンディーについて行くのがやっとだ。
それからしばらく行くとひらけた平坦な場所に出る。そこには先の見えない樹海を背に大きな岩が立ち並んでいた。
「着きました! ここが終点です!」
「こ、ここで……射撃練習するのか?」
「はい! ここには大小関わらず射撃の的にぴったりな多くの岩がありますから」
息を切らしながら尋ねると対称的に全く疲れの見えない声でシンディーが答える。
「では、手本を見せますね。あっ! 武器は違いますけど銃弾にエネルギーを使うこととかは同じなのでどう充填するかとかはほぼ一緒です」
そういうとシンディーは背負っていた杖を下ろして岩に向けて構えた。
「まずは自分の意識、精神を銃に集中させます! あっ、シンイチさんの場合は松葉杖ですけど」
すると段々とシンディーから漲る力が杖へと注がれ、エネルギーが充填されていくのがわかる。
「では! いきますっ!」
シンディーは引き金を引き、杖から出たエネルギーは光弾となり目にも留まらぬ速さで放たれる。放たれた光弾は岩を見事に貫き、岩を粉砕した。
——うおぉぉっ! スゲェ! 魔法をみるのは始めてじゃないけどやっぱり派手さが違うと興奮するなあ!?
興奮して全身の血が滾る。やっぱり異世界といえば魔法! こういう派手なのが見たかったんだよなあ!
「どうだったでしょうか……?」
「すごいよ! そんなに威力が出るなんて思っても見なかった! ナタが5本の指に入るって言ってたのもわかるよ」
「えへへ、うれしいです」
シンディーは赤面し、照れながらそう言った。
「それでは次はシンイチ様の番です」
「待って、俺エネルギーのコントロールとか魔法とか全くやったことないんだけど、できるものなのか?」
「ほ、本当ですか?このエネルギー社会でコントロールの術を知らないなんて……あなた様ほどのエネルギーを持っていながら……信じられません」
この世界ではエネルギーを魔法として使うのが当たり前だったことを思い出す。——確かにエネルギーの使い方知らないのは不自然だよな。かと言って俺が転生者だということはあまり言いたくない。
「あ、でもシンイチ様の場合は生体エネルギーではなく、死のエネルギーですもんね。私に違いはあまりわかりませんが、そこで違いがあるのかもしれませんね」
シンディーは都合よく勝手に解釈してくれた。正直どう説明するか悩んでいたからありがたい。
「それでは松葉杖を構えてください!」
俺はシンディーの指示を聞くと、右足の代わりに右手で持っている松葉杖で身体を支え、左手に持っている松葉杖を自分の正面にある大きな岩へと向けた。
「エネルギーによる魔法出力はイメージの世界に近いです。血液と同じようにエネルギーは常に身体を流れています。それをイメージしてください!」
俺は目を瞑って集中した。心臓から流れる血液は動脈を通って毛細血管へと行き渡り、静脈を通って心臓へと戻ってくる。それと同じことを頭の中でイメージする。
「イメージできたらその流れをエネルギーを放出したい一点。つまり松葉杖の方に集中します!」
松葉杖の先に流れを集中させるイメージを持つ。すると松葉杖の先がとてつもない力が集中している感覚になった。
「今です。放ってください!」
——これを喰らえ!
心の中でそう叫んだのと同時に、俺のエネルギーは松葉杖によって凝縮され、放たれた。ただ、シンディーのものとは似て異なるものだ。黒い閃光は的である巨大な岩を木っ端微塵に粉砕し、跡形もなくなってしまった。
シンディーの方を向くと、驚いて言葉も出ない様子だった。俺の閃光はシンディーの光弾の威力と同等以上の破壊力を持っていた。これを見て驚かないわけにはいかないだろう。正直これを出してしまった俺が一番反応に困っている。
これが死のエネルギーの力なのか。いや、それ以上にこのエネルギーの凝縮に耐えた松葉杖は一体何なのだろうか。俺はこの武器をチートと定義づけられずにはいられなかった。