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第21章 屋敷しもべ妖精解放戦線 2

12月が、風とみぞれを連れてホグワーツにやってきた。
冬になると、ホグワーツ城はたしかに隙間風だらけだったが、湖に浮かぶダームストラングの船のそばを通るたびに、ハリーは城の暖炉に燃える火や、厚い壁をありがたく思った。
船は強い風に揺れ、黒い帆が暗い空にうねっていた。

ボーバトンの馬車もずいぶんと寒いだろうと、ハリーは思った。
ハグリッドがマダム・マクシームの馬たちに、好物のシングルモスト・ウィスキーをたっぷり飲ませていることにも、ハリーは気づいていた。
放牧場の隅に置かれた桶から漂ってくる酒気だけで、「魔法生物飼育学」のクラス全員が酔っぱらいそうだった。
これには弱った。
なにしろ、恐ろしいスクリュートの世話を続けていたので、気を確かに持たなければならなかったのだ。

「こいつらが冬眠するかどうかわからねえ」
吹きっ曝しのかぼちゃ畑での授業で、震えている生徒たちに、ハグリッドが言った。
「ひと眠りしてえかどうか、ちいと試してみようかと思ってな……この箱にこいつらをちょっくら寝かせてみて……」
スクリュートはあと十匹しか残っていない。
どうやら、連中の殺し合い願望は、運動させても収まらないようだった。
いまやそれぞれが二メートル近くに育っている。

灰色のぶ厚い甲殻、強力で動きの速い脚、火を噴射する尾、棘と吸盤など、全部相まって、スクリュートはハリーがこれまで見た中で、一番気持ちの悪いものだった。

クラス全員が、ハグリッドの持ってきた巨大な箱を見てしょげ込んだ。
箱には枕が置かれ、フワフワの毛布が敷きつめられていた。
「あいつらをここに連れてこいや」
ハグリッドが言った。
「そんでもって、蓋をして様子を見るんだ」

しかし、スクリュートは冬眠しないということが、結果的にはっきりした。
枕を敷きつめた箱に押し込められ、釘づけにされたこともお気に召さなかった。
まもなくハグリッドが叫んだ。
「落ち着け、みんな、落ち着くんだ!」

スクリュートはかぼちゃ畑で暴れ回り、畑にはバラバラになった箱の残骸が煙を上げて散らばっていた。
生徒のほとんどが__マルフォイ、クラッブ、ゴイルを先頭に__ハグリッドの小屋に裏木戸から逃げ込み、バリケードを築いて立てこもっていた。
しかし、ハリー、ロン、ハーマイオニーをはじめ何人かは、残ってハグリッドを助けようとした。
力を合わせ、なんとかみんなで九匹までは取り押さえてお縄にした。
おかげで火傷や切り傷だらけになった。
残るは一匹だけ。

「脅かすんじゃねえぞ、ええか!」
ハグリッドが叫んだ。
そのときロンとハリーは、二人に向かってくるスクリュートに、杖を使って火花を噴射したところだった。
背中の棘が弓なりに反り、ビリビリ震え、スクリュートは脅すように二人に迫ってきた。
「棘んところに縄をかけろ。そいつがほかのスクリュートを傷つけねえように!」
「ああ、ごもっともなお言葉だ!」
ロンが怒ったように叫んだ。
ロンとハリーは、スクリュートを火花で遠ざけながら、ハグリッドの小屋の壁まで後退りしていた。

「おーや、おや、おや……これはとってもおもしろそうざんすね」
リータ・スキーターがハグリッドの庭の柵に寄りかかり、騒ぎを眺めていた。
今日は、紫の毛皮の襟がついた、赤紫色の厚いマントを着込み、ワニ革のバッグを腕にかけていた。

ハグリッドが、ハリーとロンを追いつめたスクリュートに飛びかかり、上から捻じ伏せた。
尻尾から噴射された火で、その付近のかぼちゃの葉や茎が萎びてしまった。
「あんた、だれだね?」
スクリュートの棘の周りに輪にした縄をかけ、きつく締めながら、ハグリッドが聞いた。
「リータ・スキーター。『日刊予言者新聞』の記者ざんすわ」
リータはハグリッドにニッコリしながら答えた。
金歯がキラリと光った。
「ダンブルドアが、あんたはもう校内に入ってはならねえと言いなすったはずだが?」
少しひしゃげたスクリュートから降りながら、ハグリッドはちょっと顔をしかめ、スクリュートを仲間のところへ引いていった。

リータはハグリッドの言ったことが聞こえなかったかのように振る舞った。
「この魅力的な生き物はなんて言うんざんすの?」
ますますニッコリしながらリータが聞いた。
「『尻尾爆発スクリュート』だ」
ハグリッドがブスッとして答えた。
「あらそう?」
どうやら興味津々のリータが言った。
「こんなの見たことないざんすわ……どこから来たのかしら?」
ハリーはハグリッドの黒いモジャモジャ髭の奥でじわっと顔が赤くなったのに気づき、ドキリとした。
ハグリッドはいったいどこからスクリュートを手に入れたのだろう?

どうやらハリーと同じことを考えていたらしいハーマイオニーが、急いで口を挟んだ。
「ほんとにおもしろい生き物よね?ね、ハリー?」
「え?あ、うん……痛っ……おもしろいね」
ハーマイオニーに足を踏まれながら、ハリーが答えた。
「まっ、ハリー、、ここにいたの!」
リータ・スキーターが振り返って言った。

「それじゃ、『魔法生物飼育学』が好きなの?お気に入りの科目の一つかな?」
「はい」
ハリーはしっかり答えた。
ハグリッドがニッコリした。
「すてきざんすわ」
リータが言った。

「ほんと、すてきざんすわ。長く教えてるの?」
こんどはハグリッドに尋ねた。
リータの目が次から次へと移っていくのにハリーは気づいた。
ディーン(頬にかなりの切り傷があった)、ラベンダー(ローブがひどく焼け焦げていた)、シェーマス(火傷した数本の指をかばっていた)、それから小屋の窓へ__そこには、クラスの大多数の生徒が、窓ガラスに鼻を押しつけて、外はもう安全かと窺っていた。

「まだ今年で二年目だ」
ハグリッドが答えた。
「すてきざんすわ……インタビューさせていただけないざんす?あなたの方生物のご経験を、少し話してもらえない?『予言者』では、毎週水曜に動物学のコラムがありましてね。ご存知ざんしょ。特集が組めるわ。この__えーと__尻尾バンバンスタートの」
「『尻尾爆発スクリュート』だ」
ハグリッドが熱を込めて言った。
「あー__ウン。かまわねえ」
ハリーは、これはまずいと思った。
しかし、リータに気づかれないようにハグリッドに知らせる方法がなかった。
ハグリッドとリータ・スキーターが、今週中のいつか別の日に、「三本の箒」で、じっくりインタビューをすると約束するのを、ハリーは黙って見ているほかなかった。

そのとき城からの鐘が聞こえ、授業の終りを告げた。
「じゃあね、さよなら、ハリー!」
ロン、ハーマイオニーと一緒に帰りかけたハリーに、リータ・スキーターが陽気に声をかけた。
「じゃ、金曜の夜に。ハグリッド!」
「あの人、ハグリッドの言うこと、みんな捻じ曲げるよ」
ハリーが声をひそめて言った。
「スクリュートを不法輸入とかしていなければいいんだけど」
ハーマイオニーも深刻な声だった。
二人はかを見合わせた__それこそ、ハグリッドがまさにやりそうなことだった。
「ハグリッドはいままでも山ほど面倒を起こしたけど、ダンブルドアは絶対クビにしなかったよ」
ロンが慰めるように言った。
「最悪の場合、ハグリッドはスクリュートを始末しなきゃならないだけだろ。あ、失礼……僕、最悪って言った?最善のまちがい」
ハリーもハーマイオニーも笑った。
そして、少し元気が出て、昼食に向かった。

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