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第16章 トレローニー先生の予言 4

ハリーとロンの最後の試験は「占い学」、ハーマイオニーのは「マグル学」だった。
大理石の階段を三人で一緒に上り、二階の廊下でハーマイオニーが去り、ハリーとロンは八階まで上がった。
トレローニー先生の教室に上る螺旋階段にはクラスのほかの生徒が大勢腰かけ、最後の詰め込みをしていた。
二人が座ると、「一人一人試験するんだって」と隣のネビルが教えた。
ネビルの膝には、「未来の霧を晴らす」の教科書が置かれ、水晶玉のページが開かれていた。
「君たち、水晶玉の中に、なんでもいいから、何か見えたことある?」ネビルは惨めそうに聞いた。
「ないさ」ロンは気のない返事をした。しょっちゅう時計を気にしている。
バックビークの控訴裁判の時間まであとどのぐらいあるかを気にしているのだと、ハリーにはわかった。

教室の外で待つ列は、なかなか短くならなかった。
銀色のはしごを一人ひとり降りてくるたびに、待っている生徒が小声で聞いた。
「先生になんて聞かれた?たいしたことなかった?」
全員が答えを拒否した。
「もしそれを君たちにしゃべったら、僕、ひどい事故に遭うって、トレローニー先生が水晶玉にそう出てるって言うんだ!」ネビルははしごを下り、順番が進んで踊り場のところまで来ていたハリーとロンの方にやってきて、甲高い声でそう言った。
「勝手なもんだよな」ロンがフフンと鼻を鳴らした。「ハーマイオニーが当たってたような気がしてきたよ」(ロンは頭上の撥ね戸に向かって親指を突き出した)「まったくインチキばあさんだ」
「まったくだ」ハリーも自分の時計を見た。もう二時だった。「急いでくれないかなぁ……」

パーバティが誇らしげに顔を輝かせてはしごを降りてきた。
「わたし、本物の占い師としての素質をすべて備えてるんですって」ハリーとロンにそう告げた。
「わたし、いろーんなものが見えたわ……じゃ、がんばってね!」
パーバティは螺旋階段を下り、急いでラベンダーの方に行った。
「ロナルド・ウィーズリー」聞き慣れた、あの霧のかなたの声が、頭の上から聞こえてきた。ロンはハリーに向かってしかめっ面をして見せ、それから銀のはしごを上って姿が見えなくなった。
ハリーが最後の一人だった。床に座り、背中を壁にもたせかけ、夏の陽射しを受けた窓辺でハエがブンブン飛び回る音を聞きながら、ハリーの心は校庭のむこうのハグリッドのところに飛んでいた。

二十分もたったろうか。やっとロンの大足がはしごの上に現れた。
「どうだった?」ハリーは立ち上がりながら聞いた。
「あほくさ。なんにも見えなかったからでっちあげたよ。先生が納得したとは思わないけどさ……」
トレローニー先生の声が「ハリー・ポッター!」と呼んだ。
「談話室で会おう」ハリーが小声で言った。

塔のてっぺんの部屋はいつもより一層暑かった。
カーテンは閉めきられ、火は燃え盛り、いつものムッとするような香りでハリーはむせ込んだ。大きな水晶玉の前で待っているトレローニー先生のところまで、椅子やテーブルがごった返している中をハリーはつまずきながら進んだ。

「こんにちは。いい子ね」先生は静かに言った。「この玉をじっと見てくださらないこと……ゆっくりでいいのよ……それから、中になにが見えるか、教えてくださいましな……」
ハリーは水晶玉に覆いかぶさるようにしてじっと見た。白いもやが渦巻いている以外に何か見えますようにと、必死で見つめた。しかし、何も起こりはしない。

「どうかしら?」トレローニー先生がそれとなく促した。「なにか見えて?」
暑くてたまらない。それに、すぐわきの暖炉から煙とともに漂ってくる香りが、ハリーの鼻の穴を刺激する。ハリーはロンがいましがた言ったことを思い出し、見えるふりをすることにした。
「えーっと、黒い影……フーム……」
「なにに見えますの?」トレローニー先生が囁いた。「よーく考えて……」

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