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第十六章 仕掛けられた罠 16

「一人分しかないね。ほんの一口しかないよ」
二人は顔を見合わせた。
「紫の炎をくぐって戻れるようにする薬はどれ?」
ハーマイオニーが一番右端にある丸い瓶を指さした。
「君がそれを飲んでくれ」とハリーが言った。
「いいからだまって聞いてほしい。戻ってロンと合流してくれ。それから鍵が飛び回っている部屋に行って箒に乗る。そうすれば仕掛け扉もフラッフィーも飛び越えられる。まっすぐふくろう小屋に行って、ヘドウィグをダンブルドアに送ってくれ。彼が必要なんだ。しばらくならスネイプを食い止められるかもしれないけど、やっぱり僕じゃかなわないはずだ」
「でもハリー、もし『例のあの人』がスネイプと一緒にいたらどうするの?」
「そうだな。僕、一度は幸運だった。そうだろう?」
ハリーは額の傷を指さした。
「だから二度目も幸運かもしれない」
ハーマイオニーは唇を震わせ、突然ハリーにかけより、両手で抱きついた。
「ハーマイオニー!」
「ハリー、あなたって、偉大な魔法使いよ」
「僕、君にはかなわないよ」
ハーマイオニーが手を離すと、ハリーはどぎまぎしながら言った。
「私なんて!本がなによ!頭がいいなんてなによ!もっと大切なものがあるのよ…友情とか勇気とか…ああ、ハリー、お願い、気をつけてね!」
「まず君から飲んで。どの瓶が何の薬か、自信があるんだね?」
「絶対よ」
ハーマイオニーは列の端にある大きな丸い瓶を飲み干し、身震いした。
「毒じゃないだろうね?」
ハリーが心配そうに聞いた。
「大丈夫…でも氷みたいなの」
「さあ、急いで。効き目が切れないうちに」
「幸運を祈ってるわ。気をつけてね」
「早く!」
ハーマイオニーはきびすを返して、紫の炎の中をまっすぐに進んでいった。

ハリーは深呼吸し、小さな瓶を取り上げ、黒い炎に顔を向けた。
「行くぞ」そう言うと、ハリーは小さな瓶を一気に飲み干した。
まさに冷たい氷が体中を流れていくようだった。ハリーは瓶を置き、歩きはじめた。気を引きしめ、黒い炎の中を進んだ。炎がメラメラとハリーの体をなめたが、熱くはなかった。しばらくの間、黒い炎しか見えなかった…が、とうとう炎のむこう側に出た。そこは最後の部屋だった。

すでに誰かがそこにいた。しかし__それはスネイプではなかった。ヴォルデモートでさえもなかった。

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