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最初の一冊

この本文は7年前、私が書店員だった頃にfacebookに書いたものを加筆修正したものです。久しぶりに読んでみて、当時と今と本を売ることに対しての基本的な考え方は変わってないなと改めて思いました。


本の売上が全国的に下降傾向になってからBOOK担当になったので、本を置けば売れていた時代を僕は知らない。

お店に来ていない人に来て貰うにはどうすればいいかということと、お店に来てくださっているお客さんに如何にして本を手に取ってもらって、なおかつ買ってもらうためにはどうすればいいのか、ということを最近ずーっとぐるぐる考えている。

本を読む人からすると、本は例えば1,500円くらいで誰かの追体験や知らなかった世界に入り込めるとてもコストパフォーマンスの高いものだと感じるだろうが、本を日常的に読まない人からすると高い買い物と感じているのだろうなと思う。

本屋に寄って、本を読もうと思ったところからは本屋とお客さんとの真剣勝負になる。本は高いと感じている人からすると、(とても失礼な言い方だが)ハズレを引きたくない。

普段から本を読む人は自身の知識経験と照らし合わせて買うだろうし、たとえ自分と合わない内容だったとしてもそういうものだと割とすんなり受け入れる。たぶん。

損をしたくない、あまり本を読まない人はどうするかというと、お墨付きが欲しいのだ。誰かのお薦め、映画やアニメの原作、テレビでの紹介など。本を読む(買う)ことのハードルをどれだけ下げられるかは重要だ。

私は普段から本を読む人にもう1冊薦めるよりも、本を読む層そのものを増やすことのほうが絶対有益だと考えている。将来的な客層を広げるためにも絵本や児童文庫をしっかり売っていくことも大事。

書店員のお薦めも店頭で本を買いたいけど迷っている人には良い道標になる。

初めて読んだ本が面白ければ、次からその作家さんの本を手に取ることがたやすくなる。ハードルが下がったから。だから、最初に読んで欲しい本をその作家さんの作品の中から選び出すのをもっと真剣にすべきだ。

具体的に言うと棚の中でどの本を面陳にするか。どの本を平台に積むか。どの本にPOPをつけるか。

少ない読書体験だが自分の場合、その作家さんに出会ったきっかけは

①人に薦められて読んだ

②店頭での表紙買い、衝動買い

③フェアが組まれていたので目に付いた

④地域限定の文学賞で知った

⑤本屋大賞にノミネートされた

⑥Twitterやフェイスブックで評価が高かった

と、こんな感じに分類される。

①の人に薦められて読んだの典型は、学生時代に友人の高木君から薦められて読んだ椎名誠さんの「新橋烏森口青春篇」と「わしらは怪しい探検隊」だ。

それまでほとんどラノベしか読んでこなかった学生時代に、その2冊を借りて夢中で読んだ。なんだ、この人はと驚いた。それからシーナさんの本を買いあさった。

②③に見る、店頭での偶然の出会いによる購入は自分にはまったとき最も気分がいい。売場で目に付くように置かれているのだから、その本の誰かの意図で薦められているには違いないのだが、"発掘"した気持ちになれるのだ。

私の中では特に北森鴻さんが偶然出会えて良かったと思った作家さんだ。それまでまったく名前も知らなくて、偶然手にとってからシリーズモノを幾つも渡り歩いた。

④は酒飲み書店員大賞の影響が大きい。ニッチ過ぎるその大賞の成り立ちが面白くて、つい買ってしまったのが高野秀行さんと山本幸久さん。

⑤の本屋大賞は、ノミネートされた作品は必ず読むことになっているので、普段自分では選ばない作家さんの本を読むきっかけとなる。

10年以上前、その当時の経理担当の方が『夜のピクニック』を薦めてくれなかったら投票をすることもなかったかもしれない。

⑥になると世の中で人気の作家さんや作品の情報が増えすぎて、選ばされている気にもなってくるから、情報量が多いのも考えものだなと思う時がある。情報の発信元は全国各地であっても情報格差がなくなってきているので、画一化された仕掛け販売になってしまう点が気になる。

書店員としてお客さんよりは本に対する情報量は多いので、これくらい知ってるだろう、なんてことを思っては世間とずれた売場になるので危険。

お店にまず来てもらうことから始まるが、来てもらったら売場でお客さんにどの本をアピールするか腕の見せ所だ。

その地域に住む人にとっての必要な場所となれるかが最も重要なので、必要とする本がちゃんとあるのと同時に、やはり新しい発見(初めて見かけた本や作家さんの名前など)があるお店を目指さないといけない。

まだまだやることは山のようにある。


色々思い出してきたので、私の本棚を構成する主だった作家さんの最初の1冊を紹介します。  ※敬省略

椎名誠「新橋烏森口青春篇」「わしらは怪しい探検隊」大学の友人からオススメ

宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」港南台の浜書房 平台から表紙買い

西加奈子「さくら」町田木曽店 編集者の方が「セカチュー」や「いま、会いにゆきます」と同じ方できっとすぐ映画化されると思って読んだ

恩田陸「夜のピクニック」八千代大和田新田店 当時の経理の方のオススメ

伊坂幸太郎「死神の精度」八千代大和田新田店 表紙買い

重松清「疾走」か「流星ワゴン」不明 そのときのスタッフさんからのお勧めだったと思う

奥田英朗「サウスバウンド」馬事公苑店 表紙買い

北森鴻「孔雀狂想曲」たぶん新橋店 集英社ナツイチフェアから表紙買い

仁木英之「僕僕先生」新橋店 表紙買い

森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」不明 表紙買い

宮下奈都「スコーレNo.4」寝屋川駅前店 秘密結社で知る

恒川光太郎「夜市」不明 夏文庫フェアにて表紙買い

柳広司「ジョーカーゲーム」不明 表紙買い

高野秀行「ワセダ三畳青春記」酒飲み書店員大賞受賞作品だったため

池井戸潤「オレたちバブル入行組」不明 たぶん衝動買い

三崎亜記「となり町戦争」不明 映画原作本ということで手に取ったかもしれない

柚木麻子「ランチのあっこちゃん」ゲラをいただいて

下村敦史「生還者」不明 本読みの方々のオススメだったのと山がテーマだったため

加藤元「嫁の遺言」たぶん枚方駅前本店 さわや書店でオススメしていたため

山本幸久「笑う招き猫」酒飲み書店員大賞受賞作品だったため

吉田篤弘「それからはスープのことばかり考えた」不明 たぶん衝動買い


ひさだかおり(友人の書店員)「迷う門には福来る」衝撃買い

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