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恣意的な数字に騙されてはいけない

「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」

この言葉は、統計や数値データが客観的な事実を示す一方で、それらを都合よく解釈したり、誤用したりすることで、真実を歪めることができるという現実を鋭く指摘している。

本記事では、この格言の意味を深く理解するために3つの具体例を挙げ、それぞれについて簡単に解説を行いたい。


1. 平均値の誤用 -所得格差の隠蔽-

一国の経済状況を示す指標として、しばしば「平均所得」が用いられる。しかし、この数値は実態を正確に反映しているとは限らない。

例えば、ある国の10人の所得が以下のようになっているとする:

1万円、1万円、1万円、1万円、1万円、1万円、1万円、1万円、1万円、91万円

この場合、平均所得は10万円となる。しかし、実際には9人が1万円の所得しかなく、1人だけが91万円の所得を得ている。平均値だけを見ると、全体的に豊かな印象を受けるが、現実には大きな所得格差が存在している。

この例は、平均値という単一の指標だけでは、所得分布の歪みや格差を適切に表現できないことを示している。
より正確な状況把握のためには、中央値や所得分布のグラフなど、複数の指標を組み合わせて分析しなければならない。

2. 相関関係と因果関係の混同 -アイスクリームと犯罪率-

統計データを解釈する際、相関関係と因果関係を混同してしまうケースがしばしば見られる。

例えば、「夏季のアイスクリーム販売量の増加と犯罪率の上昇に強い相関関係がある」というデータが存在するとする。このデータだけを見ると、「アイスクリームの消費が犯罪を引き起こしている」という誤った結論を導き出してしまう可能性がある。

しかし、実際には両者の間に直接の因果関係はない。
この相関関係の背後には、「気温の上昇」という共通の要因が存在している。気温が上がるとアイスクリームの消費量が増え、同時に人々の外出機会が増えることで犯罪の機会も増加するのである。

この例は、単純な相関関係だけでなく、その背後にある要因や複雑な関係性を考慮することの重要性を示している。データの解釈には、常に批判的思考と多角的な分析が求められる。

3. グラフの操作 -株価の誇張表現-

視覚的な表現方法であるグラフも、適切に使用されなければ誤解を招く可能性がある。

例えば、ある企業の株価の推移を示すグラフにおいて、縦軸の目盛りを操作することで、株価の変動を誇張して表現することができる。具体的には、縦軸の開始点を0ではなく、最低株価の直近の値に設定することで、わずかな変動も大きく見せることが可能となる。

仮に、ある企業の株価が980円から1020円に上昇したとする。通常のグラフでは、この40円の上昇はそれほど大きな変化には見えない。しかし、縦軸の開始点を970円に設定し、目盛りの間隔を狭くすれば、同じ40円の上昇が劇的な変化のように見える。

このような表現方法は、技術的には間違いではないが、視覚的な印象を操作することで、現実以上に大きな変化があったかのような錯覚を与える。グラフを解釈する際は、軸の設定や目盛りの間隔にも注意を払い、客観的な判断を心がける必要がある。

結論

以上の例が示すように、数字やデータそのものは客観的な事実を表しているが、その提示方法や解釈によっては、現実とは異なる印象を与えることがある。

統計や数値データを扱う際は、以下の点に注意を払うべきである。

  1. 単一の指標だけでなく、複数の視点から分析を行うこと

  2. 相関関係と因果関係を慎重に区別すること

  3. データの視覚的表現(グラフなど)の細部にも注意を払うこと

これらの点に留意し、批判的思考を持ってデータを解釈することで、より正確な現実理解につながる。
数字は強力なツールであるが、それを使う人間の意図や解釈によって、その意味は大きく変わりうるのである。我々は常に、数字の裏に潜む真実を見抜く目を持ち続ける必要がある。

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