運転席のシルエットは
「最近ビックリしたことってあります?」
男子スタッフ太田から接客の合間に受けた質問。
「急に言われたって思いつかないよ」と言いつつも考えてみる。思い浮かべてみると意外にあったりする。
美女子の来店には高級ホテル並みの接客をと店の外で待ち、車のドアを開けてスマートに店内にエスコートするほどの意気込みだ。
駐車場に車が入ってくる。
カウンターごしに運転席にシルエットが見える。
期待に胸高鳴る。
ボクは車から降りてくる彼女の手を取った。
「いらっしゃい」
「店長、いつもありがとう」
「良いんですよ。ボクはこれが仕事なんですから」
「仕事なんて言わないで、だって、わたし店長のこと・・・」
「だめだよ。君には婚約者がいるじゃないか」
ボクだって君のこと・・気持ちを押し殺して・・・
車が駐車場に停まった。
シルエットが揺れる。
そのシルエットから分かる彼女の髪型。
角刈りじゃないですか。
降りてきた角刈りのオッサンはエロ本を買っていくという、美女子の来店を期待したのに特に男くさいヤツが来店してしまったという、まったく嬉しくない驚き。
「それはビックリというより、ガッカリじゃないっスか?」
太田は話し終わったボクに言ったけど、ビックリの概念が悪い意味でも良い意味でも期待を裏切るということだとすれば正しいはずだ。
店長です。
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