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みちくさにことのはをはむ

10時開場の國學院大學博物館へ向かい恵比寿から歩いて行く。さすがに来た道を戻るくらいでは迷子にならない。

博物館では修験者と山岳信仰に関する企画展をやっていた。どうにも神がかり的な何かに歩き回ることを見透かされている気がするのだが、まあいいや。ボクとしては来週から始まる物語絵『源氏物語』の方が気になって仕方ない。とても残念だ。
常設展の方は、土器やら土偶やら勾玉やら、教科書とか資料集とかで見たことあるやつがレプリカかもだけど、たくさん展示されていて、ちょっとテンションが上がった。無料で入れるにも関わらず、ちゃんと博物館で驚いた。古文書の資料展示もされていて、容赦ねぇな。なんて思ったり、ちゃんと勉強していればこういうのも読めてもっと楽しめたのだろうか?と思ったりもした。
博物館の売店で面白そうなものをいくつか買った。中でも「元気回復疑いなし」とか書いてある河童の手拭いなんて星さんへの手土産にピッタリだ。
良い感じに時間を使えたので、ここからまた恵比寿に向かって歩き出す。

開場時間になっていた恵比寿の「山小屋」には早速人だかりができていた…ん?
よく見ると、見覚えのある人ばかりだった。なんだこの紫波町濃度の高さは?この地から恵比寿紫波町化計画でも始めるつもりだろうか?
とにかく、差し入れとして作ってきたガトーショコラを渡してしまおう。何気にこれが荷物で1番重たい。

柚子ピールと金柑のガトーショコラ

人だかりの中に紫波町役場企画課の竜介さんを見つける。畑多楽縁の補助金獲得のために奔走してくれているのは大変ありがたいのだが、県へのアピール資料の中に「インクルーシブコミュニティ」なる新しい言葉を入れてくれたおかげで、「認知症への理解を深めときゃいいや」と、たかを括っていたのに、幅広い知識を持っておくために参考文献を3、4冊買い足すこととなったことに対して文句を言っておいた。
畑でインクルーシブなコミュニティを形成する〜っていやいやいや、盛り込みすぎでは?

「山小屋」の中には、4人それぞれの「らしさ」が垣間見える面白い展示になっていた。

岡本さんのブース


岡本さんの展示は「なつかのおつまみ畑」につけていた動物避けの旗をイメージしているのが一目でわかる。

南條さんのブース


南條さんの展示は、思いっきりYOKOSWA CAMPUS。

星さんのブース


星さんの展示は、パネル1枚にしっかり収まる感じで、なんかそのままポスター展示ができそうだ。

あまのさんのブース


あまのさくやさんの展示は、ちゃんと額に入れてあったりしてギャラリー展示っぽい。場慣れ感がある。
とりあえず星さんを捕まえて、チョコレートケーキと手拭いを渡しておく。
1日目の日中は平日ということもあって関係者が多かった。「山小屋」のこぢんまりスペースの関係でいつまでも中にいるわけにもいかず、かといって、来場者はそんなに多くないと見越したボクは、ちょっとその場を離れることにした。
せっかく東京に来たのだ、ついこの間、紫波町図書館のイベント「夜のとしょかん」にゲストでいらした柳下恭平さんゆかりの「かもめブックス」という本屋さんに行ってみたいと思い、神楽坂へ地下鉄を往く。
東西線の地下世界から地上へ出ると、目的地はすぐそこだった。
かもめブックスは手前がカフェ、奥が本屋という作りになっていて、カフェでお茶をする人も結構いたことから、正面から店構えの画像を撮ることが憚られ、何だか微妙な画像を撮ってしまう。
本屋スペースではとても魅力的な本が本棚いっぱいに並んでいて、目移りしてしまうのだが、ボクが持ってたり、知っている本が刺さっているのを見かけると何だか嬉しくなったりもする。
しかし、気になるのは店の中央にある児童図書館に使われるくらいの背の低い本棚に置いてある本だ。ブックスタンドに立ててあるわけでもなく、置いてある。何なら積んである。本屋なのに積読が形成されている。そしてなにより、本棚に刺さっている本より、この置いてある本の方が書店員さんのより強いオススメチカラを感じる。あれもこれもと買ってしまいそうになるのを必死に堪えて4冊の本を買った。
『100年後あなたも私もいない日に』
『そもそも交換日記』
『おばあちゃんはネコでテーブルを拭きながら言った』
『初めて本を作る前に読む本』
1冊目は「よるの図書館」の際に柳下さんから直々にオススメしてもらった本で、もうすでに1冊持っているのだけれども、そのことを紫波町図書館の司書さんに自慢したらとっても羨ましがられた。というのと、この本、書籍コードついてないので図書館では入手しにくい本だった。さんざん自慢するだけ自慢してそりゃ酷いことをしたと思い、司書さんへのお土産にと購入。
2冊目は同じ出版社から出た、同じく土門蘭さんの本。もう1人の著者である桜林直子さんとの往復書簡。こちらも司書さんへのお土産。
3冊目は、もう、タイトルのインパクトが強すぎて抗えなかった。世界のことわざを集めた本というのはいくつかあるし、1冊持っているが、この本はその国の人々の暮らしや歴史背景など、人文学的なエピソードをしっかりと載せた上で、ことわざを1つ紹介している。イラストも良い。ページを開くと脳内再生でことわざを喋っているその人が浮かんでくるくらいの、よくできた本だと思う。
4冊目は、今度あまのさくやさんが部長を務める「ZINEづくり部」に参加する予定なので買ってみたリトルプレス本。ホチキス留もしてない作りなので、うっかり風の強い日に読んでいるとページが飛んでいってしまうかもしれない。本を作るにあたって、文章データの作り方や、紙質の選択肢、サイズはどれくらいにするのかとか、印刷所に依頼してから出来上がりまでどれくらいの日にちを見積もった方がいいかとか、初めてじゃわからないようなことをイラストとともに教えてくれる本だった。
かもめブックスを後にして、どうせなら本屋巡りをしようと神保町まで寄り道をする。
神保町はもう、多種多様な本の専門店が集まっていて、いるだけで楽しくなってしまうのだが、とりあえず、日が暮れる前には恵比寿に戻りたかったので、児童書専門店をぐるっと見てから、農文協のブックセンターへと入った。これまたあれもこれも欲しくなってしまうのだが、ここはグッと堪えて、本のタイトルをメモするだけに留める。こういうたぐいの本があるということを知っておけば、後で類書も見つけやすくなる。やはり本屋は時間が溶ける。見るだけ見るというのもちょっと悪い気もしたので、1冊だけ選んで購入した。
『農村医療から世界を診る 良いケアのために』
なんか、パッと見た感じの印象でしかないのだけれど、コミュニティナースの星さんと取り組むことになる「畑多楽縁」にインストールしておいた方がいいことが書かれている気がしたから購入。これも「インクルーシブコミュニティー?」のため…

何とか日が暮れる前に「山小屋」へ戻ることができた。やはり、夕方以降来客者が増えた様子だ。あまのさくやさんにかもめブックスへ行ってきたことを自慢すると、大変羨ましがられた。買った本のうち、リトルプレスの本にとても食いついていたので、せっかくだからプレゼントすることにした。ここまで喜ばれると、この本も本望というものだろう。
「山小屋」では、興味ありそうにギャラリーを覗き込む人へ声をかけたり、あまのさくやさんが制作した『私にもできるかもしれない』を紹介するZINEを手渡して「紫波町よろしく」と言ったりしていた。また、合間を見ては道すがら読んでいた『ナイチンゲールの看護覚え書』という『看護覚え書』の解説本を読んだ。1854年のクリミア戦争従軍をきっかけに、それまでの常識をひっくり返して、現代にも通じる看護の基礎を打ち立てたという、ビックリ業績に改めてビックリしながら、看護師が大切にする視点、立脚点を追っていた。ボク自身がそれを行使できるかどうかではなくて、看護師である星さんと一緒に仕事する上で役にたつこともあるだろうと思い、読んでいた。
それにしても、クリミアか…この間まで読んでいた『夕暮れに夜明けの歌を〜文学を探しにロシアに行く〜』という本の中でも、2014のクリミア侵攻のことが…決してきっぱりとは別ちえないはずのものが「言葉」によって「分断」されてしまうことへの苦しみ、悔しさが綴られていた。それでもこの本の作者奈倉有里さんは「人と人とを分断する」言葉ではなくて、「つなぐ」言葉、人々が培った文脈、それらが織りなす文学を求めていた。

ギャラリー「山小屋」の前で立っていた時に、紫波町地域起こし協力隊の南條亜衣さんとの雑談で、ここに来る前に國學院大学に立ち寄った話をしていたら、文学部って何を勉強するところなのか?それが社会に出る際に、というか、就職して仕事に対してどのように活用されうるのかという話になった。
ボクは2、3の具体例しか挙げられなかったけれども、改めて考え直してみると、文学部の学問領域(中退だけどボクの場合は国語学)は、すぐにお金に繋がるものではないけれど、人と人とのつながりに超役に立つことばかりだと思った。
せっかく手土産のガトー・オウ・ショコラを渡して軽くなったリュックに、それ以上の重さの本を買い足して、肩紐が食い込む重さを感じながらそう思った。
19時となり、1日目が終了。解散となり、重たいリュックを背に、その日は船橋の実家への帰路に着いた。

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