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「めいいっぱい」とはいかないけれど

ÖCHAKO の時間にはいろんな人が来る。
基本的には視察的に、または興味本位で立ち寄ってきた人で、主催者たるコミュニティナースの星さんが対応するのだが、ひとたび来訪者が畑に興味を持ち、畑の方へと足を伸ばすこととなれば、星さんはたちまちに対応をボクへと投げてくる。ボクが畑の管理作業に精を出していようとお構いなしだ。

その日はバギーに乗っている脳性麻痺を抱えているらしいお子様が母と支援員さんを伴ってご来訪だった。
「らしい」というのは、いちいち身体特徴を聞いたりしなかったから、外見や動きからの推測だから。
遠目にみて、まあ、ハウスの方でゆったりするのだろうと構わずに管理作業に勤しんでいたのだが
星さんは「関さん畑のご案内お願いします」
と、突然投げてきた。
ふむ、支援員さん同伴とはいえ、ちょっとくらい予備知識を与えるとかないものか?
ボクがおかしな偏見を持っていてせっかくきてくれた人に粗相をしでかしたらどうしようというのか?何でいつもいつもこう、うかつというかがさつというか…と、頭の中で独りごちつつ、まー、脳性麻痺の子どもならちょっとだけ知識があるから大丈夫だとは思うけどと、一行の応対へと向かった。

その子の畑での様子は、なかなか楽しそうだった。ジャガイモの畝を見た時にはジャガイモを引き抜くようなそぶりを見せた。
アテトーゼがあるから本人が思うようにジャガイモ掘りをすることは難しいだろうけど、別の人が指示通りに動くことで体験してもらうことはできそうだ。レジャーシートか何かを用意して視線をバギーに乗っているよりも下げたらより楽しめるんじゃなかろうか?
いずれ、人の持つ技術が進んだとして、この体を動かすための脳から出される信号がねじくれてしまうことを完治できないまでも、どう対処しうるのだろう?
電極なんかを刺して、電気信号を整えたり
思った通りに動く人工四肢を作り出すしたり
いや、動けるようになればいいってことだけの話じゃないか。

キミはキミのままであってもよい

そういう世の中。そう言える自分。
SFアニメにあるような技術革新が起こるもしもの未来よりも、想像するのが難しい。

なんて思案しながら案内していると、ヒマワリが咲いているのを見つけて、一行がぱっと華やいだ。
この畑のコンセプトがコンセプトだけに、野菜ばかりでは面白みがないので、花がメインの一画を作ってある。実は飲食に利用できます。という面白みまである。
このヒマワリくらいだ、食用でも何でもなく、ただの観賞用のものは。
それでも、やっぱりヒマワリはいいな。
人を元気にする何かがある。品種もいっぱいあって、シチュエーションを選べる。そしてなにより、安価で丈夫で育てやすい。

せっかくなので、1輪プレゼントすることにした。
1輪咲の品種ではあるが、まだ株が元気なうちに切ってしまえば側枝が出てきて小ぶりなヒマワリをまたいくつか咲かせるかもしれない。
そういう皮算用をしつつ、ヒマワリを手に持ちやすい長さで切って、余計な葉を落とす。ボクはその子の特性をよく知るわけではない。不随意な動きによって受け渡しに失敗して残念な思い出になってしまったり、実は嫌だった。とかいうのを避けるため、いったんバギーを押している人に一輪のヒマワリを手渡す。
なんと言って渡したかは覚えていないが、どうせ「記念におひとつ、よろしければどうぞ」みたいなことを言ったと思う。
バギーを押すその人から、バギーに乗るその子へと、そのヒマワリは手渡される。腕が思い通り動かないからかバンザイしている手にヒマワリが触れると、その手にギュッと握りしめた。
その時、ボクはこう思った。

あっ、いけね。チクチクしてたらどうしよう。
茎に生えてる毛、ちょっと硬かったよな。落としてから渡すんだった。

ボクは作業用手袋をはめていたので、茎にびっしり生えている毛のことは、すっかり失念していた。
ヒマワリを握りしめたその子は、嬉しそうな様子だった。とりあえず、ひと安心。

その後一行は割とすぐに帰っていった。その子の体力的になのか、支援員さんのスケジュール的になのか分からないが、まあ、そう長居もできないのだろう。
この畑に咲いたヒマワリは、その子の手に渡ったことで、大切な人たちとの『楽しかった』の共有を助けてくれることを願う。

コミュニティナースの星さんを筆頭にHATARAKUのクルーたちで造るフィールド畑多楽縁。週に1回のÖCHAKO の時間。
ボクはキミのことをよく知るわけではないのだから、
無責任に「キミはキミのままであってよい」なんて言うことはできないけれど、

キミはココに居てもいいだよ

せめてこれだけは言えるようにしよう

週に1回がやっとの

せいいっぱいの祝福をキミに

ボクはまた畑の管理作業に戻る。
夕方、まだ咲かせたことのない花に、花芽がついていることに気がついた。
来週か、再来週か咲くのが楽しみだ。

このお花、食べれるの!
美容と健康にも良いって話なのよ!!

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