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職人と職員の間で

個性ってなんだ。

昔々、有名店で働いていた事を思い出す。
有名シェフの名前を冠するお菓子のお店で、シェフの自慢のなんちゃら、とか、お店の代表作の一つのようなものを、計量から包装まで私もたくさんいる従業員の一人としてやっていた。
当然、はまむらが作った!なんて言うつもりもないし、その方に教えてもらって私が作ってます!って言うわけがない。もちろん、その方はいつもテレビや本やらで、週に数回見かけるかどうか。

今、法人の来年のバレンタインの戦略を練っている。

けど、商品リストが今日が締め切りだと昨日聞かされた。商品と価格なんて、何とでもなる、とも言えない大切なところ。

でも、もっと大切な事、大切な光景が頭を離れない。
その作業場では、無言で延々と、指先でピスタチオみたいなカカオ豆の殻を剥き、胚芽をピンセットで取り出し続けるプロフェッショナルな方々がいる。きれいに剥かれたカカオ豆。タッパー一杯にするのにどのくらい気持ちが折れそうになっただろう、どのくらい立ち直っただろう。どれだけの集中力で続けたのだろう。僕には絶対敵わない、プロフェッショナル。職人。

美しく分別されたカカオ豆の大切な数粒をいただく。

花畑のような香りが広がり、砂糖さえも排除したそのショコラは無限の可能性をガツンと私にぶつけてくる。すごい。

眺めるパンフレットには、そんな商品が有名シェフのページの隣に整然と並んでいる。

腕を組んで斜に構えた真っ白なコックコートの有名シェフがずらりと並ぶ。
この人が全部作っているわけじゃないんだから、有名シェフに集う有志のみんなが作っているブランドなんだよな。きっと大変なんだろな。そう思う。

そして、ページの反対側には我らが法人のチョコレート。すごい。
ここまで辿り着くのは、本当に大変なことだったと思う。

不安も葛藤も、いろんな事を乗り越えてきたのだろう。チームで。
どうか私を仲間に入れてもらって一緒に戦っていければと心から思う。
志を共にするプロフェッショナルな集団、有名シェフはいなくても、居ないからいい。有名になればいい。全員が。そんなチームを一緒に作っていきたいと。
それがたまたま社会福祉法人だっただけ。

…というところで、一本の電話。

百貨店でのショコラの催事に使う袋を有償にすべきではと私からの提案は、理由も聞かれずこれまで無償で提供していたので却下との連絡。

そんな事すら、理由すら聞いてもらえない事にがっかり。

そして、その職人「人」のみなさんは利用者さん。
見事な手捌きでカカオを剥いているのも紙袋作っているのも利用者さん。そう、障がい者さん。

却下するのは職員「員」さん。

脱線だけど、人には顔があって、員には肩書きがあるんだな。顔か肩か。そっか。そうだよね。

わかってほしい。お金じゃないんや、やりがいなんや。彼らも僕も。

どっちがどっちなのやら。誰がどこを目指しているのやら。仕方ない。
ここ数日の時間を取り戻そう。

…その後施設長さんから電話。

人生の大先輩である施設長と男の約束を交わす。人を束ねる方には伝わる言葉で。

さあ世界がここから変わるかもよ!てっちゃん!

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