ジェンスン・フアンと孫正義、AI革命の全貌を語る―100兆ドル(約1京5千兆円)産業の行方
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOとソフトバンクの孫正義CEOの「AIサミット」の基調講演の対談を全てお伝えします。
長くなるので、忙しい方は要約だけで十分です。
1. 人工知能(AI)の本質と進化
従来のソフトウェアは「ツール」だったが、AIは「スキル」や「タスク」を実行する存在として進化している。
ニューラルネットワーク、大規模言語モデル、AIエージェントなどが人間の労働を代替し、全産業に影響を与える。
AI産業の市場規模は、100兆ドル(約1京5,567兆円)規模に達する可能性があり、これまでのIT産業を超える。現在は10兆円程度。
2. AI革命の規模と影響
AI革命はIT産業の変革ではなく、全産業の根本的な変革を意味する。
AIは物理的な制約を持つ産業(原子を扱う)とは異なり、電子や量子力学を活用することで無限に拡大する可能性がある。
人類のGDP(総生産)は脳の活動に基づいているため、AIはすべての経済活動に革命をもたらす。
3. AIインフラの構築と重要性
NVIDIAとSoftBankが提携し、日本初のAIグリッドを構築中。AIファクトリーとAIランが含まれる。
AIグリッドは、AI産業の「道路」に例えられ、新しいサービスや企業を支える基盤となる。
日本最大規模のAIデータセンターを設立し、研究者やスタートアップにほぼ無料で計算リソースを提供する計画。
4. 日本独自のAIと文化的価値
日本のデータ、文化、生活習慣を反映したAIエージェントを開発し、日本独自の価値を創出する。
国家データは「国家資源」であり、これを活用して自国民のためのAIを構築することが重要。
日本政府はAI規制を抑制し、AI革命を奨励する環境を整備している。
5. 個人用AIエージェントの未来
各個人がAIエージェントを持ち、生涯にわたり伴走する時代が到来。
教育、健康管理、旅行計画など、個人の生活全般を支援。
「デジタルのアリストテレス」や「デジタルツイン」として機能。
子供たちはAIを友人や教師として活用し、AIと共に成長する未来が描かれている。
6. AIの応用分野と社会的影響
医療分野ではAIが診断や治療の効率化を実現する可能性。
自動車、モバイル、IoT、ゲーム、データセンターなど、多岐にわたる産業でAIが活用される。
日本の企業やスタートアップは、この新しい波に乗り、AIを活用したイノベーションを加速する必要がある。
7. ソフトバンクとNVIDIAの提携による推進力
ソフトバンクとNVIDIAは、日本におけるAI革命を推進する重要な役割を担う。
提携を通じて、モバイル、IoT、自動車、ゲームなどの分野で革新的な取り組みが進められる。
日本がAI革命のリーダーとなるため、ソフトバンクがAIグリッドの構築に大規模な投資を行う。
8. 日本の課題と再出発のチャンス
日本はIT時代で遅れ(失われた30年)を取ったが、AI革命は「リセット」の機会。
若い起業家やスタートアップの活動を支援し、AIによる新しいスタックを構築するべき。
日本独自のAI技術とインフラを活用し、世界に先駆けたAI社会を形成するチャンスを逃してはならない。
ここからは対談の翻訳となります。
孫正義氏(以下、孫):
「泣いてもいいんですよ、泣きましょう、一緒に。さあ、座ってください、どうやってそれを成し遂げたんですか?どうやって技術革新や計算機の歴史における革新的なクリエイターたちを選び抜いたんですか?100%の成功率じゃないですか。」
ジェンスン・フアン氏(以下、ジェンスン):
「それは運が良かったからですよ。私は良い時代に生まれ、素晴らしい起業家たち、例えば孫さんのような人たちに出会えました。情熱や夢、そして直感がありました。誰が本物のパイオニアで、誰が本物の革新者かを嗅ぎ分ける本能ですね。でも、本当に運が良かっただけだと思います。」
孫:「それは同じビジョンを共有しているからこそ嗅ぎ分けられるんですよね?狼が狼を嗅ぎ分けるような。」
ジェンスン:「そう、お互い嗅ぎ分けてるんですよ。でも、僕は子犬を2匹飼っているので、あまりそのイメージは好きじゃないですね。」
孫:「これまでの歴史を振り返って、今回のプラットフォームの変化、革命はこれまでのものとどう違いますか?」
孫:「これは最もエキサイティングで、最もダイナミックな未来の最前線に位置しています。100倍、いや1000倍も大きい革命だと感じています。」
ジェンスン:「そうですね。数学的にも産業的な視点から見ても、AIというのはこれまでのソフトウェアとは非常に異なるものです。私たちがこれまで作ってきたソフトウェア産業は、人間が使うツールを提供してきた産業でした。しかし、ニューラルネットワークや大規模言語モデル、エージェントやロボットといった新しいタイプのソフトウェアはツールではなく、スキルやタスクそのものです。それは仕事をこなす能力を持っています。そして『仕事』という産業は、1兆ドル規模ではなく、100兆ドル規模の市場を持つ産業です。だからこそ、これは単なるIT産業の移行ではなく、すべての産業の移行なのです。」
孫:「人類は他の動物と比べてスーパーな脳を持っている唯一の存在です。脳の力でライオンや象のような筋肉量では勝てなくても、人類は圧倒的に強い。GDPを構成する活動の全ては、人類の脳による何らかの活動に基づいています。だから、今回の革命であらゆる産業が影響を受けるでしょう。」
ジェンスン:「その通りです。特に原子を動かす産業、つまり物理的なものに依存する産業はその規模に制約があります。しかしAIは電子を扱う産業であり、量子力学によって制御されています。これは無限に拡大する可能性を秘めています。」
AIグリッドと日本の未来
ジェンスン:「私たちは今日、日本におけるAIグリッドの構築を発表しました。このグリッドにはAIモデルを開発するためのAIファクトリーが含まれています。また、AIモデルを日本中に配布するAIランも含まれています。これを日本で最初に実現するのです。他のどの国もまだ追随していません。」
孫:「私たちの通信タワーはこれまでデータ通信を提供するだけでしたが、これからは密接に接続され、知能ネットワークとして日本全体のインフラを大きなニューラルネットワークのように進化させます。これにより日本国内の研究者や学生、スタートアップ企業に巨大なAIリソースを提供し、利用できるようにします。」
ジェンスン:「AIは大規模なインフラを必要とします。これを構築するには大きな投資が必要であり、ソフトバンクがこの分野に大きな賭けをしているのは明らかです。」
AI産業のリセットと日本の可能性
ジェンスン:「日本は以前、メカトロニクス時代において技術で世界をリードしていました。その時代は、機械技術と電子技術が融合した時代でした。家電業界においても世界の先頭を走っていました。しかし、IT産業やソフトウェアの時代が来たとき、過去30年ほど、日本はその波に乗り遅れたと言えます。」
孫:「まさにその通りです。当時、日本の大企業やメディアは『ものづくり』を重視し、『物理的なもの』こそが本当の価値を持つと信じていました。一方で、ソフトウェアに対してはバーチャルなものだとして、その価値を疑う風潮が長年にわたって続いていました。それが特にインターネットバブル崩壊後に顕著となり、若い起業家たちは批判され、停滞感が漂いました。」
ジェンスン:「しかし、今はリセットの時代です。新しい時代の始まりです。過去の企業の多くはこの新しい時代に適応できていません。その結果、新しい企業が台頭し、新しいスタックが構築されています。日本はこの機会を活かさなければなりません。」
孫:「AIはソフトウェアとは全く異なるものです。AIを作るには膨大なデータや専門知識が必要です。例えば、アート、ゲーム開発、薬の発見といった各分野の専門知識がAIモデルの訓練に使われ、それがその分野に特化したAIを生み出します。このような新しい可能性は、今までにないチャンスをもたらします。」
ジェンスン:「日本が幸運なのは、政府がAI革命を抑制するような過剰な規制を課していないことです。他の国々では規制が強化され、AI発展の妨げになっている場合もあります。日本政府にはさらにAIを奨励する政策を取ってほしいです。この革命を逃すわけにはいきません。」
AIのインフラ構築と若手起業家支援
孫:「AIインフラの構築には大規模な投資が必要ですが、SoftBankが日本国内でAIグリッドを構築することで、日本のAI活動を活性化させることができます。現在、世界には22,000のスタートアップがありますが、その中で日本のスタートアップはわずか350社です。これを増やしていく必要があります。」
ジェンスン:「そのために私たちは日本最大のAIデータセンターを設立し、研究者やスタートアップがほぼ無料でコンピュータリソースを利用できるようにします。これにより、彼らは新しいAIモデルやアプリケーションを試すことができるようになります。」
孫:「さらに、スタートアップや研究者を支援するために寄付も行うべきですね。」
ジェンスン:「毎回孫さんと話すとお金がかかる(笑)。でも、それが良いことなんです。」
日本の未来とAIの夢
ジェンスン:「孫さん、AIと日本の未来について、最も楽しみにしていることは何ですか?」
孫:「私はAIとロボティクスに非常に情熱を持っています。特に、医療分野のAIソリューションには大きな可能性を感じています。また、LINEやYahoo! Japan、PayPayといったサービスに特化したAIエージェントを作り、日本のライフスタイルをより良くすることも目指しています。」
ジェンスン:「それは素晴らしいですね。未来の個人用AIエージェントは、私たちの人生を通して伴走し、全てのデータを記憶し、まるでデジタルのアリストテレスのような存在になるでしょう。」
孫:「日本の文化や知識を組み込んだAIエージェントは、日本に特化した素晴らしい未来を切り開くと思います。また、国のデータはその国の知識や文化、知性を象徴するものです。そのデータを活用して、自国民のためのAIを作ることが非常に重要です。」
AIグリッドの必要性と重要性
ジェンスン:「AI革命において最初に必要なのはAIグリッドです。道路がなければ自動車産業が成り立たないように、AIグリッドがなければAI産業も成り立ちません。SoftBankが日本でAIグリッドを構築することで、新しいサービスや企業が続々と誕生するでしょう。」
孫:「これからのAI革命で、日本がリードするための重要なインフラを築き上げていきます。」
ソフトバンクとNVIDIAのこれまでの関係
孫:「もし私たちが今、NVIDIAの最大株主だったら、どうなっていたでしょうね?」
ジェンスン:「おお、それを考えると切ないですね(笑)。3回挑戦しましたよね。」
孫:「いいえ、2回では?」
ジェンスン:「いや、最初は私たち自身で市場から株を買いました。それから、10年前のある会話で、私たちは一緒に何かを共有するべきだと話しました。」
孫:「ああ、それは言わないで(笑)。」
ジェンスン:「その時、孫さんがこう言ったんです。『ジェンスン、マーケットはNVIDIAの価値を理解していない。あなたの未来は素晴らしいが、マーケットはそれを理解していない。その未来を作り上げる過程で苦しむことになるだろうから、私が資金を提供してNVIDIAを買収したらどうか?』と。」
孫:「そう、それが10年前でした。」
ジェンスン:「その時私はその提案を断りましたが、今では後悔しています(笑)。」
孫:「そして1か月後にはARMを買収していましたよね。その時に、2社を統合することについても話しました。それもまた夢のような話でした。」
ジェンスン:「そうですね、それが3回目の挑戦でした。しかし、今では我々は一緒に素晴らしい価値を創造しようとしています。」
日本での未来の展望
ジェンスン:「NVIDIAとSoftBankが提携することで、日本での新しい価値を創り出していくことに非常に興奮しています。この提携は単なる始まりです。これから多くのプロジェクトを一緒に進めていく予定です。」
孫:「モバイル、IoT、自動車、データセンター、ゲームなど、さまざまな分野での協力が楽しみです。」
ジェンスン:「日本国内でのAIグリッドの構築により、若い起業家たちが新しい産業を創出し、世界をリードするようなイノベーションが生まれることを期待しています。」
対談の締めくくり
孫:「ジェンスン、あなたは世界で最も偉大な起業家の一人です。」
ジェンスン:「いえ、あなたが世界最高の起業家です。」
孫:「ありがとう。」
ジェンスン:「いや、本当にです(笑)。」
孫:「これからも一緒に未来を築いていきましょう。」
ジェンスン:「もちろんです!」