
【創作】カイギュウがいた村(第9話)
長梅雨のせいで先週は雨ばかりでうんざりしていたけど、今日は嘘みたいな青空だった。久しぶりの暑いくらいの日差しだけど、学校からの帰り道は足が重かった。お母さんが抗がん剤治療を始めてから3ケ月が過ぎたけど、治療効果はあまり出ていないらしい。主治医の工藤先生は
「焦らず、諦めずです。少なくとも以前より大きくはなっていない状況ですから、このまま継続しましょう」
と言ったそうだけど、お母さんの体重はどんどん減っているみたいだから心配で心配で息が詰まりそうだ。それに春からずっと家事をしているけど、正直ちょっと疲れてきた。最初の頃は、抗がん剤治療が始まればお母さんは元気になると考えていたんだけど、全然良くならないし、お母さんは辛そうな顔が増えるばかりだし、今のような生活がいつまで続くのか、終わりが見えないことが重荷に感じるようになっているんだと思う。夏休みになれば、ちょっとだけゆっくりできるかも知れないから、そこまでは頑張りたいとも思うんだけど、夏休みが過ぎてもこのままの生活だとしたら、もう頑張れないかもしれないって考えちゃうんだ。
グルグルと終わらない話を考えながら西芳賀橋に差し掛かったところで、上から見た川原の景色がいつもと違うことに気づいた。昨日、ダムの放流があったからなのかな。川岸や法面が削れていたり、見たことない石が運ばれてきたりしたみたいだ。転がっている石を近くで見てみたいって気持ちがムクムクしてきた。前に加藤先生に言われた「一人で化石の採取にいっちゃいけない」って言葉がよぎったけれど、化石の採取に行くんじゃなくて、ちょっとだけ石を見に行くだけだから良いよね。何か良さそうな石があれば、流されない場所に置いて加藤先生に教えてあげよう。何だかワクワクしてきた。ランドセルを川原に置いて、河岸に近づいた。
川原の石はちょっと見ただけでは化石が入っているかわからなかったけど、ランドセルの半分くらいの大きさの石から何とも言えない雰囲気を感じた。恐竜の卵はこのぐらいの大きさなのかもしれない。手に取り動かそうと持ち上げたら、真ん中からパカっと割れた。動かせなかったことにガッカリしたけれど、石の中から背骨のような化石がポロリと現れた。
「…!」
息を飲んだ。もしかしてだけど、ちゃんと調べないとだけど、クジラとかカイギュウのような大型哺乳類の骨の化石かもしれない。お母さんお父さん、加藤先生は驚くかな喜ぶかな。いやいや、まだそうと決まったわけじゃない。僕はハンカチを取り出して化石を拾いあげた。あぁ何か容器を準備しておくんだった。両手で化石を包みこむと、まずは加藤先生に見てもらおうと足を踏み出したところで滑って転んで
ドブンッ!
川に落ちた、目の前が真っ暗になった。
遠くで美幸が僕の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
橋の上から賢治を見ていた美幸は走って学校に戻ると、職員室に飛び込み、先生に見たことを伝えた。先生たちの動きは早かった。賢治の父、警察、消防、役場に次々と連絡して、美幸には家に帰るように指示をした。
三十分もしないうちに警察のパトカーや消防車のサイレンの音が鳴り響き、西芳賀橋の周辺に車と人が終結し騒然となった。
消防と警察は小型ボートを川に浮かべて捜索する準備を始めた。また、西芳賀橋の南側にテントと机を設置し、仮設の現地対策本部を設けた。
テントに男女二人が飛び込んできた。
「斎藤賢治の両親です、賢治は、賢治はどうなりましたか」
二人とも顔面蒼白だった。喜多方警察署から派遣され現地の指揮をしていた中年の警察官が賢治の両親の前に進んだ。
「喜多方警察署地域安全課 警部補の鈴木です。斎藤賢治君が川に流されたとの通報を受け、私を含め警察隊七名、消防救助隊四名、消防団八名の合計十九名、警察ボートが二台、消防ボート一台で捜索を始めています。各部隊の人員を二つに分けて上流はこの西芳賀橋から下流は山郷ダム付近から挟み込むような形で捜索しています。見つかり次第、救急車が駆けつけます。川岸に体が上がっていることを期待しています。申し上げにくいですが川底に沈んでしまっていると発見はかなり難しくなります。無事に救助できるよう精一杯取り組みます」
落ち着いた、しっかりとした口調だった。話している間も、平机におかれた無線機からは捜索隊の現状が次々と報告されてきた。しかし「発見した」との声は聞こえてこなかった。
(第10話に続く)
【閑話休題】
東海道新幹線から山陽新幹線になりました。福島県から福岡県に移動している新幹線の車内で原稿をアップします。もうちょっと順調に書くことができるかと期待していましたが、あまりはかどりませんでした。しかし「この週末でゴールを目指す」というノルマを自分に課していますので、足掻きながらのアップです。展開を追うだけで、ちゃんと物語らしく整えらす描写も中途半端ですが、お赦しください。
間もなく岡山です。
#何を書いても最後は宣伝
カイギュウを一旦完結させたら、「会津ワイン」のリライトを考えています。熊田譲二視点でのお話です。
いいなと思ったら応援しよう!
