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【創作SS】桃栗三年柿八年 #会津ワイン黎明綺譚外伝

 玄関のドアを開ける前から感じていた。
(今夜はカレーか)
 玄関に入り予感が確信に変わる、台所にいるだろう母に声をかけた。
「ただいまー」
少し間を入れて声が返ってきた。
「お帰りー、遅かったのね。ご飯?お風呂?」
風呂に向かいながら答える。
「風呂に入る。あと、大藤さんもこっちで晩飯を食ってもいいか。大丈夫なら連絡する」
「今日あたり来るんじゃないかって気がしてたのよ。カレー、多めに作っていて良かったわ」
安堵しつつ風呂場に向かい、服と肌着を脱ぐ。
 いつもより汗臭い気がしたが、スッキリと心地良い気もする。脂汗というか冷や汗というか、いつもと違う汗をかいたことは間違いない。今も恥ずかしい気持ちと、誇らしい気持ちが混在している。

 風呂場に入る前に桃子にショートメールをし、あらためてごはんに誘う。すぐに返事が返ってくる。
 携帯の画面を見ながら葡萄畑で過ごした2人の時間、桃子を抱きしめた時の柔らかな感触を思い出す。シャワーを浴びるのがもったいない気もしたが、汚れたままで飯を食うわけにもいかない。

 湯船で足を伸ばしながら、畑で過ごした時間を思い出す。なんてこった、心も体も桃子に占められているみたいだ。いい年をして恥ずかしくなる。

 パジャマに着替えてからリビングに入る。桃子はまだ来てないが3人分のおかずがテーブルに並び、カレーと3人を待つだけとなっていた。
「ビール、飲むでしょ」
言いながら、母がビールとグラスを持ってくる。
「あぁ。だけど飲む前に話をしておきたい。
 大藤さんと付き合うことになった。結婚前提と考えている」
「そう」
 ビールとグラスをテーブルに置いて、何も無かったかのように台所に戻ろうとする。予想外の展開にちょっと慌てて母さんを呼び止める。
「そうって、それだけかい。何のリアクションもないのかい」
母さんは、お盆を置くやいなや
「じゃぁ、言うけど、遅いっ!too late、too lateよ。全く、人の気も知らないで、桃ちゃんのことも思いやらないで、告白するまでいつまでかかってんの。もう、待ちくたびれたわよ!
って、言えば良かった」
 烈火のごとく捲くしたてると、小首を傾げた。
「いや、遅いって言われても、なんていうか、その、タイミングというか」
「愚図愚図言い訳しないっ。けど、ちゃんと告白したんなら良かった。
 ♪桃ちゃん3年、柿8年、うちの息子は30年(^^♪
 時間はかかったけど、まぁ良いわ」
母さんは、ニッコリとほほ笑んだ。
「驚かないのか、俺たちが付き合うことに」
「何年、あんたの母親やってると思うの。あんたが桃ちゃんに惚れてることなんて、とっくに丸っとお見通しよ。ちゃんと桃ちゃんのこと幸せにしなさいよ。それと・・・あんたも幸せに成りなさい」
母さんの真剣なまなざしを正面から受け止める。
「もちろん、2人で幸せになる」
「そう。一、年長者(としうえのひと)の言ふことに背いてはなりませぬ。だからね」
黙って頷いた。

『こんばんはー』
 玄関が開く音に続き、桃子の声が響いた。立ち上がろうとした俺を母さんが手で制して、1人で玄関に向かう。
「桃ちゃん、待ってたわよ。待ちくたびれたわよ。
 ・・・まぁ、待たせた譲二が悪いんだけどね、待たせてゴメンね」
桃子に捲し立てる声がした。
「譲二さんを育ててくれた、お母さんに感謝です。あらためて、よろしくお願いします」
「・・・時間はかかったけど、いい男に育てたつもり。
 そんで私はここまで。桃ちゃんがよい夫、よい父に育ててね」
(気が早いな、訳のわからないことを言ってやがる)
と思いながら沸々とした思いが溢れる。
(桃子と2人だけじゃない、父さん母さん、良樹や村のみんなと幸せに成るために、もっともっと良い葡萄を作ろう。桃子とこの地、会津ならできるはず。まだまだこれからだ)
 
 冷たいビールを一気に飲み干した。
(本文ここまで)

#会津ワイン黎明綺譚
 の外伝と申しますか、エピローグです。「会津ワイン黎明綺譚」をお読みでない方は「何の話?誰の話?」という印象を抱かれるかと思います。
 実はこの展開自体は今から1年半前の「本編執筆時」にありました。ただ「オチとして弱い」「焦点がぼやける」という印象がありましたので割愛しました。今回も「もうちょい練りたい」と思いつつ、公開してしまいます。

 譲二、良樹、智恵子そして桃子の「前日譚」みたいな話を投稿しましたので「譲二母」のことも書きたくなりました。譲二母は「くじらさん」に共感していただいたキャラで「くじらさんのためにも再登場させたい」と思いつつ、時間がかかってしまいました。
 
  note街で遊ぶようになり3年半になろうとしています。書き手として成長できたのかはわからないです。素敵とか凄いと賞賛されるような作品を作ることはできていません。

 けど、3年半前には1行も無かった物語があり、1年半前には書くことができなかった物語を遺すことができた。
 そして拙い作品を読んでくださる仲間がいる。
 そのことは誇らしく有難く感じています。9月は投稿ペースが劇落ちで、新作の創作も進まず悩ましい気持ちがありますが、交流してくださる皆様に感謝申し上げます。そして
#何を書いても最後は宣伝
 本編とは全く関係ありませんが、今月1ページも読まれていない物語がこちらの「元宮ワイナリー黎明奇譚」と

 こちらの「夢見る木幡山」です。

 
 


 

 


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福島太郎
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