見出し画像

【創作大賞】頑強戦隊 メガネレンジャー(第12話・QB第1話)

QB1 キューティバニー 推参! 

 男は真に悩める者だけがたどり着けるというインターネット上の掲示板に入力した。
『月が綺麗ですね』
(こんな都市伝説に頼るなんて。ヤキが回ったな)
自嘲的な笑みを浮かべながらため息をつき、珈琲を口に運んだ。珈琲はすっかり冷めてしまっていた。
(しかし、どう手を尽くしても手にいれることができなかったインドの至宝。21世紀だというのにこれほどカースト制が根深いとはな。アレを手に入れるためなら悪魔と取引しても構わない)
背後に気配を感じ男は振り向いた。白いバニースーツの美少女が立っていた。
「お悩み快ケツ キューティバニー推参。心の闇を照らしてあげる」(ポーズ)
「ま、まさか本当にいたのですかキューティバニー。よくぞ来てくださいました。お願いです、余命僅かな父の最後の願いを叶えてください。
『算術、幾何学、微分積分、解析学、構造学などインド数学の秘術を尽くして生産されるというお茶、インドの【秘宝ダージリンティ】』
特級階級のマハラジャしか飲めないと言われており、私は手に入れることができませんでした。馬鹿な願いと思うかもしれないですが、父に飲ませてあげたいのです。金もコネもカースト制の前には通じませんでした。末期癌で食事も満足に取れない父ですが、「美味しい紅茶が飲みたい」と時折呟くのです。何とぞお願いします」
 男はキューティに近づき手を掴もうとしたがキューティは後ずさりした。
「お触り禁止、だけど返事は即ケツ、依頼は合点承知。ちょっとお時間いただきますが、三日後のお茶の時間、お湯を沸かして待っていてね」
キューティはウィンクすると、窓から漆黒の夜に消えた。

 三日後、リビングに座る老人と男。時計の針はもうすぐ三時を指そうとしていた。

「お宝月兎(ゲット) キューティバニー推参」
 キューティは音もなく2人の前に姿を現わすと、自然な動作で3人分の紅茶を淹れた。
「来てくれたんですねキューティ。ありがとございます。あぁ、この高貴な香り。これが、これが【秘宝ダージリンティ】なんですね。さぁ、お父さん、世界一美味しい紅茶、インドの【秘宝ダージリンティ】です」
カップを老人の前に動かそうとした男をキューティが手で制した。
「まって、まって、まって、ちょっと待ってなんだもん。
 欠けても戻る月の光は再生の力 ムーンプリズム・ルネサンスパワー」
キューティの尻尾から銀色の光が放たれ、3人の前に和服を着た1人の女性の姿が映し出された。老人が涙ぐみながら女性に微笑む。
「清子、お前が大好きなダージリンティだ。世界一美味しい紅茶を和生が用意してくれたんだ。もう一度お前と一緒に茶を飲みたかった」
老人は一つのカップを女性の前に静かに動かし、もう一つのカップを自分の手にすると、香りを楽しむように目を閉じた。閉じた目から涙が溢れていたが、老人は幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 老人が紅茶を口にすると、微笑む女性の姿は消えた。
 老人の瞼が開かれることはなかった。

「月の光は心を映すの。お父さんが本当に飲みたかったのは【秘宝ダージリンティ】じゃなく、亡くなった奥様と一緒に飲む【夫婦ダーリンティ】だったみたいね」
 キューティは魅惑的な表情で男に微笑み
「お悩み快ケツ キューティバニー。月の光で心を照らしたわよ」
音もなく姿を消した。新たな光を輝かせるために!
(12話・QB1話おわり)

#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!

福島太郎
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。