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中年以上しか出てこない地獄の恋愛リアリティショー「あいの里」があまりにも“人間”すぎた件

恋愛リアリティ番組というジャンルがあります。「素人」(というテイで実際はほとんどタレントの卵だったりする)男女が集められ、誰が好きだの嫌いだのという話を赤裸々風に見せる人気コンテンツ。リアリティが売りと見せかけて盛大に演出や編集が入っていることも含めて、しゃらくせえと思う人も多いのではないでしょうか。

私も基本的にはしゃらくせえと思う側の人間で「こんなもんで数字を稼ぐやつも喜んでいる人類も愚かだ」と思っております。一方で以前「バチェラージャパン」が友人間で流行った際にはまんまと毎週の配信を楽しみにするほどのめりこみ、「あの人はああでこうだからあの人に上手くいってほしい!」などと飲み会で連日熱弁をふるっていました。あんなおもしろコンテンツ見たら全員そうなる。人類は愚かで私もまた愚かな人類なのだ、と思いました。

で、見るとハマっちゃうので基本見ないようにしているのですが、先日妻が「ネトフリの『あいの里』って恋愛リアリティショーが面白そう」と言ってきました。そういうの一切見ない妻がそんなこと言うの珍しいなと思ったら、「35歳以上の男女しか出てこない恋愛番組」らしい。絶対おもろいやろそんなん、ということで一気に見ました。

どうだったか。むちゃくちゃ面白かったです。当たり前すぎる。

40歳とか50歳をすぎて「恋愛をしたい」とかのたまっている人たちなので、一癖どころか四十八癖くらいある人ばっかりです。バツイチ、子持ち、複雑な家庭の事情は当たり前。田舎の古民家でそうした人たちが共同生活をするんですが、開始早々に50歳のおっさんと60歳のおっさんが「薬を1錠飲んだか2錠飲んだか」で大喧嘩を始めて、人間臭すぎて笑いました。恋愛したいとか言ってる場合じゃない。見てる人全員が「そういうとこだぞ」って思ったと思う。

最初は穏やかで聞き上手みたいなキャラだったおっさんが、途中から実は「あいつは話しかけたら笑ってたしあいつとは目が合ったからどっちも俺のこと好きだと思う。困ったな」みたいなスーパー勘違い野郎だったことが判明するくだりなどはホラーコメディの趣がありました。お笑いとしては「働くおっさん劇場」にも近い。令和の世に発表するコンテンツとしてはきわどいところですが、様子のおかしいおっさんなんてなんぼあってもいいですからね。

告白の決心がついた人は里にある鐘を鳴らして想いを伝える、というルールがあるんですが、60歳の中さんという最年長のおっさんが決意のこもった表情で鐘がちぎれるくらい打ち鳴らすシーンがあります。ここがシリーズ通して一番好きなシーン。私と妻は腹がちぎれるくらい笑いました。

ここだけ見ると不器用に恋愛してる人間を一方的に笑いものにしているようにも見えるかもしれませんが、この中さんも30代の姉ちゃんが入居してきた瞬間、それまでの紳士ヅラから豹変、キャバクラ行ったおっさんそのもののスケベじじいと化して無様に調子こいたりとかしていて、そうした二面性が“深み”になってでかい笑いになっています。その滑稽さがあるからこそ真面目に思い悩むギャップが際立つ。MCのロンブー淳とベッキー(素晴らしいキャスティングだった)も爆笑したと思った次のVTRではガチ泣きしていたりして、中年の「見苦しいほどの人間味」にグッと引き寄せられる構成になっています。

テイストとしてはまあまあバラエティ番組なので「大人の恋愛」のコミカルな部分を強調する表現もあるけれど、生々しい部分もたくさん描かれているのがいい。セックスについての価値観、年収はいくらか、連れ子や親はどうするか、など惚れた腫れたではない「終のパートナー探し」に関するガチトークも展開される。「在日韓国人家系の長男で年に18回親族の集まりがあって嫁は基本立ちっぱなしっていう厳しい伝統があるけどついてこれるか」とかいう5歩くらい先の悩みで恋愛が停滞するのエグいなと思いました。でもそれが中年の男女関係だよなと。

60歳を過ぎて「恋は冷めるもの」と一歩引いていた女性に、40過ぎのおっさんが「恋愛対象として見ている」とアプローチするシーン。動物としてのピークを過ぎても、人間は「男」や「女」としての本能を一生背負って生きていかなければいけない、という業のようなものを感じました。あの迫力は40歳過ぎないと出せないと思う。

「好きになったら一直線!」みたいなやつばかりではなく、いい年してみんなでBBQしたりする生活に第二の青春を感じてほとんど恋愛しないまま終わっちゃうやつがいるのもいい。年齢も属性もわりとバラバラな集団に妙な一体感が生まれて「みんな幸せになってくれー」みたいな気持ちになる、あの感じ。僕も以前会社の仲間とキャンプした後に除雪車で泣いたとき、そんな感じの心境でした。

恋愛リアリティショーなんてぶっちゃけ人間を見世物にする悪趣味なものだと思います。そしてそれだけ趣味の悪いものがつまらないわけがない。『あいの里』は人生経験豊富で、豊富なわりに欠けたところの多い人間たちの“人間味”の出汁がたっぷり出た番組でした。すさまじく濃くて、面白かったです。

以下、マシュマロ返信です。今回は一部無料にしておきます。


『亀戸お遊び組』について話しているポッドキャストがあったので感想を聞きたい

こちら「邦訳アメコミ雨あられ」というPodcastで、最近読んだ漫画として『亀戸お遊び組』を紹介してくれていました。せっかくなのでここまで無料部分としてリンクはっておきます。自動文字起こしもありました。

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