民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』
2024年10月31日の18時からPrime Videoで『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』が全世界に配信を開始する。
この番組は、私が大学卒業後の2008年から2022年まで14年間務めたテレビ朝日を退職し、2023年からAmazon MGM Studiosに転職して、ようやくたどり着いた”Amazon1作目”の企画・演出作品である。
つまり、転職から1作品目を世に送り出すまでに1年11カ月、およそ2年を要したわけだ。
ありがたい話でしかないが、テレビ朝日時代は「あいつ今何してる?」が2015年から自分にとって初めての企画・演出レギュラー番組となり、そこから退社するまでの8年弱、毎週に渡って自分の作品を世に送り出す経験をさせてもらえていた自分にとって、2年間何も作品を世に送り出せない期間はすさまじい違和感であると同時に「ハリウッド映画かよ」という制作準備期間は自分にとって新鮮であり、多くの新たな知見を得ることが出来た2年間だった。
さて、そんなハリウッド並みの製作期間を経て完成に辿り着くことが出来た「ゴールデンコンビ」は、奇しくも私と同タイミングで日本テレビを退社した「有吉の壁」などを演出する橋本和明さんとの”ダブル企画・演出”で、作り上げてきた。
「THEゴールデンコンビ」は千鳥をMCに迎え、優勝賞金1000万円を目指して、8組の実力派オリジナルコンビの中で最も面白いコンビを観客投票で決定するお笑いサバイバル番組だ。
パッと番組コンセプトを聞くと、「あ~なんかドリームマッチ的な?」「Amazonが何か金かけて新しいお笑い特番を立ち上げたのか」なんていう心象を持つのではないだろうか?
しかし実は、この「ゴールデンコンビ」は、橋本さんと共に文字通り”構想2年”というバラエティー番組としては考えられない時間を割いて割いて準備をし続け、橋本さん21年、芦田16年というテレビマン人生で得た知識、経験、人脈、全てを投下して完成させた”民放の総力結集”番組ともいえるのである。だが、「たかが2人のテレビ局退社男が配信プラットフォームで1番組制作したくらいで”民放の総力を結集”だなんて大げさな…」と思う方もきっといるだろう。
しかしこれは、大げさでもなんでもなく、”テレビ”が1つのバラエティ文化発信基地であるとしたら、配信プラットフォームがもう一つの(新たな)バラエティ文化を創出する土壌になれるかもしれないと思えた約2年間の結晶であり、そして勝手な使命感で、テレビへの恩返しと感謝も込めて、その日々を記録として残しておこうと思う。
2022年12月31日 橋本&芦田 テレビ局を退社
2022年12月31日、橋本さんが日本テレビ、芦田がテレビ朝日を退社したことをXにて同タイミングで投稿した。
そもそも私と橋本さんは、局が違い、年次も異なる(橋本:2003年入社・芦田:2008年入社)が、テレビ局員時代から交流があった。
というか、交流どころか、”水曜よる7時”というゴールデンど真ん中の”表裏”を演出家として背負うライバルでもあった。つまり、橋本さんは日テレで水曜夜7時「有吉の壁」、芦田はテレ朝で「あいつ今何してる?」を共に企画・総合演出として制作しており、まさにライバルでもあり、戦友という関係性で、定期的に飲みに行って意見交換をしたり、刺激を受け合う仲だった。
そして、どういう因果か運命か、2022年の11月に「色々話したいことがあるから」と集まった新橋の居酒屋で、橋本さんが「年内で日テレ辞めてフリーになる」と急にカミングアウトしてきて、「え、マジですか?俺も年内でやめてAmazon行きます。それ言おうと思ってて今日」と、まさかの同タイミングで局を辞めることが判明。間にいた日テレの黒川さんは頭抱えてたけど、「じゃあ来年からは一緒に番組作れるね。すぐ企画会議やろう。」と誓い、意気揚々と解散したのを今でも鮮明に覚えている。
2022年2月 二人で企画会議スタート
そして互いに第二の人生を歩み始めた2023年2月、私が少しずつAmazonの企画承認プロセスを理解し始めたところで、橋本さんと二人で企画のブレスト会議を開始した。
ここで早速、テレビ朝日時代は味わうことが出来なかった転職した意義みたいなものを実感する。
それは何かというと、”総合演出同士での会議”だ。
何だよそんなことかと思うかもしれないが、自分が番組の総合演出をやっていると、当然番組の最終決定者、責任者となるため、”もう一人総合演出がいる”という状態で会議することは、とても新鮮なのだ。なにせ、総合演出によって国が違うくらい会議、ロケ、収録、編集、などの番組制作プロセス全般のスタイルが全く違うから。しかもかつては水曜7時を表裏で鎬を削ったライバル…全然意見合わなかったらどうしよう…なんてことを数秒は心配したが、ただの杞憂だった。
テレビ局時代から飲んでいる時に話していてうすうす感じていたが、橋本さんとは演出論や企画をゼロから具体に固めていく導線が近いものがあって、互いの良さを打ち消すことなく、むしろ良い相乗効果を生んでテンポよく、リズムよく演出方針が決まっていく感じが手に取るようにわかって「これは勝てる企画が生まれるかも」と初回の会議から感じることが出来た。
目指すは「ドキュメンタルに続け」
そして肝心の企画会議のテーマは「Nextドキュメンタル」。
配信バラエティで最も知名度があると言っても決して過言ではない「ドキュメンタル」。
「バチェラーシリーズ」と共にPrime Videoのサービスを大きく成長させたヒットコンテンツに続け。
そこで私たちは、「1日で撮影できるお笑いサバイバル」、「ドキュメンタルにかぶらないルール」「ハードコアになり過ぎないお笑いバトル」、「テレビでは実現が難しい」、を必要条件として、そこから企画やルールを逆算して創り始めた。以下、初回会議の企画メモである。
元ネタはイロモネア+ウィーケストリンク。これをお笑い版にリブートしてスタイリッシュに超カッコよく作る。
千鳥MCで。舞台はお笑いスタジアム。ピン芸に自信のある8組が集められる。
観客数百人?のコロシアムで1分のお題に沿ったネタを披露。(モノボケ、モノマネ等)
ネタ披露後、観客が8組で一番面白くなかったと思う人を投票して、選ばれた芸人の床が抜けて消えていく。
同様にして最後の2人になるまで減らしていく。
流れが単調にならないように「ミリオネア」的なヘルプシステムを導入してGame Showに見せる
例えば…作家と電話できる(ネタの相談)など
ラストは観客の投票で選び、優勝した芸人に賞金1千万円が贈られる。
千鳥がクセのある挑戦者に実況席からツッコんでいく。
1日で撮りきれるので、かなり効率的に作ることができるというメリット
チーム編成は最高戦力で
ここから二人で2~3回会議を重ねてコアアイディアをブラッシュアップしていき、企画の骨子が整ってきたなという段階に突入してきたタイミングで、作家、制作スタッフなどのチーム作りの全体像を二人で話し合った。この番組を最も面白くするには、どんなスタッフを招集するべきか?
ADからのキャリアをスタートし、ディレクター、演出として14年、社会人としての土台を全て作らせてもらったテレビ朝日を退社してのAmazon一作目。
「あざとくて何が悪いの?」「あいつ今何してる?」「トゲトゲTV」「まだアプデしてないの?」など、自分が企画・演出していた4番組を道半ばで同僚や後輩に託してしまい、自分のキャリアを優先した…もちろん自分の選択に後悔はないが、大げさではなく、自分の番組は自分の子供くらいに尊い。
だからこそ、「ある意味裏切ってしまった人達のためにも、絶対にAmazonでの番組制作は成功させなければならない」、その作品を見た人たちが「芦田は転職して正解だった」と思ってもらえるような作品を作らなければ。
「14年で培ってきた経験と人脈をフルスイングで出し惜しみしない」
その志で、作家(そーたにさん、樅野太紀さん、大井洋一さん、渡辺佑欣さん)、制作スタッフ共に、橋本さんは日テレ時代に、芦田がテレビ朝日時代に培ってきた人脈をフル活用し、互いが信用する腕のあるP・D(ゴールデン・プライム帯で演出を背負うクラスのDが、各コーナー担当Dとして参加してくれた)を招集して、2班を合体させたドリームチームが完成した。これが、まさにテレビ局時代には実現できかったことで、転職した意味を感じることができてワクワクした。
そして、橋本さんが率いるチームのベースは「有吉の壁」チーム。
なぜならこの番組は”即興コント”の大会だから。
制作や技術、美術のミスや準備不足で、芸人さんたちが必死に考えたネタのクオリティを下げてしまったり、小道具や衣装に欠陥があって、やりたいネタが出来ないなんてことは絶対に避けなければならない。「滞りなく収録が進んで当たり前」という、実は最も難しい準備を完璧にこなす必要がある。
そして実際に収録準備から本番にかけて、「有吉の壁」チームのP・D・ADの即興コントに必要な準備、リスクマネジメント管理が圧倒的に優れており、本番収録時にトラブルらしいトラブルは一つも起きずに、陰ながら芸人さんたちのハイレベルな即興コントを支えた。
実際に収録後、令和ロマンのくるまさんやホリケンさんから「裏の動きがマジで無駄がなくてありがたかった」と言われた。打ち上げでADたちに伝えたら大喜び。まさに制作冥利に尽きる。
テレビ美術の最高峰
番組の大きなカギを握るスタジオセットのデザインは、橋本・芦田の総意で、フジアール(フジテレビ系列の美術会社)の敏腕デザイナー鈴木賢太さんに依頼した。
鈴木賢太さんといえば、「IPPONグランプリ」や「FNS歌謡祭」など、フジテレビを代表する特徴的で印象的かつスタイリッシュなセットデザインだけでなく、スマスマの歌セットをデザインしていた当時、出演したレディガガが彼のデザインに感動して、コンサートの演出をお願いしたいから連れて帰ろうとしたという逸話を持つ業界では知らない人がいないデザイナーである。
鈴木さんはこのオファーを快く受けて下さり、橋本さんと自分のセットアイディアをこれ以上ない形で具現化してくれた。そしてこの美術セット=番組のデザインは、番組の宣伝施策において非常に重要な要素となる。それはどういうことか?
番組のキーカラーは”まだ見ぬ配色”に
テレビ番組との最大の違いともいえる「配信番組は一発勝負」。
つまり、レギュラー番組のように毎週の放送で徐々に認知度を上げていったり、放送回ごとに様々な新たな企画をミニコーナーで試してみて、反応が良かったものをレギュラー企画に落とし込む、なんてことは一切できない。だからこそ、何はともあれまずは「ゴールデンコンビ」という番組を認識し、認知してもらう必要がある。その第一次情報となる「番組ロゴ」は、まだ見ぬ視聴者に番組を印象付けるために非常に重要なパーツだ。それでいて過去や現在にある人気番組と混同されないような配色とデザイン。それを踏まえて鈴木さんと辿り着いた配色が”黄緑×ピンク”だった。
そしてこの2色のキーカラーを元にロゴ、スタジオデザインのトーンが決まり、あらゆる番組デザインのアイディアを膨らませていった。番組制作の醍醐味の一つというか、個人的にこのプロセスは結構好きだ。なんていうか、自分のプラモデルの完成をイメージしながら、組み立てて、色を塗って…骨格から徐々に完成形が見えてくるワクワクは、何物にも代えがたい興奮がある。
そんな鈴木賢太さん率いるフジアールとの共同作業は、これもまた局の垣根を超えたコラボになり、テレ朝時代には味わえなかった知的興奮と発見にあふれていたし、これで日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビに関連するスタッフが総動員されている番組となっていったわけだ。
お笑いファン+αを巻き込める番組に
さぁそして肝心の中身だ。
先述したように、この企画の出発点は「ドキュメンタルに続け」だ。
これはつまり何を意味するかというと、「ドキュメンタルと同じことをやってもNEXTドキュメンタルにはなれない」。もちろん既存のお笑いバトル番組もしかり。当たり前だ。
●千鳥がMC
●人気芸人が「この人と組めばどんな状況でも面白くできる」と思う相方を指名してコンビを結成する
●即興コントで戦う
●即興コントのお題は、ステージごとに地下数メートルからセットごとせり上がってくる
→コントセットそのものが地下から現れるという今まで人が体験したことが無い現象を起こすことで、次は一体何が出てくるんだろう?という期待感、緊張感の創出に加えて、ビジュアル的インパクトで初見の視聴者にも印象付ける(これらはテレビの制作予算では実現が難しいスケール感であった)
●審査員は観客200人(20~50歳の男女)→第一に「ドキュメンタル」や他のお笑い賞レース番組との審査方法の差別化に加えて、その意味でも過度な下ネタや、芸人同士のみで理解できる、笑えるハードコアなお笑いを展開しづらい環境を作り出す(家族でも視聴できる真剣なお笑いバトル番組を創る)
●「一番面白くないコンビ」に投票してもらうことで、「脱落したくない」という真剣勝負の空気感を作り出す
上記がドキュメンタルなど、既存のお笑いバトル番組との差別化ポイントを簡略化したものだ。
そしてさらに、我々が目指すべきは「(大)ヒットする番組」である。
そのためには「お笑い」「芸人」が大好きな視聴者の方々に加えて、「面白ければ見る」「時間があれば見る」「話題になっていたら見る」(そこまでお笑いや芸人は好きじゃないけど)という層を取り込むことがマストとなる。この高難度の宿題を見事にクリアしたのが橋本さんが演出する「有吉の壁」ともいえる。では、芸人ファーストであり、芸人のガチ即興バトル、芸人たちの真剣勝負を邪魔せずに「ゴールデンコンビ」の視聴者拡大を実現する戦略とは何なのか?
それは即興コントの"お題"&セット(小道具)の一部としてゲストが現れるという演出だ。
この点に関してはMCの千鳥さんとも何度も何度も打ち合わせを重ねて、「あくまでもこの番組の主役は芸人」という大前提を守ったうえで、豪華ゲスト陣のお題としての出演法を練りに練った。
ネタバレになってしまうのでこれ以上書けないが、コントセットの小道具、即興コントのお題として登場するには豪華すぎるゲスト陣は、今までのお笑い番組では観たことが無い活用方法になっていると思うし、SEASON1という未知の番組にもかかわらず、その出演法を快諾して下さった皆さんに感謝しかない。もちろん芸人達だけで即興コントを行うステージもあるのだが、是非注目してみて楽しんでほしい。
総合演出2人の役割分担
続いて、豪華ゲスト、出演芸人のキャスティングに関して。
橋本さんは自らキャスティングするタイプの演出家では無かったため、結果的にその部分も良い役割分担になった。
まず、出演芸人で言うとホリケンさんは「あいつ今何してる?」で10年弱の付き合い、屋敷さん、サーヤさん、澤部さん、ゲストの道枝さんは、テレ朝時代にレギュラー番組を一緒にやっていたので、自らマネジメントや本人に出演交渉した。
ホリケンさんは今回の出場芸人の中でダントツでベテランということもあり、しっかりこの番組の狙いや、ホリケンさんになぜ出て頂きたいかを直接言葉で伝えなくては!と思い、僭越ながら食事の席を設けて本人に直接頼み込みに行った。その様子はニューヨークのYouTubeに出演した際に面白おかしく話してくれている。そんなホリケンさんの文字通り”真のお笑い芸人”っぷりを是非目撃して欲しい。心から思う。マジで凄かったから。
しかしそれもこれも全て、元をたどればテレ朝時代の経験がなければ、なしえない人脈であることは間違いないわけで、そんな経験を積ませてくれたテレビ朝日への感謝を何度も痛感した。
そして何度も言うように「ゴールデンコンビ」が目指すのは多角的ヒット。
そこで、”番組テーマソング”を作ることにした。近年のバラエティ番組や賞レースでは番組のブランディングの一環としてテーマソングを製作する例が増えてきている。
自分も「あざとくて何が悪いの?」を演出している時には、各シーズンの連ドラに異なる主題歌をタイアップして、ブランディングという観点に加えて、そのアーティストのファンにもリーチして番組に興味を持ってもらうという手法で手ごたえを感じていた部分があったので、今回もそれを実行に移した。このあたりの戦略も橋本さんは「芦田さんに任せます」と言ってくれて、総合演出二人が互いの得意・興味分野を最短のコミュニケーションですみ分けて番組全体を構築していくプロセスは大変心地よく、充実感に満ちていた。
番組主題歌は礼賛
そして主題歌制作をオファーしたのは、今回の出場者でもあるサーヤさんがボーカルを務め、川谷絵音さんがプロデュースするバンド 礼賛。
これも実はテレ朝時代のツテが生きまくっていて、川谷さんとは「関ジャム」でゲスの極みがゲストに来た際に私が担当Dとして向き合って以来の仲。
この放送回は自分のディレクター人生にとっても大変大きな演出経験で、それ以来川谷さんには「あざとくて」にも出てもらったり、音楽だけでなく、様々な刺激を貰える仕事仲間としての関係が続いていた。
そしてサーヤさん。レギュラー番組を一緒やっていただけでなく、芸人としてこの企画の過酷さを理解し、芸人目線での企画への思いを歌詞に落とし込むことが出来る。そして何よりも、彼女はこの番組の出場者である。最初、デモ音源と共に歌詞カードが送られてきたときは震えた。そして同じく出場者である令和ロマンくるまさんをfeat.で呼ぶという粋な演出。本編ではエピソード1ど頭からこのテーマソングが鳴り響きますので是非お聞き逃しなく。
衣装はオサレカンパニー
さらにもう一つこだわったのが衣装。
千鳥さん、8組のコンビ、林瑠奈さんの衣装は、「あざとくて何が悪いの?」時代にお世話になったオサレカンパニーに生地から作って頂いた。
デザイナーの茅野しのぶさんは、AKB48の衣装デザインを筆頭に数々の有名衣装を手掛けてきた一流。しのぶさんと何度もデザインを話し合い、どこにもない世界に一着の衣装を19着制作した。
これだけの数の出演者の衣装に、ここまでの予算と時間をかけることは、正直テレビでは非常に難しく、ここでもAmazonに来た意義を見いだせた。つまり、「ゴールデンコンビ」という番組制作の全編を通して、「テレビ時代と比較するとあまりある時間と予算を有意義に使わなければならない(そして結果を残さなければならない)」という、映画並みのロングストローク制作が、今まで使っていなかった脳味噌の筋トレになりまくり、やりがいはもちろん、未知なる知的興奮がエゲつなかった。だからこそ、冒頭に書いた「世に2年間”も”作品を出せなかった」という事実に反して、この2年は楽しく、あっという間だった。
ナレーションは津田健次郎さん&宇賀なつみさん
そして番組全体の世界観構築に重要な要素の一つであるナレーション。
橋本さんと話し合い、「本編全体のナレーションは芸人たちの真剣勝負、即興の緊張感、豪華な賞レースとしての権威ある感じを体現できる声」という観点で声優・俳優の津田健次郎さんにオファーさせて頂いた。
さらに、実はとても大事な即興コントのお題読み上げ。「コント前にハードルを上げないために、大げさに芸人たちを煽ることなく、声の色や主張が強すぎず、それでありながら聞き取りやすく、プレーン、かつ上質であるべき」という難しすぎる条件を満たす人、誰かいるかな?と考えていて浮かんだのがテレビ朝日の1期下の後輩であり、現在はフリーアナとして活躍する宇賀なつみさんだ。
実際彼女の素晴らしい「声」は現場の壮大なセットと独特な緊張感に負けないアクセントとして、芸人たちの激闘を陰ながら支えてくれていたと思う。これもまた、テレ朝時代の縁。かつて共に同じ会社で番組を創っていた才能あふれる後輩に自分の転職1作目に参加してもらえたのは不思議な感慨深さがあった。
万全の準備を経て「いざ、収録へ」
最終的に千鳥さんとは5回に渡って打ち合わせして、お題の一言一句を最後の最後まで詰めた。
最後の打ち合わせは本番収録の3日前だった。
そして迎えた本番前日、湾岸スタジオで行われたリハーサル。
リハーサル前、スタジオフロアに番組に携わる全スタッフが集まり、そこで総合演出が挨拶して始まるのが通例なのだが、「フジテレビの技術、美術、元日テレのチーム橋本、元テレ朝のチーム芦田という民放3局の力を結集し、Prime Videoという舞台で、全員がフルスイングで、これまでにないスケールの収録をする」という事実を目の前にして、全スタッフが物凄い高揚感を感じていることが言葉を交わさずとも伝わってきた。「世界に日本のバラエティ力見せつけよう」と、とてつもない数のスタッフが一体になっていることを感じて結構感動してしまい、まだ何も始まっていないのにちょっと泣きそうになってしまった。
そして本番当日、橋本、芦田共に、フジの美術、技術のクオリティに驚愕した。
展開だけでなく、衣装やメイク、動きすら全く予想できない即興コントを芸人さんたちが恐れることなくフルスイングで行うには、小道具や衣装やメイク道具の滞りない準備はもちろん(あれが無いとかこれが無いとかの不平不満が出ないように)、制作だけでなく、美術技術の都合の待ちで良い流れや空気が止まったりすることは、絶対に避けなければならない。
しかし、全出演者が「こんなセット観たことない」と驚愕した3階建ての巨大なセット+30台近くのカメラが出ている中で、一度も美術・技術のシステムトラブルなどによる待ちが発生しなかった。こういった即興番組は「普通に収録が進む」ことが一番難しいが、本番時のシステムトラブル、事故、ミスゼロだったのだ。こういった制作や美術技術の裏方作業というのは、サッカーのディフェンスと同じで「0点が当たり前」的な減点方式で悪目立ちするので、たとえミスゼロで終えられても視聴者にはその偉業が伝わらないので、あえてここで自慢しておきたい。収録はミスゼロ!最高スタッフ!!
39歳、まだ成長できる
何よりも個人としては、橋本さんと演出家としてタッグを組んだことで、とても勉強になった。
橋本さんは「有吉の壁」「有吉ゼミ」の企画・演出プラス、24時間テレビの総合演出の経験もあるので、この手の超大規模収録の際に、どんなセクションがどんな連係ミスを起こすかという経験則が自分より圧倒的に優れており、それらのリスクや準備不足を事前につぶすきめ細やかさは全く隙が無く、学びが多かった。自分は何かを橋本さんに与えられているだろうか?という疑問はやや残っているが、自分を高め続けることが出来た2年であり、自分はまだ成長できると感じられた。
徹底した宣伝戦略
宣伝、PR展開に関しても、ここまで時間をかけて練り上げることはテレビ局時代は難しかった。
各コンビのデザイン、キャッチコピーの一言一句に至るまで、何度も考え直して、何度も書き直して完成した。
何度も言うが、テレビと違い、毎週の放送で認知度を上げていくという考えが全く通用しない一発勝負。SNS戦略、屋外広告、鉄道広告、テレビCM…どうすればこの番組を知ってもらえるか?それをマーケティング、PRチームと議論を重ねて重ねて重ねて、ようやく配信日に辿り着こうとしている。
これまでの日々には、異様な緊張感とプレッシャーはあったが、それをワクワクに変えられる今までに味わえなかった興奮充実要素がたくさん詰まっていた。
最後に、めちゃくちゃ小さな自己満足だが、自分が連れてきたフリーランスのディレクターと橋本さんが初めて仕事して、橋本さんから「あの人めっちゃ優秀ですね、今度俺の番組手伝ってもらっても良いですか?」って言われるのが結構嬉しかった。
何はともあれ2024年10月31日(木)18時からPrime Videoにて「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」が配信されます。一人でも、友達とでも、家族とでも、恋人とでも楽しんでみられる極上のエンタメに仕上がった自信があります。Prime会員でない方はお手数ですがPrimeに会員登録して頂ければ見ることが出来ます。私の16年のディレクター人生を全て積み込みました。是非ご覧ください。