関ジャニ∞と高卒認定企画
本日7/29(水)の「あいつ今何してる?」に関ジャニ∞の横山裕さんが出演する。実は今回の放送は2015年から現在に至るまでの5年半ほどの歳月を凝縮した、自分のディレクター人生を投影した不思議な作品になった。
今回は少し長くなるが、一体それはどういうことなのか書き記しておこうと思う。
そもそも「あいつ今何してる?」は、自分が2015年から企画・演出している番組なのだが、実はこの2015年に幕を閉じた番組がある。
それが「関ジャニの仕分け∞」という関ジャニ∞がMCを務め、毎週土曜よるに放送されていたバラエティ番組だ。
この番組は2011年に深夜帯の放送からゴールデンタムに昇格した番組なのだが、当時入社3年目「ナニコレ珍百景」でチーフADをやっていた自分は、「関ジャニの仕分け∞」のゴールデン昇格が決まったと同時に当時の部長に「仕分け」への異動を命じられた。
正直当時は「ナニコレ」である程度チーフADを経験した頃だったので、全く別の番組、しかもゴールデンの立ち上げのチーフADになるということは、もう一度ゼロベースで全く知らないスタッフたちの信頼を勝ち取らなければならない+ゴールデンの立ち上げ(=色々と企画も形も定まっていない→色々な番組フォーマットを決めていかなければいけない)ということで、「こりゃしばらくディレクターになれないな」とネガティブな心象で異動したことを覚えている。
あまり細かく書き過ぎてもなかなか本題にたどり着けないのでスピードを上げるが、そんなチーフADとして出会ったのが関ジャニ∞というグループだった。
彼らはまさに「気さくな兄ちゃんたち」という言葉がぴったりで、楽屋ではいつも学生のようにキャッキャしてじゃれ合っていたし、ADである自分にも気さくに声をかけてくれる少年のような青年たちだった。
そして「土曜8時」というテレビ業界におけるゴールデンタイムでも屈指の激戦区(当時はめちゃイケがいた)で色々と苦しみながらも彼らと共に戦い続け、自分は入社4年目の終わり頃に正式に「ディレクター」に昇格した。
自分が担当した企画は今やバラエティで大ブレイクしてしまったSKE48の須田亜香里を発掘した(ちなみに彼女を見つけたのはひたすら大量の女性タレントのプロフィールを見る中で、バレエの実績が際立っていた彼女に目が止まりオーディションに呼んだらとんでもない逸材だった)「柔軟女王No.1決定戦」という企画は、そこそこ結果も残し、最初15分くらいのコーナーだったのが次第に20分、30分と尺が伸び、最終的に2時間SPまるまるこの企画になる回が出てくるほど大きく育ち、それと同時に自分のディレクターとしての信用度も上昇した。
そんな中、2014年の年夏頃から動き出し、担当することになった企画が「高卒認定企画」だった。ご存知の方はあまりいないかもしれないが、実は関ジャニ∞は丸山さんを除いて全てのメンバーが”中卒”だった。
そこで生まれたのがこの企画で、「彼らが30を超えた今、改めて高校を卒業するチャレンジに挑むのはどうか?」そんな思いで企画が立ち上がった。
そしてメンバーたちに企画を持って行った時、手を挙げたのが横山裕と大倉忠義という二人だった。
しかし、この企画が立ち上がったのが2014年夏頃で、高卒認定試験本番は11月。つまりここから2〜3ヶ月間、中学レベルもままならない学力を高校卒業レベルまで高めなければならない(しかも5教科8科目!)という、ほぼ無理難題のドキュメント企画。2ヶ月間死に物狂いで勉強しても、受かる保証は全くない、面白くなるかどうかもわからない、でも2ヶ月間ジャニーズのトップアイドルを密着しなければならない。実はこれ、ディレクターの立場として、とてつもなく恐ろしい事案だった。
以下、震えた理由を箇条書きにまとめる。
さらに不安要素でいうと、ぶっちゃけそれまで柔軟企画をメインでやっていた自分は、MCの役割をしていた村上さん以外のメンバーとはそこまで密に会話することは無く、おそらく彼らも自分の名前と顔を認識している程度の仲だった。そのため、これから2ヶ月以上時間を共にする横山さん・大倉さんとうまくコミュニケーションをとりながらやっていかなければならないというプレッシャーもあった。
そして始まった高卒認定企画。二人は予想以上にストイックだった。
こちらが選んだ専任の家庭教師と連日テレビ朝日の楽屋や会議室で勉強する日々。
大倉さんに関しては初日の学力レベルチェックで、基礎学力が非常に高いことがわかり、正直「これはイケる」と家庭教師の先生と早々に確信したことを今でもはっきり覚えている。
しかし一方の横山さんは…「イギリスの首都は?」と先生に聞かれて「ポーランド」と即答するという想像をはるかに超えたスタートライン。
最終的に二人合わせて2ヶ月で300時間超え(もちろん我々制作スタッフはずっと密着)という猛勉強ぶりをみせたが、おそらくそのうちの200時間以上が横山さんの勉強時間。
彼は本当に取り憑かれたように勉強していたし、試験直前には12時を回っても勉強し続けていた日もあった。家庭教師の先生ですら「合格する確率は0%」と言い放った横山さんの学力だったが、死に物狂いの努力が身を結び、そして二人は見事合格を掴むのである。
一方我々制作は、彼らの努力っぷりを目の当たりにしながら「この楽屋定点で撮影された膨大な素材をどう面白く、ドラマチックに編集できるか?」という、まさにディレクターの腕が問われる難題を喉元に突きつけられた感覚が日に日にリアルになっていった。
この”リアル”は、ハッキリ言って恐怖に近い。
なにせトップアイドルがプライベートの時間ほぼ全てを割いて、番組企画のために死に物狂いで努力しているのだ。
仮にこれを自分が編集したオンエアが低視聴率に終わったり、低評価の烙印を押された場合、それはイコール「芦田の作品、ディレクションがダメだった」という烙印にも直結するのだ。
ディレクターという仕事の醍醐味や恐怖というのは、そこにある。
つまり、面白ければどんな若手ディレクターであろうと、「あいつは優秀なDだ」となるし、低視聴率だったり、面白くなければ「あいつの編集はダメだ」となる。そしてその舞台が大きければ大きいほど(ゴールデン>プライム>プライム2)、その烙印のインパクトも比例する。
さらにそれと同時に当時の「関ジャニの仕分け∞」は視聴率的にも苦戦が続いていて、この長期密着企画への期待値も大きかった。
「中卒のジャニーズトップアイドルが高卒認定試験にガチで挑む」
というキャッチーな見出しと企画は、事前にネットニュースでも大きく取り上げられた。
これは、ポジティブに捉えれば「芦田というディレクターの名をあげるチャンス」というわけだ。
が、それと同時にディレクター人生史上最大の素材量(300時間超え)をどう編集していくか?という大きな壁にぶつかることになる。
これは本当に苦しい編集作業だった。
間違いなく、人生で一番時間をかけて編集したと思う。
「いつ終わるんだ?」と1000回以上は思ったし、「これで完成だ!」なんて到底思うことができなくて、色々な人に色々な角度で意見を聞き、体感でいうと5000回くらい直した。
当然、当時番組で上司だったDには死ぬほど見てもらったし、「ドキュメンタリーといえば…」ということでナスDこと友寄さんにも相談に行ったし、何よりも当時仕分けの構成作家だった樋口卓治さん、都築浩さんには、「芦田君、まだ見るの?もう面白いから大丈夫だよ。」と言われるくらい、何度も何度も何度も直してプレビューして、それを繰り返し続けて意見をもらった。
ある意味、それくらい自信がなかった、のだと思う。
土曜8時というゴールデンど真ん中で関ジャニ∞がただひたすらにストイックに勉強し続けている姿をさらしても、それは”結果”には繋がらない。
そして彼ら二人も「あとはもう編集で面白くしてや。頼むわ。」とメッセージを託してきたように、あくまでもこれはバラエティ番組であるわけだ。
そして何よりもまずスタジオで対峙する”最も厳しい視聴者”とも言える、関ジャニの他のメンバーたち。すいも甘いも小・中学生の頃から苦楽を共にしてきた「横山・大倉というメンバーをちゃんと美味しく料理してくれてるよね?」このハードルを越えなければいけない。
彼らが満足してくれるだろうか?不必要に二人をバカにした編集になっていないか?誰かが傷つく、不快になる編集になっていないか?そして何よりもコレで彼らが腹を抱えるほど笑い、彼らが必死に真剣に二人の合格を祈る、ドラマチックなVTRになっているか?
視聴者に届ける前にこれだけの反芻・葛藤があるのだ。
そりゃ何人でも何回でもプレビューで客観的な意見をもらっても不安はぬぐえない。それと何度だっていうが、合計300時間を超える素材を今まで編集したことがない。つまり経験値が無い=正解なんて分かるはずがない。
だからスタジオ収録当日まで「あっ、やっぱりあそこのくだりは、あの日のあっちを入れたほうがよかったかも…」と後悔し続けるという、永遠のスパイラル状態だった。
しかしそれでも、いろんな人の力を借りてなんとか収録当日を迎えた。
横山さん・大倉さんの二人はもちろん合否の結果を知らない。
もちろんメンバーも知らない。
ガチの合格発表。今までに無い緊張感がスタジオを包み込んでいた。
そして自分は担当Dとして、フロアDとして、フロアの真ん中でカンペを出した。まずは自分が5000回くらい直したVTRを二人を含めた関ジャニメンバーがどうリアクションしてくれるか?あの緊張感はディレクター人生史上最大だったと今でも覚えている。当日、どんな服を着て収録に臨んだかすら覚えているほど覚えている。
8科目の合格発表を1科目ずつ、1人ずつ行う。
そして自分が死ぬほど直しまくった渾身のVTRは1科目ずつ作成し、各科目の合格発表の前にドキュメンタリーVTRとしてスタジオに発射された。
結果は…大爆笑だった。
東京Jr.たちに主役の座を奪われ、関西でくすぶっていた頃から苦楽を共にした渋谷さんが「大爆笑しながら(横の)ええとこ出てるわ〜!!」と何度も叫ぶのを見て、ようやく「自分の編集はどうやら間違えていなかった」と安心と確信を得て、大きな興奮と安堵と感動と全てが入り混じった妙なカタルシスがそこにはあった。
そして1科目ずつ合否を発表するという演出方法は、合否の結果の緊張感を最大限に引き出し、2人を見守るメンバーから「煽りすぎや!今のだと落ちると思うやんけ!!」と、良い意味のガチクレームを賜るくらいに自分がいろんな人の助言を受けて、必死に考え続けた演出方法にしっかりと演者がハマり、「全科目二人とも合格」という奇跡のフィナーレを最高の形で迎えることができた。
本番終了後、まさかのダブル合格を信じきれず興奮が収まらない二人が自分の方に駆け寄ってきて、「おもろかったよ。ありがとうな。」と言われた。
もうこの一言で十分だった。
そして迎えた2015年1月17日の放送。
当時Facebookに心境を綴った文章が残っていた。
そして結果的にこの企画は、視聴率という”結果”もしっかりと残すことができ、担当番組史上初めて「ヤフーニュースのトップ」を飾り、世間的にも話題となる作品になった。
そしてこの作品は、自分のサラリーマン人生においても大きなターニングポイントになる作品になった。「300時間にも及ぶ素材をそれなりの形にしてゴールデンど真ん中で結果も残すことができたディレクターは芦田らしい」という評判は、その後の「関ジャニ∞のTHE モーツァルト音楽王No.1決定戦」という特番の総合演出を任せてもらえることにもつながり、そしてこの企画でつきまくった編集筋肉は、その後自分が携わる全ての番組において力となる圧倒的財産となった。
なによりも仕分けが終了した後、自らの企画として初めて2015年から深夜帯でレギュラーを掴んだ「あいつ今何してる?」は人の人生を描く”ドキュメンタリー”である。
この番組が今もまだ続く(しかもゴールデンに上がり)ソフトとして生き残れているのは、あのとき5000回直した際に着いた”筋力”が大きく貢献していることは間違いない。
そんなディレクター人生を変えた企画の主人公だった横山裕という男が、今回「あいつ今何してる?」にゲストでやってきた。
当時はいち担当ディレクター、今は総合演出として彼との再会を果たした。
「偉くなったなあ」と彼は少しはみかみながら言い放ち、事前の打ち合わせはスタートした。
そこで彼が「今何してるか気になる」と言って名前を挙げたのが「高卒認定試験でつきっきりで家庭教師をしてくれた中村先生」だった。
彼が当時の様子を思い出して話しているとき、走馬灯では無いんだけども、妙なノスタルジーを感じ始めている自分がいた。
そして打ち合わせ終了後、数年ぶりに「高卒認定企画」を見直した。
数年経っていようがどんなにときが経っていようが、「このカットの後にはこの絵がくる」「ここで誰が笑う」など死ぬほど頭にこびりついたままだった。自分が編集した大体の作品が数年後とかに見ると「うわ〜編集が若いなあ。今だったらこう直すなあ」とか思うんだけど、「高卒認定企画」に関しては我ながら今見てももう直すところは無かった。
そしてあのとき死ぬほど直した自分のVTRを、今度はその企画を見ていなかった「あいつ今の視聴者」に届ける再編集をする。
しかも当時の放送尺より圧倒的にタイトにしながらも、横山さんがどれだけ努力して、奇跡の合格を掴み、どれだけ面白い企画だったのかを凝縮して伝えなければならない。この再編集はまた、なんとも言えない感慨深さのある作業だった。
そして、もう一人今何をしているか気になる人物として名前が上がった中学時代の恩師のロケと共に、あの企画以来自分が歩んできたディレクター人生を噛み締めながら、彼に恩返し・感謝の気持ちを込めて自らカメラを回し、全てのロケを行った。
そんな”渾身の”VTRを見て、彼は爆笑して、涙した。
「なんやろこの感情…やばいな涙出てきた…」と相変わらず少し恥ずかしそうに涙をぬぐっていた。
そんな彼をフロアで見ているとき、村上春樹あたりにうまく形容してほしいが、なんとも自分の語彙力では補いきれ無い感情に包まれ、自分も泣けた。恥ずかしいから泣かなかったけど。
自分のディレクター人生が間違いなく変わった高卒認定企画で出会った男と、自分が企画した番組で5年後再会し、その番組で、あのときの「高卒認定」のVTRを再び一緒に見て、笑って泣く。
個人的には「君の名は」に引けを取らない時空を超えた人間同士の再会は泣けた。泣いてないけど。
長くなりましたが、そんな「あいつ今何してる?」が今夜6時45分からテレビ朝日系列にて放送されます。
(一部地域では7時からです。ごめんなさい。)
僕の個人的歴史を踏まえてみてもらう必要はもちろんありませんが、そんな歴史を引っこ抜いてもいい番組に仕上がっているので是非ご覧ください。