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未来の建設業を考える:「競争vs.協調」

本当に安ければ良いのか?

 日本では失われた20年と言われる中、デフレが進行し企業の価格競争が激しくなってきている。安ければ良いという世の中の風潮に流され、安価なプライベートブランドがもてはやされたり、100円ショップ見られるような低価格路線の企業に注目があつまったりしている。
 建設工事においても価格競争が激烈になってきている。これまで耐震偽装を除いて、安くても品質は確保されるという妙な安心感から、大きなビルから地方の小さな工事まで安ければ良いという考え方が一般化しつつある。
 しかし、安易な建設コスト競争は、結果として誰かがコスト負担していることは事実で、いわゆる下請け等へのしわ寄せという形で負担を強いているのが現状ではなかろうか。

指名競争の歴史が長い

 このような価格競争一辺倒の現況ではあるが、歴史的には、公共工事の入札方法として一般競争の方が指名競争よりも圧倒的に短い。もともとは、明治22年(1889年)、ヨーロッパの一般競争入札方法をモデルに会計法が定められ、日本においても一般競争入札原則で始まったものの、当時の入札では入札屋と呼ばれる常連によって価格のみで決められ、技術力も低く、履行の確実性を欠くものであった。その結果として、大正10年(1921年)、会計法を改定し、一般競争から、原則、指名競争へと大きく変更した。1995年のWTO締結を機に一般競争入札が本格導入されるまで、指名競争入札が主流であった。従って、一般競争は歴史的に見ればわずか20年程度の歴史でしかない。

海外でも指名競争が一般的

 海外でも一般競争がメインかと言うと、必ずしもそうでない。品質を確保するために、慎重に業者を選定し、そのうえでの価格競争とすることが一般的である。

「戦略的パートナリング」とは?

 その中で日本が参考にできる調達方式に、「戦略的パートナリング」がある。「戦略的パートナリング」とは、あらかじめ建物の難易度に応じて業者を公募し、5者程度をパートナーとして選定したうえで、実際の工事を実施しするにあたっては、これらパートナー企業からの提案やレビューを踏まえ、設計与条件を確定したり、VE提案を受けたりしたうえで、パートナー企業を対象に価格競争を実施して施工者を選定する方式である。
 施工側のメリットとしては、受注できるかできないか確率がわからない一般競争と比較して、受注機会が確保でき、入札関連費用の抑制につなげることができる。また、繰り返し同種のプロジェクトを受注することで、発注者との協調関係が構築でき、コスト的にもより有利な提案につなげることができ、プロジェクトの品質向上につなげることができる。
 一方、発注者にとっては施工側のノウハウをプロジェクト初期段階から導入できたり、VE効果の高い企画段階において業者の意見を聞くことで、結果としてより効率的なプロジェクトとなり、従来方式に比べて、実際の支出を削減することができる。

求められる「競争」と「協調」の両立を図る工夫

 実際、このような戦略的パートナリングを構築している民間企業も多い。また、英国の公共機関において導入されているPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)もこの延長線上にある考え方と言えよう。
 パートナリングは日本の長期的商慣行に学んだといわれているが、発注者受注者双方の本当の利益を獲得するためには、競争と協調の対立ではなく競争と協調の両立を図る工夫が求められているのではないか。

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