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未来の建設業を考える:「『水の未来』を守る」
都市の発展にとって、水資源は生命線
都市の発展にとって、水資源は生命線である。近年、日本国内でもTSMCやラビダスなど先端半導体工場の建設が相次いでいる。これらの工場立地には、大量の高度処理水が必要となる。水道水とは比べものにならないほど高い純度の水が使用され、ラピダス北海道工場では、1日あたり最大2万4,000立方メートルの水が必要とされる。これは、千歳市全体の1日の水道使用量の約7割にも相当する量である。
江戸時代の安全な水の供給
江戸も例外ではなく、世界的な100万人都市へと発展を遂げたのも、豊富な水資源に恵まれていたことが大きな要因である。
徳川家康が江戸に入府すると、真っ先に取り組んだのは江戸城の改築ではなく、安全な水の供給だ。4代将軍家綱は、多摩川の水を江戸に導くため、玉川上水の建設を命じた。庄右衛門、清右衛門兄弟(のちの玉川兄弟)は、全長43km、高低差92メートルというわずかな高低差を利用した自然流下方式により、わずか8カ月という驚異的なスピードで完成させた。水食らう土対策や段差を超える技術など最新の土木技術により、江戸城や周辺地域に十分な水が供給することができた。その結果、水で江戸は目覚ましい発展を遂げることができた。
水道施設の老朽化が深刻な問題
近年、高度経済成長期に建設された水道施設の老朽化が深刻な問題となっている。水道管の法定耐用年数は40年であるにもかかわらず、全国の水道施設の多くは1960年代から1970年代にかけて建設されたため、次々と更新時期を迎えている。それにもかかわらず、更新は遅れ、その結果、全国で15万キロもの水道管が耐用年数を超えている。厚生労働省の試算によれば、すべての水道管を交換するのに140年もかかるという。
さらに、能登半島地震でも見られたように、水インフラの耐震化もまったなしの課題だ。耐震化も、全国の浄水施設の耐震化率は平均43%とまだまだ低いのが現状だ。
英国水道会社「テムズ・ウオーター」が債務不履行
一方、英国では民活・民営化の象徴であった水道会社「テムズ・ウオーター」が最近、債務不履行に陥った。テムズ・ウオーターは、ロンドンを中心に900万人に水道水を供給し、1500万人の下水処理を手がける会社だ。民営化により効率化と質の向上が期待されたが、インフラ改善よりも株主配当や海外展開を優先し借り入れを拡大した結果、質の改善どころか破綻を迎えることとなり、ロンドン市民は安全な水の確保が喫緊の課題となっている。
水は生命の源
また、水道事業者が直面する課題とは、人口が減少する一方、年月の経過とともに更新すべき箇所が逐次増加していることだ。水道料金を引き上げることもままならず、必要な更新費用が確保できていないことだ。また、地域の水道事業の規模が小規模であるため、大きな更新投資ができないこと、小さいがゆえに十分な技術者を確保できていないことだ。
水は生命の源であり、社会発展の基盤となる重要な資源である。
持続可能な水インフラの構築は、未来の世代に豊かな社会を残すために不可欠な課題である。
建設業界は、官民連携を強化し、玉川兄弟にように革新的な技術とノウハウを活かして、この重要な課題解決に貢献していく責任と使命を担っていくべきだ。