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「建設・不動産のデジタル化 〜FMBIMの活⽤〜」:その3 3 ビルの IoT とセンシング技術

3 ビルの IoT とセンシング技術

3.1 センシング技術とは

「スマートビル」では、⼈の動きやビル全体の空調制御などにより、省エネルギーやユーザー満⾜度を上げるために建物のあらゆるデジタルデータが活⽤される。

そのデジタルデータの元となるのが、⼈感センサーや⾚外線センサーなどの各種センサーを⽤いて、⼈流(⼈の流れや⼈の集積度)、温度、明るさ、会議室の利⽤状況などであり、最近では、監視カメラなどの画像データなどがセンサーを⽤いたセンシング技術で取得できる。それ以外にも、加速度センサー、電波センサー、電流センサーなど、多くのセンサーが導⼊されつつある。

さらには、⾼速⼤容量通信の 5G(第 5 世代移動通信システム)時代には、多くのセンサーで得られたデータを⾼速で集めることができる。温度センサーだけでも、ひとつのビルで数万個でも数⼗万個でも処理することが可能となる。

これら多くのデータを集め、瞬時にそのデータを分析することで、空調環境や三蜜の回避、働きやすい環境改善などに役立つ。

次章では、センシング技術の導入が、いかにビルの環境改善に役立つかについて、明らかにしたい。


3.2 センシングで取り出す情報

空間の状態を測定するセンシング技術を分類すると、⼤きく 3 つに分類することができる。「ビル内の⼈々の情報を取り出す」、「ビル内の状態を把握する」、「BCP におけるビルや都市の状態を把握する」である。


3.2.1 ビル内の⼈々の情報を取り出す

センシング技術で、ビルのワーカーや商業施設利⽤者、お客様の動きや集まりを随時把握することができる。最近の新型コロナウイルス時代、3 蜜の回避が感染防⽌に役⽴つと⾔われるが、まさに、⼈が集まりすぎていないか、3 蜜(密閉、密集、密接)になっていないかなどの確認が、容易にセンシング技術を⽤いて把握し、改善を図ることができる。

①監視カメラが⽣むデジタルデータの活⽤


監視カメラが⽣むデジタルデータの活⽤監視カメラの数も、2019 年のウォールストリートジャーナルの調べでは、全世界で 10 億台も設置されていると⾔われる。その半分は中国であり、監視カメラ設置数最⼤の中国・重慶市では、⼈⼝1,000⼈あたり 168 台のカメラが設置されており、単純計算で、1 台の監視カメラが 5 ⼈を監視している計算になる。

監視カメラ⾃体の解像能⼒も進んでいるが、それと併せて AI による画像認識技術も相当⾼度化している。従来の防犯カメラや監視カメラは、その録画機能の優位性により、画像で記録を残すことに主眼があった。現在は、単に画像を残すだけでなく、AI技術を⽤いて画像を読み取り、顔認証や不審⼈物の洗い出し、万引や置き去りなどの犯罪を予⾒することまでできるようになってきている。

たとえば中国を旅⾏中の⽇本⼈が喫茶店でデジタルカメラを盗まれたが、2 時間後に犯⼈とともにデジタルカメラが発⾒され、盗まれた当⼈はデジタルカメラの盗難に気がづかないまま旅⾏を続け、当⼈に返却されたというような笑えない話もある。

商業施設ではカメラの画像から客の性別、年齢を AI により解析し、どのような客層に向けた商品が望まれるのか、リピーターの確認やアプローチも容易にできるなど、顧客満⾜度を改善することができる。

オフィスビルにおける⾮接触分野でも、カメラの働きは⼤きい。顔認証技術を利⽤してあらかじめストックされたデータベースと照合し、セキュリティゲートを開け、エレベーターを⾃動で呼ぶなど⾮接触を可能としている。

図 4 Comparitechの「監視カメラ都市ランキング」(引⽤︓ https://www.comparitech.com/vpn-privacy/the-worlds-most-surveilledcities/)(2021年)

② ⼈感センサーが⽣み出す膨大なデジタルデータ

ビルにおける⼈の流れの把握、⼈がいることによる照明の⾃動オン・オフするのも⼈感センサーで⾏っている。また、防犯としても活⽤可能である。

主に⾚外線を⽤いて⼈感センサーとして⽤いられる。

最近では、ミリ波を利⽤して⼈感センサーとして活⽤するような事例も出てきている。ミリ波レーダーを使うと、⾝体の動き、呼吸による体動、⼼拍なども把握することができるため、⼈の安全を確保することに役⽴てるような取り組みも⾏われている。

イスラエルのバイアー・イメージング社という企業では、4 次元ミリ波レーダーを⽤いて、空間内部のデジタルデータを時間の動きとともに把握できる仕組みになっている。たとえば、⼈をドットパターンで認識し、時間とともに、その⼈がどう動いたか把握でき、動かなければレスキューを呼ぶなど、迅速な対応が可能。それもミリ波を使うので、配線等不要で、簡単に対応できる。

オフィスビルではヒートマップにより、あまり使われないゾーンを把握し、家具のレイアウト等を変更することで使うゾーンへと復活させたり、逆に、三蜜になりすぎているゾーンを分散配置できるようにしたりするなどの対応を⾏うことができるなど、⼈感センサーを⽤いることで、新型コロナ時代のオフィスづくりに⼤いに貢献できる。

また、人が少ないエリアのワーカーに移動してもらい、そのエリアの照明、空調を切るなどエネルギー消費抑制にも用いられる。


③ 温度センサーで把握するデジタルデータ

温度センサーは、ビルのユーザーにとっては必須のアイテムだ。オフィスが暑い、寒いは、直接、仕事の効率性を左右する⼤きな要因だからだ。また、ボイラー等の設備機器についても温度センサーで管理し、膨⼤な時系列データを分析することで、エネルギーコストの削減につなげるなど、活⽤ができるようになっている。

また、現在の温度センサーは、せっかく個⼈別に温度コントロールが可能なシステムを導⼊しても、 2次元的な場所の温度の把握では、頭は暑いのに、⾜元が冷えているなど、ユーザーの不満を解消するに⾄っていない。そこで、⽴体的に室内の温度変化を把握し、ユーザー満⾜度が改善する対応を⾏うためには、センサー類が 3 次元で対応する必要がある。IoT を活⽤した温度センサーであれば、平⾯的な温度だけでなく、室内の⾼さに応じて温度変化を可視化することができる。その位置情報は、もはや 2 次元的な平⾯データで把握すると、いくつものセンサーが重なって、縦軸の温度変化が⾒えてこない。

⼀⽅、IoTセンサーは年々安価になっており、データを集めることがコスト的にもIT的にも容易になってきており、より詳細なセンサーを⾒ることで、分析や解析がより容易にできる。

それゆえ、3 次元の室内デジタルデータを持つ BIM の役割は、IoT センサーがあらゆる場所に設置される今からその役割は⼤きくなるに違いない。


④ 新型コロナ時代における 3 密(密閉、密集、密接)対策のためのデジタルデータ活⽤

新型コロナ時代では、⼈と⼈が接触したことを記録したり、⼈が集まらないよう⼈感センサーを設置したり、対策が必要となっている。どの場所で、だれが動いたのか特定するためには、正確な地図情報が必要となるが、その役割は、BIM で作成された平⾯図のデジタルデータによって、容易に位置を特定することができるようになる。

新型コロナウイルスの感染を特定するために、携帯アプリ「COCOA」という携帯電話のアプリが政府から提供されているが、同じように、携帯電話アプリで、⼈と⼈との接触を把握できるようなアプリが

⽶国では開発されている。

「Sharry」というモバイルアプリは、⽶ニューヨークで使われているアプリだが、これを⽤いることで、① ⾮接触、②ソーシャルディスタンス、③(衛⽣⾯での)安全確保などが可能になっている。具体的には、携帯電話を⽤いて、⾮接触でセキュリティゲートを通り抜け、⾃動でエレベーターが呼ばれ、あらかじめ定められたオフィス階へ移動できるようなことである。

また、商業施設においても、⼈の動きを把握することで、店の⼈気度や⼈の流れを作るようなレイアウト変更、店の変更につなげることができる。⼈流分析は、今や商業施設では⼀般的に実施される技術となっている。


⑤ ウイルス量、塵埃量(清浄度)のデジタルデータ活⽤

新型コロナ時代のオフィスに求められるのは何か︖ それは、ずばり「ヘルシーなビル」だ。

ヘルシービル、単純に⾔えば「健康なビル」となるが、何が健康なのか︖ オフィスビル⾃体、コロナや病原菌にかからない、または、かかるリスクが極⼒少ない、安全なビルだ。

これを実現するため、新型コロナ被害がより深刻なニューヨークのオフィスビルでは、不動産管理会社が、毎⽇、ビルの空気測定等を実施し、新型コロナウイルスの安全度を専⽤アプリでワーカーへお知らせする。⼀⽅で、出勤するビルのワーカーには、その⽇の体温や体調を登録し、罹患者が出社できないようにする。また、ワーカーがビルに出社したら、顔認証技術や⾃⾝の携帯端末の活⽤により、⾃動認識でゲートを通過し、あらかじめ着床階を指定したエレベーターも⾃動で呼び出し、オフィスまで⾮接触で到達できるようなシステムを導⼊している。

ビルの健康を担保するのは、ビル側の責任であることをきっちり認識しているのが⽶国の不動産オーナーだ。

この影響は、⽇本でも同じ。むしろ、⽇本の⽅が健康や安全への要望が強い。

ウイルスは床に落ちることが多い。⼀⽅、シミュレーションによれば、くしゃみなどの微細な浮遊物は、 1 から 2 時間程度、空気中に漂っている。それゆえ、平⾯的な把握だけでなく、⽴体的な拡散状況を把握することで、その部屋の清浄度を⽰すことができる。これは温度センサーでも同じこと。

ここでも BIM が持つ建物の 3 次元デジタルデータが求められる。


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