未来の建設業を考える:「建設業におけるイノベーション」
「イノベーション」とはなにか?
「イノベーション」とはなにか?
経済学者のシュンペーター(「経済発展の理論(1912)」)によれば、「イノベーション」とは、①消費者でまだ知られていない新しい財貨又は新しい品質の財貨の生産、②新しい生産方法の導入、③新しい販路の開拓、④新しい仕入れ先の獲得、⑤新しい組織の実現、だと定義している。イノベーションは、生産手段や資源、労働力などを新たに結合することで、新たな価値を人々にもたらすものである。
トヨタ自動車では
トヨタ自動車では、カンバンシステムやジャストインタイムにより生産方法を改革することで「イノベーション」を達成している。豊田章一郎氏の回顧録でも、全社を挙げて、社員ひとりひとりが自分の工程に責任を持って良いものを造り、後の工程には不良品を送らない「品質は工程で造り込む」との考えが、隅々にまで浸透した結果が、現在のトヨタの品質やコスト管理につながったと述べている。
建設プロジェクトにおけるイノベーション
建設プロジェクトにおいて、発注者が求めるイノベーションとは何であろう?
建設の三要素である「品質」、「工期」、「コスト」に最高の価値を与える革新的な建設生産を生み出すことであり、また新たな材料を用いてこれまでにない建築の価値をもたらすことではないか。品質は高ければ高いほど良いし、工期やコストは少なければ少ないほど良い。建物が本当にコンクリート構造物で良いのか、もっと短期間で工程が収まるような構工法や材料はないのか、追及すべき課題は多い。
真の顧客価値につながるイノベーション
一橋大の延岡教授は、イノベーションにおける日本企業の大きな課題は、技術革新が真の顧客価値に結びついていないこと。顧客視点に立った価値こそが、市場で評価され経済価値を生み出して行き、真のイノベーションにつながると、指摘している。
建設産業は顧客の期待に応えてきただろうか?
それでは、建設産業は顧客の期待に応えてきただろうか?たとえば、工期を短縮することや品質の信頼を得る関係を構築できただろうか。品質改善につながらないISO9000で、本当に品質が確保できているのか。書類だけの管理では到達できない良心を持った職人の育成が必要なのではないか。発注者も、建設産業の品質に対しても疑念が生じている。ゼネコンに任せれば、高い品質が確保できた時代から、明治時代に戻るかのように発注者自らが品質を確認しなくてはならないような時代へと大きく変化している。発注者が自ら管理できない部分を第三者へ業務委託する動きもこの一環であろう。ただし、管理のための管理が必要となれば、そのために多くのコストが発生する。むしろ職人のひとりひとりが品質を考え、「品質は工程で造り込む」方式へのトヨタ型のイノベーションが今こそ、求められているのではないか。
経済の発展のためには、イノベーションが必要だと言われる。建設業においてはイノベーションの余地は大きいと考える。ぜひとも、受注が多く生産効率を高める必要がある今こそ、長い目で見た建設業のイノベーション元年にしたいものだ。