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未来の建設業を考える:「現場力」と「設計力」

モノづくりの「現場力」・「設計力」

 製造業では、トヨタに代表されるようにモノづくりの「現場力」を高める。
 一方で、熟練工の不足に苦しむ業種では、生産前の「設計力」を高めることで、所定の品質を確保し、消費者の信頼を勝ちとる動きが顕在化している。
 「設計力」とは、多少の材料や職人の熟練度のばらつきがあっても、最終的な品質が安定して供給できるような設計をあらかじめ実現することを言う。さまざまなシミュレーションに基づき、製品の欠陥が発生しないようにすることである。
 たとえば、携帯電話に用いる小型電池に万一、液漏れが生じても製品欠陥とならないよう、特殊な加工をした箱型の容器入れを設計に組み込んだような事例である。

シックス・シグマ(6σ)

 製造業においては、「設計力」と「現場力」を併せて、全体の品質精度を高める工夫を行っている。
 欧米の生産管理手法で聞いたこともある人が多いと思うが、米ジェネラル・エレクトリック(GE)が提唱したシックス・シグマ(6σ)という活動があるが、6σとは、製品の不具合が100万件にわずか3.4件しか発生しないように設計するというもの。通常の生産では、4σが限界といわれ、100万件のうち、6210件のミスを許すもの。そのため、一般的な製造業では、リコールや修理費用に売上高の実に約25%もの費用を計上しているのが実態と言われる。これを6σにできるよう、「設計力」によって品質を確保していこうというのが、製造業的品質確保へのアプローチである。

建設業における品質確保はどうであろうか?

 これと比較して、建設業における品質確保はどうであろうか?設計者の立場からは、設計どおりにできない現場が問題だと言うし、現場からは、現場を知らない設計者が問題だと言う。
 「現場力」という面で見ると、熟練工が育成されるような努力をしているかというと、下請けへのしわ寄せという形で現場における創意工夫による品質改善を阻害するとともに、現場を本社から管理することを目的に、TQCで見られたような職人や現場監督からの改善活動がまったくなくなっている現実がある。建設業の生産拠点は現場であり、現場があるから利益を出すことができるのに、「現場力」が落ちている現状を改善できないことに大きな問題がある。
 一方、「設計力」という面からは、設計を生産情報として完結しないまま設計図書として発注される傾向が強まっていることに、生産情報としての設計のあり方に疑問を感じる。製造業のように設計において、現場で生じる品質問題もあらかじめ予測し、それが生じた場合でも、一定の品質が確保できるような設計、4σから6σへと品質管理を高める手法を積極的に導入しているかというと、逆に、現場に依存することをあらかじめプログラムした設計がなされているのが現実ではなかろうか。
 すべての設計がそうであるとは言わないが、より高度、複雑な建物に対しては、生産管理としての設計のあり方を再度、検討し直す必要があると思う。あるディベロッパーでは、確認申請のための設計者と外装デザインのための設計者を分けて発注しているが、設計をデザイン実現のための「意匠設計」と製造物として生産するための生産情報確立のための「生産設計」に区分し、その役割分担を図ることも必要ではなかろうか。

建設業における「現場力」と「設計力」

 要は、建設業として、いかに総合的な品質を安定的に、発注者に提供できるかが求められている。
 建設業における「現場力」と「設計力」を融合し、いかに発注者が満足する品質を確保するのか、建設業に携わるそれぞれが考えなければ、製造業において計上している売上金の25%にものぼる欠陥品や修理費用対策費を、建設業においても同様に積み立てる必要が生じるであろう。
 設計施工を共に実現してきたゼネコンにおける総合力の発揮が、積立金の大きさによるのではなく、「現場力」と「設計力」の融合による信頼性の高い品質管理能力に依存できる体制の構築が早期に求められる。
 製造業において現場力と設計力を融合したように、建設業においても「現場力」と「設計力」の共生により、高い品質が継続的に提供できることを望む。

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