高騰するMLBの年俸は適正なのか。NPBとの比較。
今年も多くの日本人選手がNPBからMLBへの移籍を決めた。
普段、あまりMLBに興味の無い人の多くであろうが驚くのがその年俸水準だ。
例えば、福岡ソフトバンク・ホークスからニューヨーク・メッツに移籍した千賀の年俸は、6億円から約20億円となった。
オリックス・バファローズからボストン・レッドソックスに移籍した吉田正尚は、4億円から約21億円へと上昇した。
日本人選手が高く評価されるのは誇らしい一方で、本当にそのような年俸でリーグ経営が成り立つのかどうか、心配になる人もいるだろう。
選手の年俸が適正かどうかは、リーグとしてそれを払うのに十分な収入を得られているか否かで決まる。
MLBとNPBの選手の年俸の推移、またそのビジネス規模を比較していくことで、適正水準を探ってみたいと思う。
①年俸総額推移の比較
まずは年俸総額の推移だ。
以下のグラフの通り、MLBの年俸が右肩上がりな一方で、NPBはほぼ横ばいに留まっている。
正確に言うと、NPBの年俸も、2007年に約330億円だったものが2021年には405億円となっており、決して上がってないわけではない。ただ、MLBの年俸上昇のスピード感に全く追い付けてないのだ。
90年代前半頃は、MLBとNPBの年俸格差はほとんど無かったと言われており、巨人、ダイエーなどがMLBでもトップクラスの大物外国人選手を多く補強していた。
しかし、現在のMLBの年俸総額は、5000億円を超えており、10倍では済まないような規模の差にまで拡大してしまっている。
②リーグ収入の比較
リーグ収入についても、年俸と同じ様な推移となっている。
1995年には、ほぼ同じ水準であったものの、そこからMLBは大きく収入を増やす一方で、NPBは水をあけられる一方だ。
③年俸総額のリーグ収入を占める割合(①年俸総額/②リーグ収入)
さきほどの①年俸総額を②リーグ収入で除することで、収入のうち、どの程度の割合を年俸が占めているのか計算したのが以下のグラフだ。
このグラフからは2つの発見が得られる。
一つ目に、MLBの年俸割合は徐々に減っているということだ。
つまり、MLBの年俸は高騰しているように見えるが、それ以上の収入を得ている。無理をしているどころか、余裕が増しているのだ。
逆にNPBは、徐々に収入のうち年俸の占める割合が増えている。MLBの年俸上昇という外圧の影響を受けている可能性がある。(海外インフレの影響を受けて、さして経済成長してないのに物価上昇圧力を受けている日本経済と同じ構図だ)
2つ目の気づきとして得られるのが、MLBは、NPBよりも高い割合を、選手の年俸支払いに充てているということだ。
MLBは上記の期間、おおよそリーグ収入の40%前後の年俸を支払っているのに対して、NPBのそれは20%前後に留まっている。
これは、MLBPA(MLB選手会)の強い交渉力が背景にあると推定される。
FAも日本より短期で、選手の流動性が高いことが、選手の年俸が上がりやすい環境を作っている。
また、MLBPAは、選手と球団の契約を全て公開しており、透明性を高めることで、個々の選手と各球団とが対等に交渉しやすくしており、球団格差による待遇格差も無い。
このあたりについては、別途記事を書いているので、是非読んで頂きたい。
NPBがMLBに追いつける日は来るのか?
これだけの年俸格差があると、才能のある選手はこれまで以上にMLBに流出してしまうのではないかと懸念が生じるのは当然のことだ。
しかし、前述のグラフを見てもらえば分かる通り、MLBの年俸は単純にリーグ収入の増加に比例して高騰しているものであり、決して無理があるわけでもない。
これを是正していくためには、NPB全体の収入を、MLB同様に拡大していくしかない。
キーとなるのは、やはり放映権だ。
NPBが観客導入に伴うチケット収入に強く依存しているのと比較して、MLBは大半を放映権料から得ている。
NPBの放映権は、各球団毎に有しており、リーグで一括した管理ができてない。
このあたりは、また気が向けば別途書き起こしたい。
いずれにせよ、NPBが一体となって適切な運営を行い、実力のある選手がよりMLBに近い評価を得られる日が来ることを心待ちにしている。
本稿のデータについて
本稿のデータについて、特にNPBはリーグ収入を公表しておらず、選手年俸も推定年俸のため、データ収集にはやや苦労した。
極力信頼できると思われるソースの数字や記事の内容をつなぎ合わせてデータを構築したため、実態から大きくズレているとは考えづらい。
せっかくなのでデータテーブルを以下参考に掲載する。
ところどころに抜けがあったり、NPBの2011年以降のビジネス規模(リーグ収入)が推定となっている点などはご容赦頂きたい。