#2 タンポタケ
長い間念願だった冬虫夏草、カメムシタケを見つけることは出来たが、
「さあ次はどうする? どこに行ったら冬虫夏草ってあるの?」
ああでもない、こうでもない、と家族会議。カメムシタケの発生があった場所には他の冬虫夏草は見当たらなかったのだ。
父と一緒にインターネットで検索していると、野生のキノコが発生している場所に似たような場所、そこに冬虫夏草の発生があるぞ!
「よし、工場の奥の山に入ってみるか!」と父は言う。「行ってみようか、太郎君」と母もにんまり。
父は母方の里で工場を経営している。工場のある場所は、自然豊かな田舎だ。言われるがまま連れて行かれた、という感じではあったが、父は小さい時からこの里で良く遊んでいたため山の事を良く知っていて、楽しい事も危ない事も色々教えてくれた。
父が先頭を行き、間に僕を挟んで後ろに母がいる、いつもの探索スタイルである。父の工場の奥の山はほとんど人の手が入っていないような状態であった。森の匂いもさながら獣の匂いにも敏感になる。
「猪が掘り返しとるなぁ、気を付けて歩きなさい」と父が言う。山道の横には小さい沢が流れていてうっそうと木々が茂っている。沢は歩いて行くうちに広くなり、いい感じだ。
季節は桜が散ってしまい暖かな陽気の頃、新芽が出始め気持のよい季節である。まだ野生のキノコはほぼ見られず、名前の無いキノコがポツポツと生えていた。冬虫夏草の発生パターンとして、地上から、岩や木の枝幹、葉裏、朽木の中。さまざまだ。
どこに焦点を合わせよう・・あれ?これはキノコか??
近づいて見てみる。何か違う、キノコのようではあるがキノコではない。冬虫夏草は根元をたどって宿主(ホスト)をたどり、確かめなければ正確な同定はできない。
もしかしたらタンポタケ?とワクワクしながら掘ってみる。
コツっ。スコップが何かに当たった。土で覆われていてはっきり見えないが確かにダンゴの形をしている。
おーっ!!タンポタケ!!!
父と母は隣で万歳をして騒いでいる(笑)冬虫夏草の図鑑は何度も何度も読み込んでいる、まず間違いないだろう。
タンポタケの宿主であるツチダンゴというキノコは、地中に形成されるため発見は容易ではない。東日本では夏から秋、西日本では冬から春に発生。ただし地域により時期は異なる。ツチダンゴ類が生息するコナラ、ミズナラ、ブナやアカマツ林に発生し、市街地の神社や公園でも見られる。全然珍しくはない冬虫夏草であるが、当時の僕にとっては無くした鍵をやっとの思いで見つけた時と同じくらい、いやそれ以上に心が舞い上がったのを覚えている。
その後、タンポタケは五十体以上見つけることができ、僕はその場所をタンポの沢と命名した。
冬虫夏草は中々見つけることができない。それは今まで見たことがない、というのが理由の一つである。しかし、一度でも見たことがあると、それからは見つけ出せるようになるものだ。それがまた冬虫夏草のオモシロい所だ。
冬虫夏草がたくさん発生する場所を坪と呼ぶのだが、このタンポの沢は僕にとって初めての坪と呼べる場所になったのだ。嬉しくて仕方がなかった。帰りの車の中、次は何を見つけに行こう、どんな冬虫夏草に出会えるのだろう、というワクワクで僕の頭の中は埋め尽くされていた。