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【詩】コロナ禍前・中・後の人間模様

コロナ禍前

マスクは、風邪をひいたときか、他者からの精神的距離を確保したいときにつけるものだった。人々は多様性を叫ぶ一方で、飲み会を強制した。個人的正義を措定し、不倫した。

コロナ禍中

マスクをつけないと異端扱いされた。偽の団結、隠れる本音。同じ危機に直面しているはずなのに、気持ちを共有している気がしなかった。X(Twitter)という何でも容易に発信できる場が、自分の本当の意見を言いづらくさせる逆説。個々だと思っていた僕たちは、急に立ち現れた全体にとまどった。それは、はじめからそこにあったとも言えるし、無いものが急に見えはじめたとも言える。人々は飲まなくなったが、不倫はした。

コロナ禍後

マスク着用は任意になったが、前とは用途が微妙に違っている。人々はまた個々に戻りつつあるが、多様性を歓迎するよりは、どちらかというと他者に無関心になった。コロナ禍中に感じた全体へのとまどいが、まだ消えないのかもしれない。飲む人は飲むし、飲まない人は飲まなくなったが、人々は変わらず不倫する。

*月刊詩誌「ココア共和国」2023年11月号 傑作集Ⅲ*

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