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kikimetal
【詩】未来渋谷
深刻な少子化により若者がどんどん減って大きな都市でも人通りが穏やかになった日本。それでも渋谷のスクランブル交差点は昔と変わらぬ賑わいだ。それはひとえにアンドロイドが人ごみをかさまししてくれているおかげさ。百年前とある企業が年々減少する街の賑わいを補うために、まず渋谷を専門に作り始めたアンドロイド。ごく自然に街の人々に溶け込み人間とまったく区別がつかない。しかし今のところ渋谷以外の都市へ拡大する見通しはないそうだ。なんでも、その他の都市に違和感なく溶け込むアンドロイドを作るのには、ある技術が決定的に不足しているそうだ。
渋谷の地底には新宿のビル群が埋まっていると、ある詩人が言ったのも百年前。実在の新宿ではなく比喩としての新宿だという。わけがわからない。けれど最近それらがぐんぐん伸びているらしく地面の下から渋谷をしきりに突き上げ、渋谷は四六時中揺れている。一日に何人がこけているかわからないほどだ。比喩としての新宿はいったい、渋谷に何を訴えかけているのか。
ともあれ、それに怯えて電車に乗って新宿に逃げてくるアンドロイドが後を絶たない。彼らは声を合わせてこう言うらしい。
「自分を持ちたかった」
*月刊詩誌「ココア共和国」2022年10月号 傑作集Ⅱ*