【詩】雨
小ぶりの雨のときはあえて傘をささずに雨に話しかける
きみはどこから来たの?
つづいて空を見上げてもっと問いかける
ここを降りてきたのかい? それよりも前は?
雨はぼくなんかよりもずっと世界のことをよく知っている
これは想像だけれど
ぼくに触れたこの一滴は
あるときは遠くの土地の広大な湖で
またあるときは異国の労働者が流す汗
人が踏み入れない深い森林地帯に恵みを与えていたこともあれば
大昔の王様の食卓に必要なうるおいを添えたこともある
きっと恐竜を見たこともあるにちがいない
そんな古今東西を経て、ついにぼくのもとへやってきたんだ
世界には人が水を乱用するあまり枯れてしまった
もしくは枯れそうな湖がいくつもある
たくさんの動物や植物が行き場を失い野垂れ死んでいる
水の恵みは何にも代えがたい
それは人だって同じさ
世界には安全な水を得られない人々がたくさんいて
それで命を、未来を奪われてしまう人々がたくさんいる
博識な雨はぼくらに平等に降りそそぐ
世界のことを教えてくれるように
人の愚かさに気づかせてくれるように
同時にぼくらを見守り、包み、助けてくれるように
だからときどき立ち止まって話しかけてごらん
傘をたたんで空を見あげてごらん
この雨はかつて自分が流した涙だったかもしれないと想像して
*月刊詩誌「ココア共和国」2022年11月号 落選*
本作は一部改稿しアップ済みでした↓↓