第2話 黒ポメ君 ようこそわが家へ 名前を決めようね!
キャリアケースに入れられたボクは、助手席の娘さんの膝の上にいる。
車は、やっと真っ直ぐ走り出した。
さっきまで何度か方向を変えたから、そのたびに車が揺れて、胸のあたりが気持ち悪かった。
ボクがまだこの二人を本当に飼い主さんかどうか信じきれなかった理由をいうとね、「お客さんが抱っこしてくれたら、その人のおうちに連れて行ってくれるよ。」って店員さんが言ってたんだ。
でもボクは、お店で小さなケージに移されて、そのあとすぐにこのキャリアバッグに入れられたから、抱っこされてないんだ。
そんなことを考えていると、娘さんがこう言った。
「名前どうする?」
「そうねぇ。」
娘さんの問いに、運転しているお母さんは興味なさそうに答える。
ボクの耳はピンと立った。
名前は飼い主さんがつけてくれるって店員さんが言ってたのを思い出した。
ボク:てことは…?
娘さん:「足を骨折したっていうから、ポッキンってのは?ハハハ」
お母さん「ポッキン?まんまだねぇ。」
ボク:だからボク、骨折なんてしてないから!
あれは店長さんの嘘だよ。
娘さん:「じゃ、最後の音を伸ばしてポッキーっていうのは?」
お母さん:「いいんじゃない?お菓子にポッキーってのがあるね。かわいくていいかも。」
二人は同時にキャリアバッグの中のボクに向かって
「ポッキー」と語尾を上げて呼んだ。
それが大きな声だったから、ボクはびっくりした。
二人は、何度も名前を呼んで、楽しそうにしている。
ボクは骨折から連想して付けられたこの「ポッキー」って名前が、ちょっと嫌だった。
でも、この名前、なんとか好きになれないかな。
ボクは頭の中でこの名前を呼んでみた。
「ポッキー」
あれ、悪くないかも。
お母さんが言った。
「お菓子のポッキーはピーオーシ―ケーワイの
pockyだけど、これはピーオーケーケーワイのpokkyね」
これに対して娘さんが大きな声で笑う。
「ハハハ。そんなのどうだっていいじゃん!」
ボクにはチンプンカンプン。
ボクが首を傾(かし)げていたとき、車がゆっくりと停止した。
この四角い建物は何だろう?
驚きと緊張でボクの肉球は、ギュッと縮まって、呼吸が早くなった。
今回は、黒いポメラニアンに付いた名前の由来のお話でした。
さて、このあと彼にはどんな生活が待っているのでしょう。
次回をお楽しみに。