第21話 チャイムが怖い? 吠えるのはボクらの本能なんだけど
玄関のチャイムが鳴ると必ず知らない人がやって来る…。
にわかにママがバタバタと、慌ただしく動くんだ。
ボクは何事かと、とりあえず必至で吠える。
ボクにとってチャイムは嫌なことだらけ。
特に、ペット用としてのボクのようなポメラニアン。
恐怖や不安、警戒心が強いんだ。
自分より大きい物を警戒して吠える習性なんだよね。
ママにとってはただの宅配便であっても、ボクにとっては未知なる生物との遭遇だ。
チャイム音は大問題。
注意すべき音なんだよね。
怖い!こっちに来ないで!と怯える合図でもあるんだ。
でも・・・。
それをママはわかってくれない。
吠えると同時にボクを強く叱ってくる。
でもボクは、吠えることを悪いことだとは思っていない。
ボクみたいに体の小さな小型犬は、吠えることでしか自分の身を守れないんだ。
だから、チャイム音が鳴るたびに、ボクは吠えることを繰り返す。
だけど、そうしているうちにチャイムが鳴って入ってくる人は、怖いものではないことが、だんだんわかってきたんだ。
チャイムが鳴ると必ず何かが来る。
でも、それはみんなママみたいな人間だ。
その場で話をしただけで、すぐに帰ってしまう人もいる。
話をした後に部屋の中に入ってくる人もいる。
今日来た人はママと歳が同じくらいの女の人。
ママと仲良しなのにあいさつをきちんとする人だ。
「ポッキーちゃん、こんにちは。お邪魔します」
ボクにもちゃんとしてくれる。
ママが、この人を尊敬してることが良くわかる。
この人なら前にも来たことがある、とボクは思う。
この人は大丈夫。
ボクを襲ったりはしない。
ボクは少し安心する。
でもボクが吠え続けるにもかかわらず、ボクの手を触ってきたり、頭をなでたりするんだよね。
ボクはそれがちょっと嫌なんだ。
ママとしょうちゃん以外に体を触られるのはやっぱり怖い。
ママは吠えるボクをたしなめながら抱きあげる。
ボクをどかせて、その人をリビングに通すためだ。
その人がダイニングテーブルのイスに座ったところで、ボクはキッチンのカウンターチェアーの上に置かれるんだ。
ここはボクのお気に入りの場所。
ママたちが座っているダイニングテーブルのすぐそばだから、テーブルの上の物が良く見える。
そして、ここからだと、外の景色も良く見えるんだよね。
床にいては見えない景色だよ。
窓の外は、お空や、おうちの屋根が遠くまで広がっていて気持ちがいいんだ。
だからボクはここに置かれると、吠えるのを止めることにしてるんだ。
ママはボクを黙らせて動けないようにしたい時、ボクをここに置く。
今みたいに、誰かが来た時。
ワニとダンスを踊る時。
正直、ボクはここから一人で降りることはできない。
少し高すぎるんんだ。
でも、ここにいるのはキライじゃないよ。
どうしてだかわかる?
それはね。
吠えるのを止めたごほうびに、おやつがもらえるんだよね。
その上、
ママと、その人が、食べているお菓子までもらえることもあるんだ。
ボクはその人が食べてる口元をジッと見つめる。
その場で立って両前足をモジモジさせる。
ここで目線を離さないことが大切なポイントなんだ。
その人はたまらずママに、
「ポッキーに少しあげても良いですか?」
と聞いてくる。
必ずだ。
するとママは、申し訳なさそうに
「少しね」と、うなずくんだ。
ボクはママたちが食べている、人間の食おやつ。
「チーズケーキ」っていうんだって。
それを一口もらうことに成功した。
お肉のような歯ごたえがないのは、少し物足りない気もする。
だけどいつも食べ物は丸のみしているんだから、まあまあいいかな。
ほんのり甘い香りに、ちょっぴり酸っぱいカンジだね。
大人の味ってとこかもね?
この後ボクはママからも、一口もらうことに成功したよ。
ボクがひと口目を飲み込んだところで、さらに欲しそうなまなざしをその人に向けてアピールする。
ここでのポイントは、ママにではなく、その人にアピールすること!
ママは慌てて自分の分をボクに差し出す。
その人の分が減らないようにするためだ。
人間の世界も大変なんだなあ。
とボクはふたくち目のチーズケーキを丸ごと飲み込みながらそう思った。
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