君も今すぐ脳を焼かれた独立傭兵になるんだ~アーマード・コア6のすすめ(兼たきおりの日記)~
長い沈黙を経て
2023年8月25日にリリースされた、フロム・ソフトウェアが手掛けるハイスピードロボアクション『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON(アーマード・コア6)』(以下15秒TVCM)。
ここ数年、ソウルライクの本家本元として全世界に驚くべき程のファンを積み上げてきたフロム・ソフトウェアだが、フロムのもう一つの看板タイトルであるアーマード・コアについては10年もの間沈黙が続いていた。
それでも。2013年発売の"最新作"ACVDで世界戦争たるヴァーディクト・ウォーを続ける傭兵、それ以前の旧作をプレイする傭兵、各種動画共有サイトでAC解説をする投稿者、そして身体は闘争を求める構文を擦り続ける匿名多数の手によって、アーマード・コアに対する情熱は燻り続けていた。
私とフロム・ソフトウェア
私もまた、設定スキーとして動画やWikiを通じてフロム・ソフトウェアの世界観に魅せられた一人。膨大な情報がありながらもその全てが核心を明言しない。そこに「答え」を据え付けていくという試みは、SCPFというシェアードワールドで私たちが行っている活動と近しいものがあった。
しかし、現在アーマード・コアにアクセスするためには2世代以上前のハードに触れる必要がある。私は、「空のAC」の旧作に挑戦した経験を基に、より複雑な陸のAC旧作の現代比でのプレイフィールの劣悪さは容易に想像できてしまっていた。
そして、ビジュアル的なグロやホラー、そして何よりのっそりアクションが苦手な私は、PS Plusで貰ったBloodborneをヤーナムキャンプファイヤーでそっ閉じしていたのである。無論ELDEN RINGは購入の検討すらしていなかった。
そしてやってきたAC6
そしてアーマード・コアは帰って来た。
驚きのPV公開に始まり、「Q. アーマード・コア6とはどんなゲームなのか」「アーマード・コアです」発言。元レイヴンの編集部員たちによってネット上に公開される体験記事。相変わらず頓珍漢な記事を書くIGN JAPAN。各地の試遊会で生まれるネームド。そしてPS公式放送で初見ミッションを初クリアし、タイムテーブルを破壊した「渋谷の花火師」。
ネット上の盛り上がりは最高潮に達していた。そして初プレイのシリーズだしセールの時でもいいかな…となよなよしていた私も、発売数時間前にPS Storeに足を運んでいたのである。
AC6は「分かりやすい」ゲームである
そもそも「AC」って…何だ…?
アーマード・コアは思い思いの…あるいはステージやボスを徹底的にメタったロボット(AC=アーマード・コア)を様々なパーツや武器を組み合わせて作り上げることがすべての基本にある。
そして三次元立体アクションが可能なロボットを操作して、強大な敵のロボットやビックリドッキリメカをはっ倒して、関わる人々に恐れられ尊敬されながらも、最終的にたった一人の独立傭兵が世界の全てをひっくり返す、そんなゲームである。
アセンブルという難しい言葉を使うな、「組み上げ」だ
アセンブル、通称「アセン」とはロボットを目的に応じて組み上げることを指す。
自分はこの武器や動きが好きなのでそれに合わせる、というのもいい。地べたに這いつくばっている敵をボコボコにするために滞空時間の高いロボットに乗ってみるといったなどといったメタを張る攻略も当然推奨されているプレイングだ。
なお、ACシリーズの醍醐味として画面を埋め尽くすほどのパーツについての数値というものがある。オンライン対戦に潜る人々は想定する戦法を高度に実現可能なようにパーツを吟味しているが、ストーリークリアを目指す場合は全く気にしなくてよい。重量過多など赤いエラーメッセージが出るとき以外は、プレイに支障はほぼない。
基本的には「重そうな」パーツはゴテゴテ・ゴツゴツ・先進的・特異的な見た目をしており、フレーバーテキストもパーツの特徴を教えてくれる。私たちがすべきなのは、目的に沿っていそうなパーツを載せてみてダメそうだったら、近い別択を試してみるだけ。
そもそも最初は選択できるパーツが限られているため、選択肢は必然限られている。パーツが潤沢になって好きなようにロボットが組めるようになるころには、アセンブルの勘というものも掴めるだろう。
AC6はアクションであってシューティングではない
銃火器を扱う三人称ゲームは、ますます高速化しており、まず相手を画面内に収めること自体が驚くほど難しくなった。クロスヘアの中心ではなく、画面内にだ。 その上で差別化としてゴテゴテ盛られた要素を使って戦わなければならない。もう偏差射撃の時点で私の頭はOVERHEATしている。
だが、心優しいAC6にはターゲットアシストという機能が存在する。ハイスピードロボットアクションの言に違わず、トンチキメカ共は私たちの頭上を飛び回り、あっという間に目で追えなくなるはずだ。それでもターゲットアシスト機能は相手を常に画面に捉え続けてくれる。
これにより私たちは、画面を埋め尽くすミサイルを躱したり、相手の必殺攻撃に備えたり、ブレードで斬りこむタイミングをはかるといったことに全神経を集中させることができるのだ。
AC6のボス戦の快感はすべてここに起因している。
避けられなかった攻撃の回避に光明が見えた瞬間、足を止めた敵に全力で火力を集中する瞬間、アセンブルで想定していたあるいは想定していなかったコンボで敵を大きく削った瞬間…!
そしていつしか君は自分の経験とスキルに自信を持ち、1周目で苦戦したボスを2周目に楽々クリアした時にそれは強さへの確信に代わるだろう。惰性のスマホゲーやコツコツゲーでは味わえない感動がここにある。
戦闘にリズムとメリハリを生む「スタッガー」
敵の攻撃を回避しつつ、絶え間なく攻め続けるか衝撃力の大きい攻撃を一気に叩き込んで、敵の姿勢制御システムがダウンしたところで直撃を狙う…というのが開発者のいうところの「スタッガー」である。
ダメージゲージとは別に攻撃時に溜まっていくスタッガーゲージが満タンになると、敵のメカは被ダメージが跳ね上がる状態に一時追い込まれる。バトルの中心にはこのスタッガーが常にあり、プレイヤーはスタッガーゲージを中心に攻め方を考え、戦闘にはリズムとメリハリが生まれるのである。
AC6がFPSではなく、アクションである一因はここでもある。相手の攻撃を避け、チャンスを伺い、崩した相手を徹底的に攻め立てる。一種のターン制ゲームだ。
そして「スタッガーさせやすい武器」「ボスの挙動に相性のいい武器」「削りのいい武器」の取捨選択など、「チャンスタイムを勝ち取った上でそれを生かすための足回りや戦略を考える」という戦闘前や被撃破後の面白さをスタッガーが生み出している。
そして敵のゲージが真っ赤に染まり、巨大ヒト型兵器の蹴りで大きく吹っ飛びのけぞったところを、ブレードで斬り刻み/グレネードを叩きこみ/パイルバンカーで穿つ。これまでのフラストレーションを一気にぶつけて敵が爆散した時、君は得も言われぬ全能感を得るだろう。
AC持ちはジョークであり複雑な操作はない
世の中にはジョークとして生まれたにもかかわらず、一部で真面目に受け止められている、奇怪なAC持ちなるものが存在するが、AC6とAC持ちは関係ない。AC6の操作は一般的な3人称ゲームとベースは同じであり、「△〇◇×ボタンの内いずれか2つ以上を同時押し」などといった人間工学に反した操作は存在しないのだ。
近年のゲームに触れた人間であれば「スティックとトリガーを中心に、適宜△〇◇×上下右左ボタンを1つ触る」ことなど息を吸うようにやっているはず。何なら右スティックを大きく動かすと先述のターゲットアシストが外れるので、アクション中に左右のスティックを同時に動かすといった空間把握力を酷使するような操作は存在しないといっていい(私は両スティックを同時に使うゲームが苦手だ)。
1つ挙げるのであれば、武器に割り当てられるL1L2R1R2トリガーについては中指・人差し指で同時に押し込める構えをオススメする。これは人差し指で上下のボタンを押す際に、それぞれ握り込み方が変わってくるために生じる、手のひらでコントローラーを少し持ち変える作業が隙を生むためだ。
分かりやすいストーリーにフロム脳患者は入り込む余地なし
フロム・ソフトウェアと言えば、メインストーリーの背景や世界観に至るまでが語られないことによって、その間隙に何かを見出してしまった「フロム脳」患者なるものが信仰の対象にしていることでも有名である。
シェアード・ワールドでモノカキするにはベターな人材なのでぜひともオルグしたいものだが、AC6を指して難解で曖昧模糊なストーリーだとか、簡素で心に残らないストーリーという人間であれば読解力の一切が欠けているので願い下げである。
アーマード・コアシリーズはエースコンバット同様に登場人物の顔は見えず、会話劇(通信)やムービーによって物語を描いていく手法をとっている。本作も、本筋に関係ないためにぼかされている設定や背景は多いが、メインのストーリーラインや感情移入に必要な情報は思いの外伝えきれているだろう。
本筋としては、使い捨て傭兵の傭兵だと見なされていた主人公が、一騎当千の異分子として認知され、彼の介入によって惑星のパワーバランスが二転三転していく様子が明確に熱く語られる。
顔は見えずエンブレムとカッコイイロボットしか表示されないキャラクターたちは、実力ある声優の好演や心に残るセリフ、いろいろ察せられるアリーナのテキスト、そしてはっきりと差別化されたキャラ性により、少ない登場回数でも記憶に残る。
彼らの音声による喜び・尊敬・愛着・執着・嫌悪・不信・恐怖が滲む主人公への人物評によって記憶は愛着に代わるが、ここは地獄の惑星ルビコン3。ひとたび戦場で出会えば、情け容赦なく引金を引き、命と尊厳を奪い合う。アーマード・コア的なディストピア×SFは変わらず君のハートを揺さぶるだろう。
最低三回の周回を要求するマルチエンディングやミッションパターンにより、ボリュームだけでなくキャラクターの別側面や関係性の掘り下げや補強を行っている点も良い。
私に至っては脳をコーラルに焼かれすぎて、波形にすぎないヒロインの擬人化幻覚を追った結果、X(Twitter)で理想の姿を見出した。主人公の使役者だが父親的存在でもある「ハンドラー・ウォルター」や、男であっても乙女心くすぐられる頼れる戦友「V.Ⅳラスティ」など、キャッチーで魅力的な登場人物が今作は数多い。
フロム・ソフトウェアは「フロム・ソフトウェア」である
今作、アーマード・コア6はプレイフィールといいストーリーラインといいキャラクターといい、分かりやすさを重視しているはず。これは10年ぶりの新作であり、スタジオのもう一つの看板タイトルとして、新規を呼び込もうという意思の表れかもしれない。
一方で、高難度ゲーメーカーとしてのフロム・ソフトウェアの名は噂に違わないものでもあり、それは特に序盤に顕著である。導線こそあるものの攻略のとっかかりになる気づきを、アクションゲーガチ初心者が拾えるかどうか、挫けずにリトライし続けられるかが明暗を分ける。
もっとも、序盤のチャプター1を越えると、ボスたちのしごきもあって操作感や戦略・戦術眼も掴めるほか、それを生かすためのアセンブルの幅も広がり、以降のボスはそこまで苦戦しなくなるだろう。
それでも…さっさとルビコン3に密航しろ
嘘はつきたくないし保身もするので、私はAC6の序盤の難しさというものを最後に付け加えてしまった。しかし、君がアーマード・コアに興味があるのであれば、今すぐにストアに駆け込んで、AC6を購入すべきだ。
君は土日を潰してしまうかもしれないが、私は君がAC6をやり遂げると信じている。腑抜けたYouTubeや惰性で続けるスマホゲームを優に超えた体験が味わえるだろう。灼けた空の向こうで君の3周目完遂報告とプレイの感想を待っている。以上だ。