さよならを伝えた私の旅 後編
前回から引き続いて21の誕生日に決行した一人旅の備忘録書き殴り(既に行ってから半年が経過)。もはや脚色まみれかもしれない記憶...
23日 6:00 pm やることは1つ
ここから始めよう。ふと瞼を開け、異常に喉が渇いていることに気づきローソンで買った1000mlのジャスミンティーを口に注ぎこむ。抜かりない私はスマホを充電器に繋げてから眠りに勤しんでいたので、安心してスマホをコードから取り外した。時刻は午後6時、なんとなく気になっていた美術館はそろそろ閉まる時間だった。し、大体の観光施設は午後5時には閉まってしまう傾向にある(と勝手に思っている)。なんだ、もう残されたことは飲むことのみか...と、数刻前に醜態を晒していた事実から目を背け次の飲みについて思案する。移動方法は、熊本に来たのならやはりチンチン電車だろう。路面電車に乗る経験は初めてではなかったけれど、1人で路面電車に乗り込むのは初めだったし、地元ならではの交通機関を使うことは熊本に暮らす人たちの生活に溶け込む感覚が体験できる気がして期待に胸を膨らます。お手元の電子媒体でなるべく近くの時間の便を検索して意気揚々に宿を飛び出した。
時刻は夕暮れ、季節も冬だし既に外は薄暗いベールに包まれており、駅前のクリスマスマーケットでは子連れの家族やカップルたちでにぎわっていた。もはやここまで来たら何も言うまい。たしか手持ちの交通系ICカードは残高が3桁にも満たない状態であったよなとぼんやりと思いながらも、先ほどのマーケットを通りすぎて駅のコンビニに行くのもけだるく感じて小銭でしのぐことを決意し電車に乗り込んだ。乗客はやはり多かった。学生から老人まで様々な年代の熊本住民らしき人々が肩を並べて窮屈そうに手元のスクリーンを眺めている。対する私は旅先というのもあって、なかなか気持ち悪いくらい周りの人間に視線を注いでしまった。あーあの老夫婦、ずっとこの街で過ごしてきたのかな。隣にいるこの女学生はこれから帰宅か、それとも塾にでも向かうのか。無料会員のSpotifyで30分おきに流れる広告を聞き流しながら、クマモトの街に目を運ぶ。私が知らない人たちの、私が知らない暮らしがここにはどれだけ溢れているのだろう。
6:20 pm 繁華街に行けば大体楽しいはず
電車を降りる。別府ではおよそ感じれないような人の熱気と、街の光の多さに心が躍る。肌寒さを感じながらも、何者でもある必要がないその瞬間にホッとする。とりあえずぐるっとアーケードを巡ることにした。商店街らしい天井付近にある飾り物がふわふわと揺れていてかわいらしい。なんだかよく分からないオブジェも真新しいものに思えてくる。でもどこか上滑りする視線のせいで、一周終えた後に記憶に残ったのはソープの案内場で暇そうに突っ立てるお兄さんの姿くらいだった。知人から教えてもらった馬肉居酒屋店の予約時間にはまだ余裕がある。本当は一軒目後に行く場所を決めたかったのだけれど、なかなか外装だけで行先を決めるのは難しい。たぶん私にはそういう直観的に店を決める場数が足りてないような気がした。仕方がないから電車を降りた場所に戻ってみる。そういえば近くに大きい広場とモールがあったから行ってみよう。クリスマス前だし、もしかしたらイルミネーションとか見れるかもしれない。
6:50 pm 頃? たしかサクラマチ
だだっ広い割には何も置かれていない芝生の広場を超えて、そこそこ大きそうなモールの入口へ向かう。なんか適当に時間つぶしたいけど、旅行先で服買っても仕方ないしな、と行きたいところが見つからない。というか物欲が湧かない。とりあえず屋上でイルミネーションイベントをしているらしいし立ち寄ってみるのもありかも、と思ったら品の良い紅茶屋さんが目に入ったから足を運んだ。赤と緑のパッケージに包まれた紅茶セットは可愛らしくて、誰にプレゼントしても困らなさそう。やわらかい印象の控え目な店員さんが、良かったら試飲いかがですか?とその月おすすめの紅茶をさしだしてくれた。「女性」受けしそうなローズヒップをベースにした香りが良くて酸味の効いた味わいになんだか元気をもらった気がする。紅茶を誰かに買うなんて昔は軽々しく考えていたけれど、今になっては至極素敵なことな気がするし土産に買っていこうかな(しっかりマーケティングにひっかかっている)なんて真面目に商品を吟味し始める私。今回の旅で誰かに物を買おうと思うなんて予想してなかったけど、そういえば年末は実家に帰るのだし何か買っていくのも気が利いているというものだろう。いつも頑張りすぎな母の顔が自然と思い浮かぶ。冒険が好きな人だから、ありきたりなブレンドよりも少し奇を衒ったテイストでもいいかもしれない。けれど、思ったよりも未知の体験ができそうな品は見つからなかった。思い直して牛蒡茶を手にする。最近飲んだ牛蒡茶の土臭い優しさが記憶に残っていた。あの人にもほっこりする時間をプレゼントしたい、そんな風に思っていた。
「ポイントカードお作りしましょうか?」の提案にお決まりの形でお断りしてから、ライトアップがされているらしい屋上を目指す。気怠げなイベントスタッフの横をすり抜けて電飾が散りばめられた庭園らしきものに足を踏み入れる。結局クリスマスっぽいことしてしまうな、と自分に少し呆れながら中途半端に彩られた木々を眺めていく。これでも幼い頃からクリスマスに浮かれた色とりどり街とか、どこからともなく現れるおそらくモミではない木に吊るされたオーナメントに心を躍らせていた。小学3年くらいまでは家の中でツリーの飾りつけまでしてたし。少し離れた市で行われる100本のクリスマスツリーが見れるイベントや、家の近くで競われるご近所さん同士のイルミネーションバトルとかも好きだった。もう今年は今までみたいに浮かれた気分には浸れない。
7:30 pm 視線が痛い
適当にぶらついた後に、ようやく酒と肉にありつく。店内は想像していたよりも落ち着いていて、私以外のお客さんは少し疲れた社会人のグループだけだった。おそらく一度区切りがついて少しクールダウンしている男性や、残ったつまみを片付けながらちびちびと飲む青年、めっちゃこっちガン見してくるおっさん。悲しいかな、スタッフまでも男尽くしなその場から私は明らかに浮いていた。まぁ、恥ずかしいことをしているわけでもないしと開き直り目の前の食に集中する。おひとり様だからあまり量があるメニューを選べないのが悲しい。結局冷やしトマトと馬肉3種盛りしかアテは頼めなかった。お国酒と呼ばれる昔ハレの日に飲まれてたらしいお酒が、本当に甘くて甘い以外のなにものでもなくて注文したのちょっと後悔。でもお肉は私を裏切らない。少し筋が気になったけど値段にあったお味だし、旅行してる気分もしっかり感じれて心の中で小躍りする。次の目的地を決めるべくスマホの検索エンジンを開く。もうお酒しかおなかに入らないけれど、どうせならもう少し地の物を頂きたい。地ビールもといクラフトビールとかいいよね。雰囲気が良さそうで入りやすそうな徒歩圏内のビアバーを見つけたので、早速向かおうじゃないか。
8:30 pm Beer Bar ble'ble'は再度訪れたい場所
扉を開けると、壁に掛けられ宙に浮いた自転車が目に飛び込んできた。お店にいたのはスタイリッシュなおじさまと一組のカップル。従業員のお二人はどちらも男性でロン毛。正直空間がおしゃれすぎて尻込みしそうだった。でもここまで来て引き返すわけにはいかない。ていうか単純にビール飲みたい。そんなわけで少し緊張しながらもスタンド席に向かい、メニューを開く。ロン毛のお兄さんは優しくメニューの説明をしてくれた。どうやらこのバーがプロデュースしてるクラフトビールがあるらしい。どうせならとそれを注文した(気がする。記憶がちょっと曖昧)。待ち時間はお供の小説を開いて、ゆったりと過ごす(風を演出する)。この旅に持ってきていたのは竹宮ゆゆこ先生の『心が折れた夜のプレイリスト』。私が大好きな「とらドラ!」の原作者様の小説だ。ある男子大学生が変態な先輩とちょっと物騒な事件に巻き込まれたり、可愛い女の子とラーメンを食べに行ったりする話。ほっこり、そしてクスっと笑えるほど良いスピード感。やっぱり好きだなぁ…と浸りながら手元にやってきたビールを呷る。たしかオリジナルビールはオレンジの香りが強いものだったと思う。どのビールも色んな味わいと香りが混ざり合って楽しい。そんな風に旅先の幸せを噛み締めていたら、隣のスタイリッシュおじさま(どうやらここの常連)が話しかけてくれた。
「どんな本読んでるの?」
話始めたきっかけは、そんな感じだったと思う。まさかそんな理想ばっちしの話しかけられ方すると思われなくてちょっと興奮した。本当に軽い読みものですし、読み始めたばかりなので正直語る内容もなくて…とかそんなつまらん返ししかできなかった。でも、おじさまはそのまま私との会話を引き継いでくれる。ここの料理すごい美味しいからおすすめだよ、とかちょこちょこ教えてくれた。すんごい嬉しい。でも今おなかいっぱいだからまた今度だな~とか思ってたら、新しい常連さんが来た。
今度はアフロのお兄さん。ここ癖強い人ばっか来るなって笑えた。
「自分ラーメン屋で働いてるんですよ、時間あったら来てください!」
えー行きたい。でも私明日の昼には大分に戻ってないといけないから、厳しいかも…ごめんなさい。とまたまた消極的な態度の私。そのあと謎にアフロ兄さんが付き合ってる年上彼女の話や、スタイリッシュおじさまは実はこのバーの近くにある服屋さんの店長だってことを聞いた。(そしておじさまは自分が頼んでた料理を少し分け与えてくれた。おなかいっぱいだったけど頑張って食べた。鶏肉とホワイトソースのなにか、おいしかった。けど苦しかった。)こういう時間をこの旅には求めてたんだ!って幸せ気分。
ありがとう、ble'ble'。絶対また行きます。今度来るときは頂いたble'ble'の文字入りライターと「スパームマン」シールを携えます。ライターは分かるけど、なんでこのシールくれたかは正直意味不明でした。多分店長さんがやられてたバンドのシールかなんかなんだけど、あとからよく見たら精子の集合体だった。最初それに気づかずに「雪男がモデルなんですか?」と質問した純粋な私を返してほしい。
10:30 pm頃? ワインバーの扉は開かれず、地下へ
実はble'ble'で飲んでいた時に、日本酒&ナチュラルワインバーであるバイト先の店長からおすすめのワインバーを教えてもらっていた。次に行く場所の情報を抜かりなくキャッチできるのナイス!と思いながら言われたお店に歩いて向かう。だいぶ外が寒くなってきたから、できれば早く店内に入りたい。しかしその願いは叶わず…「本日は臨時休業とさせて頂きます」の紙が貼ってあった。悲しい…(この頃ナチュラルワインハマりかけの時期だったから特に悲しかった。)悲しいけれどそこで挫けていても仕方ない。閉まっているなれば、次の店を探すまでだ。
すごすごともと来た道を戻りながら、感性に合いそうな店を探す。もうお酒しかおなかに入らないから、どうせならゆったりと飲めるところがいい。21になる前夜なのだし、できれば大人の階段を上るような場に身を置きたい。そんなことを目論みながら歩いていたら、明るすぎず目立ちすぎずな「大人っぽい」半地下にあるバーに出会った。「もうここに入っちゃえ!」の気持ちで階段を降りた先の扉を開く。席は割と空いていて、壁には知らない銘柄のお酒が並んでる。優しい雰囲気を持ちながらも威厳がしっかりある感じのマスターに、少し若めだけど落ち着いた雰囲気のお兄さんバーテンダー。これ会計の時大丈夫かな…と再度ビビりながら席に着く私。もごもごとフルーツ系カクテルをおまかせで頼み、ちびちび飲んでみる。うん、美味しい。背伸びしてみて良かったかも。
一杯目のカクテルを飲み終える頃、隣にTHE・大人な一人の女性が座った。気づくと店内の席はそこそこ埋まり始めている。手慣れた感じでウイスキーを頼むお姉さま(勝手に心の中でお姉さま呼びしだす)。どうやらまだ飲んだことがなかったウイスキーが店にあったらしく上機嫌なお姉さま。マジかっけぇ。ウイスキー好きな女性ってなんだ、痺れる。このお姉さまと話してみたい。と無声音で騒いでしまうザマである。そして、お酒に浮かれた私は声をかけた。
「ウイスキー、お好きなんですか?」
ひぃぃぃ。いやごめんなさい。多分こんなスマートに話しかけてなかったです。多分「あの」「その」「えっと」とかどもりながら喋ってたね、あれは。兎に角、私は勇気を振り絞りお姉さまに話しかけることに成功したのだ。そしてお姉さまも気前よくお話し相手になってくれたのだ!ほんっとうに嬉しかった…。お姉さまがお父様の影響でウイスキーを嗜むようになった話、お姉さまのお仕事の話、今回もお仕事の関係でここに来たという話。こんな小娘に色々お話ししてくれることがありがたくて尊かった。こんな風にお酒を趣味にしながら、いろんなところに足を運べる大人になりたいなぁ。とひたすら憧れたのである。
0:00 am 21の私、おはよう
お姉さまとの歓談に楽しむ中、ついに私は21歳の自分を迎える。ありがたくその場にいる皆様からあたたかい拍手を頂き、初めての地で初めての私に出会ったのだ。お姉さまとは反対側に座っていらした、高級クラブの同伴らしきお客様からシャンパンも頂けた。こんな自分、20になった時は想像していなかったな、と嬉しい意味での誤算をしみじみと感じる。隣の同伴組との話もほどほどに、明日早くに熊本を出なければならない私は店を後にした。
(お姉さまとはインスタ交換しちゃった、最高かよ)
(いつも美味しそうな料理とお酒を投稿している)
(私が社会人になったら、ご一緒したりできないかな…)
0:30 am 床に着く
そんなこんなで飲んだくれの夜徘徊は終わりを迎えたのだ。初めての一人旅、なんか素敵な出会いがたくさんあったな~とニヤケながら、幸せな眠りについたのでした。
はい、後編と称して「さよならを伝えたわたしの旅」録はこの投稿で終わりを迎える予定だったのですが無理でした。
ということで、あとほんの少しだけ続きます…。また次回。
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