人は死ぬ。何かが残る。
「人間は死んでも、この世に何かを残すことができる」ってクソださくないか?
いや、無限に流れる時間のなかでは人間は存在しないも同然だし、そんな無に等しい人間が何かを残そうったって虚しい…虚しくない?
人間が残すのは屍体でもなければ名前でもない。そいつが存在したという事実だ。
記憶は忘れられ、記録は朽ち果てる。けど事実、何かがあったという動きだけはこの世から絶対削れることはない。
『何か』が残るんだ。実際に起きたことを知っているわけはないが、『何か』があった。世界は『過去の何か』からできている…これが心に薄闇をもたらす。
「かつてこの街には戦争があった」「今食べてる肉は生きていた動物だった」…そう考えるだけで、気分が暗くなり、先行が見通せなくなる。
『何かを残す』んじゃない、『何かが残る』んだ。
それを言うほど美しいことだとは思わないな。
ヘロストラトスという人が居ます。灯台に放火して囚われ、蛮行の理由を訊かれた。曰く、「永遠の名をとどめるため」と。
果たしてこの男は処刑され、誰もその名前を伝えないように彼の所業を伝えることは厳禁された。
しかしその措置が何の結果をもたらしたかは、書いた通りである。
醜悪だね。確かに、あらゆる困難を乗り越えて、揺るがない偉業を達成させたことで末長く語り継がれる人間はいるよ。けれどそれは単なる結果。
少なくとも、何かを残すために生きること事態を目的にしてはいけない。有名になることと同じだ。
僕は何かを残したい。しかしそれは数十年残っていればいい物であって何百年経っても依然覚えられているような代物でなくても構わないのだ。
会ったこともない誰かに自分の名前をあげつらわれたくないから。