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【感想】『クジマ歌えば家ほろろ』クジマとの奇妙な同居生活を描いた本作は、読者にとってもリラックスした笑いとともに、どこか心温まる感情を呼び起こす。

『クジマ歌えば家ほろろ』は、和山やま先生が推薦する独特の鳥(?)コメディーであり、シンプルな日常の中に奇妙な異質感とほのかな温かみを巧みに織り交ぜた作品です。物語は、中学1年生の秋に鴻田新が、ロシアから来たと自称する謎の生物「クジマ」と出会うところから始まります。新の家族は、浪人生の兄が抱える受験のプレッシャーでピリピリとした空気が漂っていますが、そんな環境に突然クジマが転がり込んでくることにより、家族全体の生活に奇妙な変化が生じます。作品はコメディでありながらも、どこか心をくすぐる感動を内包しており、その独特な空気感が作品全体を魅力的にしています。


クジマのキャラクター性

まず、この作品における最大の魅力は、何と言っても「クジマ」というキャラクターです。彼は自らを「渡り鳥」と名乗り、春まで鴻田家に置いてくれと頼むものの、その姿はどう見ても鳥とは言えない謎の生物。鳥のような特徴を持っているものの、言動や行動は人間と変わらず、むしろその滑稽さが読者を引き込んでいきます。クジマは理屈っぽく、何かにつけてロシア語を叫ぶ癖があり、しばしば周囲を戸惑わせます。特に感情的になるとロシア語でわめき散らす姿がシュールでありながらもユーモラスで、そのギャップが絶妙な笑いを誘います。

クジマの登場によって、新とその家族は次第に変化していきます。ピリピリした家庭の雰囲気が緩やかに和らぎ、クジマがもたらす突拍子もない出来事や奇想天外な行動が、家族に笑いと驚きを提供します。クジマが家族と交流する様子は、まるで一つの異文化交流のようであり、言葉や文化が異なる存在との共存を描いているようにも感じられます。

家族の変化とクジマの役割

この作品の魅力は、単なるギャグやコメディーにとどまらず、家族の微妙な変化を丁寧に描写している点にもあります。鴻田家は浪人生の兄が抱えるストレスによって家庭内の空気が常に張り詰めていました。しかし、そんな緊張感を打ち破るのがクジマの存在です。彼の飄々とした振る舞いや理屈を超えた行動が、家族の硬直した関係性を徐々にほどいていくのです。

例えば、兄の受験に対するプレッシャーを象徴するピリピリとした空気感が、クジマの自由奔放な言動によって少しずつ解消されていく描写は、読者に安心感を与えます。クジマは無邪気な行動を通じて、家族にリラックスする余裕を与え、新やその兄が抱える問題を無理なく解決する手助けをしているかのようです。このように、クジマはただの笑いを提供するキャラクターではなく、家族の心の変化や成長に深く関与している存在でもあります。

脱力系ギャグの巧みさ

『クジマ歌えば家ほろろ』の大きな特徴の一つは、脱力系のギャグが物語の至るところに散りばめられている点です。和山やま先生の推薦もあり、作品全体に漂う独特のテンポ感やシュールさは、読者にリラックスした笑いを提供します。クジマの行動や発言は、時に全く意味不明でありながらも、その理不尽さが逆に面白さを生み出しているのです。

例えば、クジマが突然ロシア語を叫ぶシーンや、食べ物に対して異常な執着を見せる場面などは、意味を追求しようとすると途端に頭が混乱してしまうような展開ですが、そこが逆に笑いを誘います。この「意味不明さ」や「理屈抜きの笑い」は、現実の疲れた心を一瞬にして和らげる効果を持っており、まさに「脱力系」の真骨頂と言えます。

心に響くしんみりとした瞬間

しかし、この作品がただのギャグ漫画にとどまらない理由は、時折訪れる「しんみり」とした瞬間にあります。クジマの異質な存在感と家族の日常が交差する中で、ふとした瞬間に訪れる静けさや温かさが、この作品を単なるコメディ以上のものにしているのです。

例えば、春が近づくにつれて、クジマが去ってしまうかもしれないという不安が新や家族の心に芽生え始めます。冬を越え、暖かい春がやってくるという自然の流れと、クジマとの別れがリンクし、作品全体に穏やかな感傷が漂い始めるのです。読者はいつの間にか、クジマがただの騒がしい異質な存在ではなく、新や家族にとって大切な一員であることに気づかされます。彼の存在が家族にどれだけの影響を与えてきたのか、その重みが感じられる瞬間です。

終わりに

『クジマ歌えば家ほろろ』は、一見するとただの脱力系ギャグ漫画のように見えますが、その中には家族の成長や異文化との共存、そして別れの予感といった深いテーマが隠されています。クジマという謎の存在を通じて、鴻田家が少しずつ変わっていく様子は、読者にとっても共感しやすく、心に残るものです。クジマが鴻田家に春まで滞在するという一見風変わりな設定が、実際には季節の移り変わりや家族の心の変化を象徴しており、作品全体を通して温かい感動を与えてくれます。

和山やま先生が推薦するだけあり、この作品には単なるギャグ以上の奥深さがあり、読者の心を掴んで離さない魅力があります。クジマとの奇妙な同居生活を描いた本作は、読者にとってもリラックスした笑いとともに、どこか心温まる感情を呼び起こす一冊です。

▼ぜひ読んでみてください。


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