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【感想】『今日はカノジョがいないから』単なる百合漫画や恋愛漫画ではなく、現代の若者が抱える孤独や寂しさ、裏切りや葛藤を描いた非常にリアルな作品。

漫画『今日はカノジョがいないから』は、現代の高校生の繊細な恋愛感情を描いた作品で、特に同性同士の秘密の関係をテーマにしています。この物語は、ゆにと七瀬という二人の女子高校生の隠された恋愛を軸に進んでいきますが、その中にある心理的葛藤や、不安、孤独感が非常にリアルに描かれています。裏垢での発信や、寂しさ、浮気という要素が絡み合い、読者に強い感情移入を促す作品です。


あらすじの考察

この作品の主軸となるのは、バレー部に所属する七瀬と、彼女を一途に想うゆにの関係です。しかし、彼女たちの関係は学校では秘密であり、特に同性同士ということもあり、周囲には言えない秘密の恋愛です。物語の序盤では、ゆには七瀬が忙しいことを理解しつつも、彼女と過ごせない時間に耐えるしかない状況が描かれます。この「寂しさ」をどのように処理するかが、物語全体のテーマの一つになっています。

ゆにはその寂しさや葛藤を、誰にも言えない思いを裏垢で発散することで解消しています。裏垢には、自撮りや愚痴、そして時折彼女への惚気を投稿しています。誰に見られても構わない、ただ少しでも感情を外に出したいという思いが伝わってきます。しかし、その裏垢が学校で発覚した時、ゆにの生活は一変します。彼女はもはや「七瀬だけの彼女」ではいられなくなり、次第に物語は新たな方向へ進んでいきます。

キャラクターの魅力

この作品の魅力は、登場人物たちの心理描写の深さにあります。特にゆには、一見すると単なる浮気をするクズのようにも見えますが、彼女の行動や感情には現代の若者のリアルが詰まっています。忙しい彼女を待ち続ける寂しさや、誰にも相談できない孤独感、そしてその感情をSNSで発散するという現代的な手法。これらは、多くの読者が共感できるポイントです。

七瀬に対するゆにの愛情は本物でありながら、寂しさや裏切りという負の感情に押し流されていく様子が非常にリアルに描かれており、ゆにというキャラクターに感情移入しやすいです。彼女は弱々しく、不安定で、時に自分勝手な行動を取ってしまいますが、それが人間らしく、リアルに感じられる部分です。

一方で、風羽子というキャラクターは物語を大きく動かす存在です。彼女は自分が欲しいものを手に入れるために、どんな手段でも使うという積極的な性格を持っています。その大胆さと冷静さは、読者にとって魅力的であり、彼女の行動が物語のテンポを引っ張っていくのです。時に風羽子が物語の中心に立つことで、彼女の行動に感情移入し、彼女にも幸せになってほしいと感じる読者も少なくないでしょう。

テーマとメッセージ

この作品の大きなテーマの一つは、「秘密の恋愛」と「寂しさ」です。現代社会において、同性同士の恋愛はまだまだ周囲の理解が得られないことが多く、ゆにと七瀬の関係もその一例です。彼女たちが学校で恋人同士であることを隠さなければならない状況が、二人の関係に緊張をもたらし、さらにゆにが寂しさを感じる要因となっています。この「寂しさ」は、読者にとっても非常に共感しやすい感情です。特に現代の若者は、忙しい日常や人間関係の中で孤独を感じることが多く、その寂しさをSNSで発散するという行動は非常にリアルに感じられます。

裏垢での発信という行為も、現代の若者文化を反映しています。誰にでも見られても構わないが、誰かに自分の気持ちを知ってほしい、という微妙な心情が込められています。ゆにがSNSに投稿することで、彼女は一時的に自分の感情を解放することができますが、その行動が彼女自身や周囲の人々にどのような影響を与えるかは、物語が進むにつれて明らかになっていきます。

さらに、「浮気」や「裏切り」といったテーマも扱われています。ゆにが七瀬だけではなく、他の人に目を向けてしまう瞬間、彼女の心の揺れが細かく描写されています。これにより、物語はただの百合漫画やラブコメディではなく、より深い人間関係や感情の葛藤を描いた作品へと昇華しています。

絵の美しさと作品の魅力

『今日はカノジョがいないから』のもう一つの大きな魅力は、作画の美しさです。レビューでも多くの読者が触れているように、キャラクターの描写が非常に繊細で、特に髪の毛や瞳の描き方が美しく、ページをめくるたびに引き込まれます。漫画としてのビジュアル表現が、この作品の感情表現や物語の進行をさらに引き立てています。

また、キャラクター同士の距離感や感情のやり取りが丁寧に描かれており、それが作品全体の雰囲気をより魅力的なものにしています。特に百合漫画として、キャラクター同士の微妙な関係性や、友達なのか恋人なのか、浮気なのかといった曖昧な境界線が描かれている点は、百合ジャンルのファンにとってはたまらないポイントです。

まとめ

『今日はカノジョがいないから』は、単なる百合漫画や恋愛漫画ではなく、現代の若者が抱える孤独や寂しさ、裏切りや葛藤を描いた非常にリアルな作品です。ゆにと七瀬の秘密の恋愛を通じて、読者は恋愛の喜びだけでなく、その裏に潜む不安や孤独感にも共感せざるを得ません。そして、風羽子というキャラクターが物語に新たな風を吹き込み、さらなる展開を期待させます。

この作品は、絵の美しさやテンポの良さもさることながら、キャラクターたちの心の動きや人間関係が丁寧に描かれており、読者に深い感情的な体験を提供してくれます。百合ジャンルが好きな方にはもちろん、恋愛における葛藤や孤独を描いた物語が好きな方にも強くおすすめできる作品です。

▼ぜひ読んでみてください。


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