北朝鮮の軍事パレードはいつ実施?平壌の衛星画像を分析
亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917)
はじめに
2022年12月の時点で北朝鮮が平壌で軍事パレードを準備している旨の報道や分析が盛んになされていますが、その後の続報を聞きません。
北朝鮮は「国防5か年計画」に基づいて新型ICBMなどの開発を目標としていることから、次回の軍事パレードでそうした新型兵器(またはそのモックアップ)が登場する可能性があるため、その内容には大いに注目されます。
実施される時期については不明ですが、軍事パレードの訓練場として知られる平壌の美林(ミリム)飛行場の衛星画像を確認すれば訓練の状況から、その時期を推測することは可能と考えます。
以上のことから、当記事では同飛行場における軍事パレードの訓練状況を衛星画像で分析・考察していきます。
手法について
まず、タイトルにあるように「いつ実施されるのか」推測する手法について説明していきます。
北朝鮮の軍事パレードが実施される1~3か月前あたりから、美林飛行場の一角にトラックが集結し、金日成広場を模した中心部で兵士が閲兵隊列を組んで行進の訓練をしている模様が衛星画像でキャッチされて軍事パレードの兆候として把握されるのが2010年ころから恒例となっています。
衛星画像でも、閲兵隊列(縦隊)や(トラックを除く)装甲戦闘車両などの数や動きから軍事パレードの規模や時期を推測することが十分可能です。
つまり、過去の事例の把握と撮影された際の状況の考察が重要なカギと言っても過言ではありません。
衛星画像とその分析
1 美林飛行場の位置
まず、美林飛行場の場所から説明します。同飛行場は平壌西側に位置す
る小規模なものですが、よど号ハイジャック事件でよど号が着陸した場所
としても知られています。現在では飛行機の離着陸には使用されていませ
ん。
2 美林飛行場の状況
(1) 全体の状況
2023年1月9日に撮影された衛星画像を見ると、一見して閲兵隊列の
訓練状況などがはっきりとわかる、平時とは異なる状態であることが確
認できました。
(2) 軍事パレードの訓練状況について
上記の画像を細かく精査したところ、下の画像のような状況が確認で
きました。次からは、画像に区分けしたものを詳しく見ていきます(ト
ラック類は省略)。
ア 閲兵隊列全体の状況
閲兵隊列(衛星画像上では黒い正方形状のもの)は数えると約41個
確認できました。過去の軍事パレードでは1隊列が276人(指揮官や
旗手などを加えると281人)でしたので、参加する軍人は単純計算す
ると最低でも11,521人にはなります。
ただし、昨年4月の軍事パレードは隊列がそれ以上ありましたの
で、規模は例年より小さいのかと判断するのは早計です。なぜなら
ば、この後に訓練する人数が増える可能性があるからです。
イ 飛行場中心の閲兵隊列の状況
全体的に黒色で統一されているように見えます。通常は衛星画像上
でも確認できる白い服装の陸軍第12軍団、海軍縦隊や海軍大学縦隊、
それに一部が白色である金正日軍政大学縦隊は明らかに確認できませ
ん。服装を閲兵用ではない通常の軍服を着装しているのか、それとも
単にまだ訓練に参加していない(今後参加する)のかは不明です。
ウ 飛行場南側の閲兵隊列の状況
過去のものと異なり、明らかに通常の隊列と異なる白い縦隊が右端
にいることがわかります。軍事パレード本番を考慮するとパレードの
先頭にいるように見えることに加え、人ではない物体が密集している
状況を考慮すると、これは2020年からパレードの先頭に立つ名誉騎兵
縦隊である可能性が高いと言えるでしょう。仮に馬であれば、この冬
季間に長期間にわたって訓練し続けると馬に負担がかかることは当然
想定されうることなので、この事情を踏まえると軍事パレードはそう
遠くないうちに実施するとみるのが自然ではないでしょうか。
エ 飛行場北東側の閲兵隊列の状況
通常とは異なって横一列の隊列が複数見えますが、どのような部隊
によるものなのかは判然としません。
オ その他
トラックの集結地点の北側に人が密集しているようなものが見えま
す。閲兵隊列の可能性もありますが判然としません。
カ 軍用車両の状況
ここでは確認された軍用車両の隊列を東側から順に考察していきま
す。
(ア) 閲兵隊列後ろの車両の状況
ここでは車両が19台行進している状況が確認できました。気にな
るのは、通常ならば車両の1個縦隊は9台で構成されるために赤い
正方形で囲んだように途中で分割されるのが常ですが、下の画像で
示したようにオレンジ色の円で囲んだ指揮官搭乗と思しき車両が1
台しかないことでしょう。
ちなみに、赤い正方形内の車両の長さは約5メートルなので過
去の登場順を踏まえると、Ⅿ-2010装輪装甲車搭載型の「火の鳥-5
型」対戦車ミサイルシステムか、昨年に初登場したスパイク-NLOS
に酷似した新型ミサイルを搭載した小型車両と考えるのが妥当かも
しれません。
(イ) 南北を走る通路上における車両の状況
ここで比較的大型の車両が行進しているという注目すべき状況が
確認できました。一部の車両には積載物が認められないものの、通
常のトラックが走ることは考えにくいので何かの事情でミサイルな
どを取り外した状態で訓練を受けている可能性があります。
各車列は指揮官が搭乗すると思しき小型車両1台と弾道または巡
行ミサイルの自走発射機と思しき大型車両2台の計3台で構成され
ていますが、通常の車列は小型車両1台と大型車両9台程度である
ため、これを基準に区分けすると各列の数が明らかに足りません。
今後は徐々にその数を9台(緊急用の予備車を含めて10台)程度
まで増やして訓練を重ねていくと思われます。
また、大型車両の長さは最大で約9メートルしかないため、仮に
弾道ミサイルでも短距離弾道ミサイル(SRBM)のような戦術ミサ
イルでしょう。
(ウ) 飛行場南西側一帯における車両の状況
ここでは複数の軍用車両が確認できましたが、種類の特定まで
には至る画質ではありません。ただし、概ね数種類に区別するこ
とだけはできました。
赤色の正方形で囲んだ車両は全長が約7,8メートル程度のた
め、SRBMの自走発射機や自走榴弾砲かもしれませんが、数が9
台に満たない点が気になります。その他の車両の判別は困難を極
めますが、装甲戦闘車両の類であることだけは間違いなさそうで
す。特に緑色の正方形で囲んだ車両には砲身らしき影が見える点
に注目です。
(エ) 飛行場南西角における車両の状況
ここでは2台の軍用車両らしき物体が認められましたが、特に
言及すべきものはありません。
キ 大規模車両保管施設の状況
2020年夏頃に完成した軍事パレードに参加する戦車や弾道ミサイル
などの自走発射機を収容するこの施設には、敷地及びその周辺の道に
多くの車両が通過して生じたと思しきタイヤ・キャタピラ痕が多く残
されていました。昨年9月に撮影された衛星画像ではなかったため、
これはパレードの訓練での移動が頻繁に行われていることを示唆し
ています。
ところで、オレンジ色の正方形で囲んだ物体は2020年10月10日の直
前に登場した謎の施設であり、「大型ミサイルや自走発射機用の一時
的な簡易保管庫ではないか」などと言われてきましたが、今回撮影さ
れた画像では一部が大きく損壊している状況が認められました。これ
が一体何を意味しているのかは謎ですが、保管庫ではない可能性も出
てきましたので今後も注視していく必要がありそうです。
ク テント・バラックの状況
上記の大規模車両保管施設と同時期に完成した大型の施設の中庭は
青色などの屋根を持つ小さな物体が密集している。これは日本海側の
元山でも見られたもので、展開した軍人が寝泊まりするための一時的
な大型テントまたはバラック状の小屋です。
大型の施設に寝泊まりできないのかは別として、相当規模の人数が
美林に展開し続けている状況が一目瞭然となっています。
結論
以上のように衛星画像から判明した事項を総合すると、日時の特定までは断定できない北朝鮮が少なくとも3月以内(早ければ2月)に軍事パレードを実施する可能性が極めて高いという結論に達しました。
人員の集結状況を踏まえると1月9日時点ではパレードが差し迫ったとまでは言えませんが、12月に兆候がキャッチされ始めたことや参加する馬の状況からすると(恒例のとおり)3か月後、すなわち2月頃に実施すると考えて差し支えないでしょう(2月16日は金正日の誕生日ですが、節目ではないため考えにくいです)。
特に、今年の2月8日は朝鮮人民軍創建75年記念日であるため同日に実施する可能性は特に強いと言えます(2018年にも実施しているため)。
昨年は火星砲-17の発射に成功した北朝鮮は次の軍事パレードで何を披露するでしょうか?その動向が注目されます。
参考資料
North Korea steps up military parade training, pointing to large-scale event
https://www.nknews.org/pro/north-korea-steps-up-military-parade-training-pointing-to-large-scale-event/
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