北朝鮮が今年に実施した多連装ロケット砲の発射試験場所の特定
亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917)
はじめに
今年に入ってから、北朝鮮は新たに開発したとする240mm操縦ロケット砲弾(誘導ロケット弾)と更新型240mm多連装ロケット砲の試験・検収射撃を数回実施しています。このロケット砲及び砲弾は旧式化した同後継のロケット砲を更新するものであり、精度や威力が増大しているとのことなので、核・ミサイルではない通常戦力の強化の一環として注目されます。
今回は発射地点や場所を特定することができたので、特定した順から紹介していきます。
8月27日の検収試験射撃
8月28日、朝鮮中央通信は「金正恩総書記が国防工業企業所で生産している240ミリロケット砲兵器システムの検収試験射撃を視察」という記事を配信しました。これについては発射地点こそ特定できなかったものの、着弾地点については公開画像と衛星画像の照合で容易に特定することができました。
配信された画像では着弾地点が上空から撮影されたものが含まれていました。これで、①形状は横長または縦長の島、②左側の下にL字状の突堤らしき構造物がある、突堤の直近が着弾地点で周囲に地面が剥き出しとわかります。
ここから衛星画像で特徴に合致した場所を検索します。そうしたところ、平安北道の南端に位置するTaeyom-doの南東端( 39°30'16.58"N、125° 6'33.37"E)が特徴と合致しました。詳しく見てみましょう。
衛星画像と配信された画像を比較すると一目瞭然ですが、形状や先に判明した事項が完全に一致しています。というわけで、10月8日の試験で標的となったのはTaeyom-doということが確定しました。
10月8日の検収試験射撃
10月9日、朝鮮中央通信は「240ミリ操縦ロケット砲弾の検収試験射撃」という記事を配信しました。画像は4枚を一つにまとめたものでしたが、着弾地点の画像が先に紹介した8月のものと構図が一致しているため、今回もTaeyom-doの南東部を標的に射撃したことが分かります
今回の記事では「最大射程67キロに対する操縦ロケット砲弾の命中正確度を再確認するのに目的を置いて」という文章があったことから、概ねの発射地点を特定できる可能性が出てきました。まずは配信された発射時の画像を確認しましょう。
左上の画像を見ると、①手前に木、②橋の付近で発射、③比較的広い道路、④橋の付近だけ手すりとガードレールが存在(橋には欄干がある)、⑤橋の両端の下にはコンクリの壁が設置、⑥周囲に田園風景、⑦発射角度的に道路は南北を通る位置、⑧南側に山という特徴を読み取ることができます。
発射地点を軸に半径67kmで円を置き、付近に特徴と合致しそうな場所を探します。そうしたところ、67kmの線の外縁と高速道路の橋と思しき場所が合致しました。しかし、橋の長さが大きく周囲の地形も配信画像と合致しません。ただし、北朝鮮ではこの手の整備された広い道路が少ないため、南北を通る位置を軸に検索してみます。
上の画像の道路を左側に進んでいくと、ちょうど南北ではないものより角度が急なルートで合致しそうなポイント( 39°43'35.10"N、125°47'14.02"E)を見つけたので、その周辺を細かく観察していきます。
グーグルアースで精巧な衛星画像が公開されていたことから、上記の判明事項及び配信画像と照合した結果、ここの橋の上が発射地点であることを特定しました(結果は下の画像)。
以上で10月8日の検収射撃の発射地点及び着弾地点を特定しましたが、距離を計測したところやく63kmでした。最大射程67kmには及ばなかったものの、それに近い飛距離を記録したことは位置特定によってある程度は証明されました。
5月10日の試験射撃
5月11日、朝鮮中央通信は「金正恩総書記が更新型240ミリロケット砲兵器システムを確かめ、操縦ロケット砲弾の試射を視察」と報じました。今回は発射場所と着弾地点が公開されていますが、後者は今までと場所が違うように感じます。確認してみましょう。
比較的情報量が多いですが、画像から判明する発射地点は、①発射場所は比較的広い道路、②付近まで中央分離帯があり、その直近の左右は木が生い茂っている、③道路は水田に囲まれている、④発射方向側に集落が存在し、その横にはスローガンが書かれた看板が設置、⑤民家の奥に山があるが半分ははげ山状態、⑥発射地点の道路両端は数十メートルにわたってガードレールが設置という点です。まずは公開された画像、次に画像から判明する事項を見いだします。
こうして判明した事項と画像を整理して頭の中で「配置図」をイメージし、それと合致する衛星画像を検索していきます。今回も広い道路なので、先の同道路を綿密に追っていくと、それらしきポイント(39°23'38.54"N、125°40'39.18"E)が見つかりました。これも照合していくと以下の画像のとおりとなります。
上の画像をアップしてみると、道路の横の一部にガードレールが設置されている箇所がありました。発射されて数日後の5月14日の衛星画像ではロケット弾の発射炎で道路のアスファルトが焦げたような痕跡も見られました。以上の点から、ここが5月10日の発射地点と特定できました。
ここからは着弾地点を探します。配信された画像は地面と海しか見えないために困難に見えますが、ロケット弾の発射位置と方向から「平安北道または平安北道の沿岸付近(黄海側)ということは分かります。
ここで、金正恩総書記が着弾の状況を確認するモニターに映し出された空撮及び衛星画像がヒントとなります。
モニター右上の衛星画像を確認すると、周囲の地形から着弾地点が先に紹介したTaeyom-doである可能性が高いと判明しました。
ただし、着弾地点は前回と明らかに違います。金正恩総書記が眺めていたモニターでは空撮映像もあったため、それと衛星画像を照合していきますと、ちょうど地形が一致するポイント( 39°30'23.30"N、125° 6'27.94"E)がありました。他に合致する点がないため、ここが着弾地点と特定に至りました。発射地点と着弾地点の距離は概ね50kmでした。
4月24日の検収射撃
4月25日、朝鮮中央通信は「金正恩総書記が新たに設立された国防工業企業所で生産した240ミリロケット砲弾の検収試射を視察」という記事を配信しました。配信された画像では着弾地点の特定は不可能でしたが、発射地点を容易に特定できましたので、簡単に紹介します。
画像の通り滑走路の射撃ですが、問題はどこの滑走路かという問題が生じます。ただし、空軍基地では滑走路には中央の白線以外に太い白線も等間隔に配置してあるので、場所は基本的に民生用の空港であることは明らかです(必然的に軍用飛行場は除外される)。そうなると順安(平壌国際)空港しかないわけですが、具体的な位置を特定しなければなりません。
結論を言うと、発射地点の座標は 順安空港の北側滑走路(39°14'28.50"N、125°40'34.35"E)となります。説明するのが大変なので、画像をご覧ください。
2月11日の弾道操縦射撃試験
2月12日、朝鮮中央通信は「朝鮮国防科学院が操縦ロケット砲弾を開発」という記事を配信しました。配信された画像では発射地点を特定することはできなかったものの、空撮映像により着弾地点が平安南道のMugni-do( 39°17'25.71"N、124°44'6.44"E)と特定できました。
空撮された場所が島であることは明らかでしたので、島らしい島を単純にしらみ潰しした結果、Mugni-doと判明したわけです(特定作業らしいことはしていません)。
おわりに
最後に、今回把握した場所の位置関係を示す衛星画像を紹介します。印象としては、判明した発射地点が滑走路や整備された道路だったということで、荒れ地などでの運用が未知数な点が気になりました。