見出し画像

北朝鮮の超大型多連装砲「KN-25」の発射痕が確認された

亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917

はじめに

 今年5月31日、北朝鮮の朝鮮中央通信は「600ミリ超大型ロケット砲兵区分隊の威力示威射撃に関する報道 金正恩総書記が威力示威射撃を直接指導」という、いわゆるKN-25 600mm超大型多連装ロケット砲(実質的には短距離弾道ミサイル)の射撃の模様を報じました。この射撃について我が国の防衛省は5月30日に平壌近郊から複数発の発射があったと公表しましたが、北朝鮮側が公表した画像では18台の自走発射台から各1発、つまり18発が撃ち出される様子が見られました。
 北朝鮮が一度にこのような数の「ミサイル」を射撃することは極めて異例であり、SNS上では「合成ではないか?」とする意見も散見されました。
 衛星画像を確認したところ、この18発の射撃を裏付ける痕跡が確認されましたので、簡単に説明します。

場所

 場所は公表された画像から、平壌国際空港(順安空港)の北側滑走路から発射されたことが一目瞭然です。画像を比較すれば明らかなので、詳細な設営は省きます。

順安空港からのミサイル発射は珍しいものではない Image ©︎ 朝鮮中央通信
場所の特定は衛星画像で一目瞭然である  Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

発射の痕跡

 問題の痕跡は6月5日の衛星画像ではっきり確認できます。5月13日に撮影された画像と比較してみると、6月の画像には滑走路上に噴射炎でできたと思しき黒点が見えました(画像では赤矢印の先にあります)。

滑走路の北側 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 滑走路の北側には円形状の黒点が9か所ありました。これは5月には存在しなかったものです。

上の画像を拡大したもの Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 滑走路の中央部も見てみますと、これも先の画像と同様に5月には存在しなかった黒点が12か所(うち3か所は先の画像と重複しているもの)が確認できました。

滑走路の中央部:この画像でも黒点が確認できる(オレンジ色の矢印は北側で確認した黒点を指す) Image ©︎ 2024 Maxar Technologies
上の画像を拡大したもの Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 こうして見ると、滑走路上の黒点については、
   ①5月13日から6月5日の間に生じた
   ②全部で18個ある
   ③整然と一列に等間隔に近い状態で存在している
ことが判明しました。

黒点を滑走路の北側から番号を割り振った画像 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies
同上 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies
同上 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies kokutenn
黒点⑨~⑪の拡大図 Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

本当にKN-25の発射で生じたか(位置の整合性)

 18発発射されたKN-25の発射位置に同数の黒点が等間隔に(しかも6月5日前に)生じている以上、発射の噴煙で生じたものと判断することは簡単ですが、位置の整合性を確認する必要があります。そこで、下の図で比較したところ、位置が朝鮮中央通信が配信した画像の発射位置と概ね一致することが確認できました。

検証した結果:黒点⑤⑪⑭⑰が滑走路西側の太い白線の下側に存在すること、①は滑走路と誘導路(通路)の丁字路の中心付近に存在、の2点を中心に確認した。Image ©︎ 2024 Maxar Technologies と朝鮮中央通信

 結果としては、この黒点がKN-25発射の痕跡であることは極めて高いと思われます。つまり、朝鮮中央通信が配信した画像や朝鮮中央テレビが放送した映像は合成ではなく、北朝鮮が本当に18発を発射した可能性が極めて高いことを裏付けます。
 この超大型ロケット砲は直接的に日本の脅威とはなりませんが、国際連合安全保障理事会決議第1718号の「北朝鮮に対し、いかなる核実験又は弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求する」という部分に抵触しますので(「その他の既存の大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画を、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で放棄することを決定する」という部分も同様)、国際社会と連携して対応を図る必要があることは言うまでもありません。
 この超大型ロケット砲は弾道ミサイルなのかという問題は残りますが、核弾頭の搭載が前提とした開発・運用が成されている以上は上記の決議に抵触する可能性が極めて高いと思われます(実際、決議逃れでロケット砲という分野で開発した可能性すらあるでしょう)。
 KN-25は初登場から5年となりますが、この発射で着実な部隊配備と運用が進められていることが明らかとなりました。9月12日には新型自走発射台から試射をするなど、北朝鮮では積極的な改良を推進しているため、今後のその動向を注視していく必要があるでしょう。

おまけ

 朝鮮中央通信によると、5月の発射は「砲兵連合部隊管下第331赤旗砲兵連隊第3大隊が参加」し、「第3大隊の各火力襲撃中隊に火力任務に対する党中央軍事委員会の秘密暗号指令文が伝送され、統合火力指揮システムによる大隊一斉射撃が行われた」とあるため、普通に考えると自走発射台18台で1個大隊を構成しているものと思われます。
 実際、北朝鮮の240mmロケット砲部隊は1 個中隊に3台の自走発射台が装備されていることになっており、1 個大隊は6個中隊で編成されるため(つまり1個大隊で18台)、KN-25中隊についても同様と考えられます(この情報源は秘匿とします)。

参考資料

600ミリ超大型ロケット砲兵区分隊の威力示威射撃に関する報道 http://kcna.kp/jp/article/q/0ed5601b620c10d50e1f2f6950834d18.kcmsf  
・国際連合安全保障理事会決議第1718号 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/anpo1718.html

いいなと思ったら応援しよう!