
ビーチに行くと、決まって砂浜の中に隠れた きれいな小さな貝がらを集めることを夢中になる。
淡い桃色や、海にうつる空の色をしたもの、真珠のようにつやっと光る小さな宝石たちを手のひらいっぱいにあつめて、その日発掘した小さな可愛らしいコレクションを眺めていると なんだか幸せな気持ち。
帰り際、ふと砂浜に転がる見慣れた果毬を見つけた。
先程までうっとりと見惚れていた宝石たちのその色彩とは似つかない、くたびれて 黒くガサガサとした佇まい。
なんだか急に気になって、ふと手にした松毬。
海を泳いできたのだろうか。
少し痩せて朽ちている。
どこの国から来たのだろうか。
松毬の持つ不思議な魅力に惹かれてしまい、持ち帰ることにした。
松毬の物語を聴かせてほしい。
そんな気持ちになった。
偶然にもアジアのどこかから海へ出たのだろうか。
川から海へ漂流したのか、
それとも誰かが海に浮かべて流れ着いたのか、
鳥のくちばしから海へポトリと落とされたのか。
ぜったいに知ることができないことへのロマンチックな期待で胸が湧く。
海をわたる松毬。
どんなに美しい空を見てきただろう。
どんなに寂しい空の色を見てきただろう。
太陽に照らされた水面の眩しさに目を眩ましながらも、
波の音楽や 鳥たちの唄声に聴き入ったのかもしれない。
海を泳ぐ魚たちの鱗はどんな色に光っていただろう。
海の住人しか知らない、真っ暗な夜の海を一体どれくらい過ごしたのだろう。
びっしりと散りばめられたダイヤモンドのような夜星の海を、うっとりした顔で漂っていたのかもしれないと思うと この松毬が羨ましい気持ちになってくる。
ところどころ朽ちて、触ったら折れてしまいそうな鱗片の間には星空を纏ったようにキラキラと砂の粒が光る。
旅の途中に出逢ったであろう海藻たちのリボンを着飾って随分とお洒落な松毬だ。
海の旅が終わり、流れ着いた先でこのまま朽ちて自然に還っていくであろうというときに、拾われて棚に飾られるなんてことはきっと想像もしなかっただろう。
いや、むしろこんなに磨かれて美しい自分を拾わないやつはいないとばかりに、誰か来るのを待っていたのかもしれない。
海をわたる松毬の物語。
想像するだけでうっとりしてしまう。
棚に飾られた松毬を見るたびに、その不思議な海の旅に想いを馳せるだろう。
自然がもたらす日々の偶然は、美しい物語を聴かせてくれる。