大都会
夕方から仕事だが、酒を飲みに夢庵へ来た。昼メシどきなのでばちぼこ混んでいる。待ち合い用のソファに座っていると、聞き覚えのある名前が耳に入ってきた。前の方に座っている主婦二人が私の上司の愚痴を死ぬほど吐いていた。内容からなにから全て当てはまる事ばかり話している。
上司が常勤している店舗はこの夢庵から近いが、私が常勤している店舗はここから駅五つほど離れている。上司の常勤店舗には最近ヘルプで行ったり、物の貸し借りなどで何度か出向いているので。
(……知ってる顔か?)
レジで会計している客を見る振りして顔を確かめる。
知らない!誰だ!
一人の顔面は拝めたが、連れの顔面はレジの方角に全振りしているので全く見えない。
近藤春菜みたいな店員が声を張り上げる。
「二名様でお待ちの、竹田様〜!」
二人は立ち上がり、店内奥へと向かう。
(竹田?知らねぇ!)
その刹那。
もう一人の顔面を確認する事ができた。
(う…内田さんじゃねぇか!!!!)
何回か会ってる内田さん。
顔はシュッとしてるのに下半身しっかりしてる内田さん。
子持ちの内田さん。
阿佐ヶ谷姉妹みたいな顔の竹田。
恐らく俺の顔は内田に割れている。
出勤前に酒を飲んでいる事がバレてしまう!
そして上司にチクられるぞ!
おい角野卓造!
空のビールジョッキを早く下げろ!
内田に見られるだろう!
注文タブレットの後ろにビールを隠しながら、特盛そばのランチセットを食べている。なぜ。なぜこんなにびくびくしながらメシを食わなきゃいけないのか。
誰もいないところで。
誰もいないところで、暮らしたい。