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いい奴
半年くらい前、昔よく遊んでたカマキリから飲みの誘いがあり、俺たちの思い出の地、錦糸町で二人で飲んだ。
十年振りに会うカマキリは何ひとつ変わってなく、昔話に花を咲かせた。
「話足りないな!近々また飲もうぜ!」
それから一ヶ月後、今度は俺たちの思い出の地、池袋で飲んだ。やはり二、三時間では話し足りなく。カマキリの終電も無くなったので俺の家で飲み直す事になった。
「いやぁ、ホント楽しいなお前と飲むのは!」
カマキリは終始上機嫌だ。
昔からだが、こいつは酔っ払うと一生話し続けている。
「前からそうだけど、やけにテンション高いなw酒弱くなった?」
俺がそう聞くと
「いや。実はさ。お前にだけ話すんだけど。」
カマキリが、吸っていた電子タバコを指さす。
「これ。普通の電子タバコじゃないのよ。」
ひと吸いしてから、その電子タバコとシンナーと葉っぱと後なにやら覚えていないがいわゆるヤクと呼ばれている物の中でも違いがあるという話の説明をべらべらと矢継ぎ早に語り出した。
「まぁとにかく。中毒性はないのよ。次の日ボーッとするくらい。芸能人とかがよく捕まってんだろ?クスリで。あれの百分の一だと思ってくれて構わない。お手軽に気持ちよくなれんのよ。これ無いとヤバいの!ちょうだいよぉ!とか、痙攣し出すとか、そういう症状が全く出ないブツ。」
俺はラッパーは好きだがそういうクスリ系の情報に関してはほぼ無知に近い。
「へぇ。まぁ、中毒性無いなら大丈夫かぁ。」
「一回キメてみ?やべぇぞ。」
カマキリに勧められ、一吸いする。
「肺に入れるなよ。タバコと違うからな。ふかせ。」
ふかす。
「もう二回くらい。それでキマっから。」
二回、ふかす。
「おぉぉおぉ。すげぇな。これが、キマる!かぁ!」
とてつもなく気分が良くなった。
今ならなんだって出来るとさえ思えた。
とにかく、気持ちがめちゃくちゃハイになる。
「これ、やばくね?絶対中毒性あるだろwお前wヤバいもん吸わすなよw」
「いや。これがホント無いのよ。酒たらふく飲んでさ。めちゃくちゃテンション上がるじゃん?そんで次の日二日酔いで死ぬだろ?それと同じ。」
薄壁のボロアパートで、俺たちが好きなラッパーの曲を爆音で流しながら、二十分くらいハイになった。
しばらくすると頭がぐるんぐるん回る。
何も考えられない。
カマキリは何か話しているが、内容もなにも聞き取れないし、理解もできない。
十分くらい、にやにやしながら、ぼーーーーっと壁を見つめていた。
徐々に頭がすっきりしてくる。
「波があるのよ。お前は早い方だな!ダウナーとアッパーって言ってな。キメた時にどっちに転ぶか別れんだけど…」
相変わらず一生喋り続けている。
この一連の流れを体験して、カマキリは完全にハマっちまってるな。と感じたので、俺はこれ以降ひと吸いもしなかった。
それから週一くらいでカマキリからLINEが来るようになった。彼女もいる、仕事も順調なのに、俺と会いたがっている。恐らく、一緒にキメたいのだろう。彼女には話していないらしい。周りの人間にも。俺にだけ話して、俺とだけキメたらしい。
女に困らないイケメン高身長のカマキリ。
クズだが情に熱いカマキリ。
衝動的に動いている風に見えるが、しっかり計算して行動するカマキリ。
最近ジムに通い始めてムキムキなカマキリ。
なにがあってああなってしまったかはわからないが、しばらくあいつとは会わないようにしようと決めている。
カマキリにはカマキリなりの苦労があるのだ。
俺もあいつと会ったら、一緒にキマってしまう。
なぜなら、俺もカマキリも「いい奴」だから。