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時刻表復刻版のたのしみ

 JTBパブリッシングが新幹線開業時の時刻表の復刻版を出したのは、2019年夏のことだった。
 時刻表復刻の試みははじめてではなかったものの、紙での復刻は珍しい。
なぜこのタイミングで出したのかと思って読み返してみると、巻頭にこうあった

2020年はいよいよ東京オリンピックの年。本書は前回の東京オリンピック開催、そしてそれを契機に開業した「新幹線」のダイヤが初めて掲載された時刻表を復刻したものです。

 なるほど、いまさら知ったけど、一種のオリンピック関連本だったのか。
 開業時の新幹線は、東京から新大阪まで。《ひかり》と《こだま》がそれぞれ一時間に一本ずつ走るだけの、ずいぶんのんびりしたダイヤだった。いまでいう東海道新幹線しかなかったから、「新幹線」といえば、それだけで東京~新大阪の路線を意味した。

 どうも時刻表の復刻は好評だったようで、これ以降も時々刊行されている。
 つい最近出た1986年11月号が第12弾だったので、だいたい半年に一冊のペース。もう少し頻繁に出してくれてもいいけど、復刻に値する号も無尽蔵にあるわけではないし、乱造して売れなくて刊行が終わっても困るので、このくらいのペースがいいのかもしれない。
 古い時代の時刻表をパラパラ眺めるほど楽しい時間はない。よく、無人島に本を一冊だけ持って行くならという問いに「辞書」という答えがあるけれど、「古い時刻表」というのもいい回答だと思う。
 「古い」と注釈付きなのは、懐古というよりも、複雑さが全然違うからだ。新幹線こそ少ないが、いまより路線も列車の種別も多く、行き先もヴァラエティーに富んでいる。新幹線開業時、東京から西へ向かう夜行列車だけで20本以上もある。
 時刻表を読み物として考えたとき、そのおもしろさは複雑性に拠るところが大きい。だって、新大阪行きの《ひかり》と《こだま》が30分ごとに出ているだけの時刻表なんて、あんまりおもしろくないでしょう。そこから乗り継ぎをするからおもしろいのであって、路線や列車の種別が多ければ、選択肢が増えて、そのぶんだけ複雑に、おもしろくなっていく。
 やはり無人島に持ち込むのは古い時代の時刻表でなくてはいけない。いつが最良かという答えは、まだ出せていないけれど。

 ところでこの一連の復刻版は、もともと存在している時刻表の復刻+数ページのちょっとした解説という基本は変わらないものの、5年が経つと徐々に値段が上がっているのがわかる。
 同じB5版のもので比べると、第3弾から第8弾までが税抜き1,800円。
 第9弾が税抜き2,100円。
 第10弾と第11弾が税抜き2,300円。
 最新の第12弾は税抜き2,500円。
 第8弾が2022年11月の発行なので、2年たらずで4割近く値上がりした。物価高をまざまざと見せつけられているが、それにしたって時刻表復刻版が4割高くなっても僕の収入が横ばいなのは、現代の七不思議に入れてもいい話だと思う。


**メモ:2019年以降の時刻表復刻版の一覧**
(第1弾)1964年(昭和39年)10月号……新幹線開業(東京〜新大阪)
(第2弾)1964年(昭和39年)9月号……新幹線開業直前
(第3弾)1988年(昭和63年)3月号……青函トンネル&瀬戸大橋開通
(第4弾)1968年(昭和43年)10月号……いわゆる「ヨンサントオ」、東北本線の電化完成など
(第5弾)1967年(昭和42年)10月号……ヨンサントオ前のダイヤ、この号からB6版からB5版へ
(第6弾)1978年(昭和53年)10月号……いわゆる「ゴーサントオ」
(第7弾)1925年(大正14年)4月号……JTB時刻表の創刊号
(第8弾)1982年(昭和57年)11月号……上越新幹線開業(大宮〜新潟)
(第9弾)1985年(昭和60年)3月号……東北・上越新幹線 上野開業
(第10弾)1972年(昭和47年)3月号……山陽新幹線 新大阪〜岡山開業
(第11弾)1982年(昭和57年)6月号……東北新幹線 大宮〜盛岡開業
(第12弾)1986年(昭和61年)11月号……国鉄最後の全国ダイヤ改正


古い順
最後(右下)だけJR、あとは国鉄時代

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