7月26日 「行商列車」
7月26日(水曜日)
『行商列車 〈カンカン部隊を追いかけて〉』(山本志乃、創元社、2015)を読む。鉄道を使った鮮魚の行商についての本。「カンカン」というのは、かつて行商にブリキのカンが使われていたことにちなむ。伊勢および鳥取のエリアを部隊に、現在も行商をしている人やかつて行商をしていた人への聞き取りや、魚の行商の歴史を紐解いている。
表紙の写真は、当時日本で唯一の行商専用の貸切列車として、近鉄で定期運行されていた「鮮魚列車」。この本の刊行後、2020年に貸切列車としての運行が終了したが、近鉄のホームページによると現在も一般の列車に行商人専用の車両を連結して鮮魚の運搬は続いている。
僕が高校生だった頃、高松の街中でも通学の途中に魚の行商をするおばさんをよく見かけた。自転車の横に魚を運ぶリヤカーを付けて(サイドカーのようにして)いた。当時は知らなかったが、「いただきさん」というらしい。僕が見たのは海の近くだったので「いただきさん」はもちろん鉄道は使っていなかったと思うが、高校を卒業して香川を離れ、魚を行商する人の姿を見る機会そのものがまったくなくなってしまった。20年前の言葉を交わしたこともないあのおばさんたちは元気なのだろうかと、この本を読んで思った。
かつて山陰本線には始発の滝部駅(山口県)を3時27分に出る超早起きの列車があり、宮脇俊三は編集者に「下関や門司へ魚を運ぶカツギ屋のおばさんばかり乗るらしい。あれに乗ってみたい」と書いていた(たぶんこの希望は実現していない)。ほかにもまさしく行商人専用の車両をつないだ列車とすれ違った際にその様子を書いていたり、同じ車両に居合わせた行商人たちの姿を描いたりと、宮脇作品では鉄道の中の行商人が時たま登場する。主に70年代~80年代の話だが、行商人に対する宮脇俊三の視線は、いつも愛情がこもっているように僕は感じている。
だから2010年代でも行商の列車が健在だったのに驚いたし、著者(山本さん)も書くように、記録を残すにはギリギリのタイミングだったということは想像できる。だからこそ、一冊の本にまとまったことがありがたいし、増刷までしていることに(僕が持っているのは2016年発行の2刷)うれしくなる。
この本は丸善の丸の内本店で鉄道のコーナーで偶然見つけて購入した。こういうことがあるから、時々は大型書店に通わなくてはいけない。