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プロスポーツだもの

 何年か前まで、4月なるとブログで「今年も野球がはじまっている」という記事をあげていた。毎年続けていたけれど、2018年の記事を書いてアップロードまで少し温めているうちに機を逸して投稿せずじまいになり、それを最後に書かなくなった記憶がある。内容は毎年、今年の西武ライオンズの状況とか注目すべき選手の紹介とかパ・リーグの展望とかで、最後は今年のパ・リーグは西武の優勝という景気のいい締めくくりをしていた。
 景気のいいことを書いても当時の西武は2008年を最後に優勝から遠ざかっていてパッとしない時期だった。ところがアップロードをやめた2018年に久しぶりに優勝をしたから、なんだか損をした気分がした。

 プロ野球を見ていると、ひいきのチームが負けると不機嫌になる人がけっこういるということを聞く。最近だとそれをたぶんSNSあたりで書いている人も多いのだろう。
 そりゃ応援しているチームが負ければ私だっていい気分ではないけれど、機嫌を悪くするまでいくのは、ずいぶんと損だなというか、大変だなという気がする。どんなに強くたって10回に3回は負けるのだ。2週間に3回も不機嫌になっていたら身が持たない。まわりの人も大変だろう。
 スワローズが弱いころから応援しているので負けるのが当たり前、勝てばラッキー、みたいな村上春樹の心境にまでは到達しないにしても、そりゃ負けることだってあるさ、プロスポーツだもの、ぐらいの精神でいないと、娯楽でストレス溜めてどうすんの、という感じがする。
 西武は主力選手がポンポンFAでいなくなってしまうチームで、これはチーム運営に何か根本的な欠陥があるのかもしれないけれど、まあこれもプロスポーツなんだから移籍は当たり前で、プロスポーツだもので済ませられる問題ではある。
 ところが西武の観客席は(もしかしたら他のチームもそうなのかもしれないけれど)、他球団に移籍した選手が西武戦で出てくると親の仇を相手にしたようなブーイングを浴びせる。儀式としてのブーイングというよりは、憎悪100%の本気でやっているように見える。今年は出ていった山川に対して、親の仇というより国家的反逆者相手のようなブーイングを浴びせてその異常さがニュースになっていたと思ったら、その次の試合で満塁本塁打を2本打たれたりしていた。
 西武のブーイングはFA選手が出るたびに話題になって、私のような西武ファンはみっともない思いをしている。そんなんだから出て行っちゃうじゃないのか、ええ、と言いたくもなる。今年の山川ほどの騒動ではなくても、そのたびに西武ファンの品格が疑われて評判を落としているので、ブーイングをしているのはほんとうは西武ファンではなく西武ファンの品位を傷つけようとするスパイなのではないかと、正統的西武ファンたる私はひそかに疑っている。少なくとも同じ「西武ファン」として一緒くたにはしてほしくない。

 数年前からヨーロッパの自転車ロードレースに夢中になって、最近ではプロ野球よりも熱心に見ている。自転車は歴史ある世界的なスポーツであるにもかかわらず、経営基盤が脆弱で、毎年スポンサーが変わってチーム名が変わるチームがあるし、たまに突然消滅してしまうチームもある。ウェア(ユニフォーム)も毎年違うし、選手の移籍も当たり前で、毎年シーズンインをすると、えーと、今年このチームはこういう名前に変わって、こういうウェアになって、この選手がこのチームに移籍して、という確認からしないといけない。関係者は大変だろうけど、部外者にとってみたらこういう綱渡り的な運営がスリリングでもある。
 自転車は基本的にはそのレースで勝つのは1人しかいない。150人以上走って1人しか勝たないし、チーム数で見ても20数チーム出場して1チームしか勝たないわけだから、弱くても10回に3回は勝つことが期待できる日本のプロ野球と比べると期待値はぐんと下がる。
 だから、弱いころから応援しているから負けても平気という村上春樹的理由ではないけれど、自転車ロードレースに熱中するようになって、負けるのが当たり前という感覚は自然と得られた。一喜一憂しても仕方がなくて、選手たちだってプロだからとんでもない負け方をした次の日にも何食わぬ顔で(少なくとも表面上はそう見せて)普通にレースを走っている。だから見ている方としても、そうだよな、プロスポーツだものな、という気分でのぞまないといけないのだ、という気持ちになる。
 勝者が一握りなぶん、勝っても負けても、今日はこの選手のここがよかったとか、惜しかったけど次につながりそうだとか、そういうポジティブなところに思いがいく。これも精神衛生上とてもいい。
 まあ実際には私は特定のチームや選手を応援しているわけではなくて、レースによって応援の対象が変わるし、このスポーツ全体に魅力を感じていて誰が勝ってもうれしいので、プロ野球の見方とは同じとはいえないのだけれど、応援したチームが負けたり選手が移籍してしまったりするたびに怒っていては、自転車ロードレースを見ることはできないのだ。

 ということを書こうと10日ぐらい前から思っていたところ、最下位に沈む西武はその間も負け続け、この土・日・月は3試合連続でサヨナラ負けを喫した。3試合目(つまり今日ですね)は2点リードしていたところからのサヨナラホームランで、さすがの私も中継を見ていて、むむむという気持ちになった。
 でもまあ、プロスポーツだものな、そういうこともあるよな、むしろ3試合連続サヨナラ負けはプロ野球でもかなりレアだしいいもの見たよな、という思いになったのは、日頃からの精神鍛錬のおかげだろう。
 これは、達観というより諦めなのかもしれないけれど。

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