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父が髪を染めるのをやめた


年に3〜4回、関西の実家に帰省している。

仕事のついでに立ち寄ったり、友達の結婚式だったり、あまり具合の優れない愛犬に会いに行ったり…


地元の駅に着くと、いつも両親どちらかが車で迎えにきてくれる。

その日は父が来てくれて、私は車の窓からみえた姿に驚いた。


父の頭が真っ白だったのだ。


車に乗るとはじまるいつもの質問。新幹線は混んでいなかったか、ごはんはもう食べたのか?ひと通りいつもの回答をし、

少し車が走った頃、私は切り出した。


「なぁ、お父さん髪染めるんやめたん?」


「ああ、もういいんよ。」

もう、いいんよ?
ひっかかったけど、
へぇーくらいのリアクションの私。


「染めへんのも似合ってるんちゃう?そんな白かってんなー」

と引き続き、雑談を続けた。

父は長い間、ずっと黒染めをしていた。

それは記憶を遡っても、幼少期からずっと当たり前のことで、少し白い髪が見えてきたら、母に染めてもらっていた気がする。いつの間にか黒い髪になれていた私は、父の髪がこんなにも白くなっていることを知らなかったのだ。


その晩、母にも尋ねてみた。


「お父さん、髪染めるんやめたんやな。何でやろう」


「そうなんよ!真っ白やろ?あんたが結婚したから、もう染めへんでいいんやって。」


へぇーというリアクションをしながら、父の決断をとても興味深く感じた。


私は三兄弟の末っ子で、父が髪を染めるのをやめる前に入籍をしていた。

父の中で、黒染めは若造りのひとつになっていたようで、私の入籍に伴い、もう若造りをしなくて良くなった。というのが理由ということになる。


私の人生の節目となるイベントが、父の中の何かを一区切りつけると思っていなかったから、その理由は充分に私を驚かせるものだった。


年齢を受け入れる。
何かを受け入れる。

父の今回の行動を私はそれからもよく思い返している。自分もなにか続けていたことを、きっとやめるときがくる。娘の入籍のような何か。私も父のような行動をとる日が来たら、またこのことを思い出すのだろう。

(数年前のお話)

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