僕の、新しい旅の始まり、一九九八年・夏 ❻/六分割

(注:括弧〔 〕は漢字の振り仮名、また欧文の振り仮名の指定。)

 Ⅵ

 イクヨさんへ ―

 無事、テルシェリング(テルスヘリング)行きのフェリーに乗っています。一週間あまりのことを、すごく長く感じます。報告したいことはいっぱいありますが、しつくせないし、島に着いたら、先ずテントを建てたり、自転車を借りに行ったり、買い物をしたり、また忙しくなります。

 一人旅に出て良かったと思います。シンガポールに行ってみて良かったと思います。色んな人に会いました。親切も受けました。一人ぼっちの長い時間も経験しました。あれほど大切に考えていた、自分でもそう決め込んでいた、アヴィ二ョンやバルセロナへの思い込みが、少し色あせた、余計なこだわりが消えたようにも思います。僕がバルセロナを好きになったのは、ひょっとして、バルセロナの中にあるアジア的な、雑多な要素だったのかも知れないと思います。

 もっと世界を知りたいと思います。もっと自分を知りたいと思います。今は、アントニオをうまくやることや、アヴィ二ョンの、バルセロナの大道芸人であり続けることや、文章をうまく書くことや、自分を人に認めさせることよりも、何よりも、この一人旅をきちんと完成させることの方が、大切なことのように思います。

 まちがえて、高速フェリー(Snel Boot〔スネル・ボート〕)のキップを買ってしまいました。もう、船が着きます。禁煙フェリーで、バーもありません。

 船が着きます。八月に会いましょう!

 一九九八年六月十一日

 たろう

(初稿脱稿1998年7月某日/最終加筆2019年7月某日)


≪大道芸人雪竹太郎文庫≫目次、に戻る。
https://note.com/tarafu/n/n6db2a3425e5c


いいなと思ったら応援しよう!